本講義のテーマは、数学におけるホモトピー論と理論物理学における「場の理論」の関係である。「場の理論」とはもっとも広い意味では物理系をモデル化する方法論のこと、と言える。万人が納得するような「場の理論」の数学的な定義は部分的にしか与えられていない。しかしむしろそれが数学的に謎めいたものであるからこそ、場の理論の枠組みで展開される理論には豊穣な面白い数学が秘められており、そこから生まれるアイデアや問題意識は、古くから数学の発展に多大な寄与を与えてきた。数学の一分野であるホモトピー論も理論物理学と深く関わって発展してきた。本講義では、ホモトピー論と理論物理学を結びつける重要な構想であり近年発展が著しいトピックのひとつである”Segal-Stolz-Teichner プログラム”を題材に、ホモトピー論と理論物理学の相互作用を紹介したい。
2次元N=(0,1)超対称性場の理論と楕円コホモロジーとの関係がSegal, Stolz, Teichnerらにより2004年に提唱された。それに端を発した研究を総称してSegal-Stolz-Teichnerプログラムと呼んでいる。当初はTopological Modular Forms (TMF)という特定のスペクトラムについての予想の形であったが、近年のスペクトル代数幾何の発展に伴い、物理における超対称性理論にまつわるさまざまな概念と数学における楕円コホモロジーにまつわる概念の対応が明らかになってきた。
このSegal-Stolz-Teichnerプログラムの基本的なアイデアの導入からはじめ、近年の発展や今後の方向性についても触れたい。