近年のノーベル物理学賞の対象分野を中心に、まだ若く教科書にも載っていない分野から、ビッグサイエンス、地球温暖化に関わる分野等、幅広く全13回のオムニバス形式で物理学(物性物理、宇宙物理、素粒子物理、量子情報、生物物理など)を説明する。今年度は、2024年の受賞分野の重要性を考慮し、物理学賞受賞のAIと物理学研究へのAI応用という2つのレクチャーを企画した。本講義を通して、物性物理から南部博士が素粒子の対称性の破れを導き、逆に素粒子で考えられていたワイル粒子が物性物理で発見されるなど、各分野が相互に、そしてダイナミックに影響しあいながら発展していく姿を捉えてほしい。
アカデミアを超える広がりは、金融への応用*1はよく知られているところだが、最近では生成AIへの貢献も始まっている*2。気候変化*3/地球温暖化の対策やマネジメントを志す者には言うまでもなくその基礎は物理学である。また、情報技術のインフラは量子物理学から生まれた量子1.0(トランジスタ、レーザー、核磁気共鳴等)だが、近年は量子2.0と呼ばれる量子コンピュータ、量子センサ、量子通信等の研究開発に各国*4で莫大な投資がなされ、数百のスタートアップが起業され、大手企業も参入している。このように、物理学進学希望者、技術者や教職を目指す者はもちろん、国の政策担当を志す者の場合、諸外国の政策担当者は研究者出身であることも多く、カウンターパートとして渡り合うには物理学に対する一通りの理解が求められるだろう。
海外の大学ランキングで東大物理は一桁台*5と卓越しており、世界の学生・教育関係者にも知名度が高い。講師陣はその第一線で活躍する研究者で、駒場での交流を非常に楽しみにしており、研究はもちろん研究生活からキャリア形成まで積極的に質問を受け付ける。本講義を受講することで、物理学各分野の動向を俯瞰的にとらえることができるとともに、自身の将来のキャリアパス形成に参考となる情報を得ることができるためこのチャンスを逃さないでほしい。
*1: 高安美佐子,“経済に物理学は役立つか?”, 日本物理学会誌, 2016 年 71 巻 11 号 p. 732.
*2: Steve Nadis, “The Physical Process That Powers a New Type of Generative AI”, Quanta Magazine, Sept 19, 2023.
*3: 気候変化は学術用語、気候変動は行政用語。
*4: 我が国の戦略は、「量子技術イノベーション戦略」「量子未来社会ビジョン」「量子未来産業創出戦略」の3段階。https://www8.cao.go.jp/*****
*5: 2024年でU.S.News:8位、Shanghai Ranking:6位、QS World University:9位