第二次世界大戦において、日本帝国の軍隊が、戦地に慰安所と呼ばれる施設を設置し、慰安婦と呼ばれる女性たちを集めて、軍人らの性欲処理に当らせていた。このことは多くの女性たちの尊厳を傷つけ、人権を侵害した。この問題は1990年代初頭に韓国人被害者が名乗り出たことなどを契機に大きな注目を集めるようになった。それによって、関連する史実の解明に取り組む研究者も現れ、歴史研究が進展した。
しかし、慰安所・慰安婦の歴史をどうとらえるかは、意見の対立がある。そのことは日韓間の良好な外交関係や市民の交流を妨げて来たし、今後もその要因となる可能性がある。論争はすでに、30年にもわたっており、何が論点であり、どのような主張がなされているのか自体の整理もそう容易ではない。
そこで、この授業では、慰安所・慰安婦をめぐる歴史研究がどう展開され、現在、未解明の論点にどのようなものがあるか、対立する論者の見解がそれぞれどのようなものであるかを考え、確認していく。具体的には、慰安所・慰安婦に焦点を当てた代表的な歴史研究やそれに対して反論を加えた論著を取り上げ、受講者と読み討論をしていく。その際には、慰安所・慰安婦それ自体に直接かかわる史実だけではなく、公娼制度や管理売春、植民地民衆と統治権力、オーラルヒストリーの有効性といった問題についても取り上げることを予定している。