主として18世紀末から20世紀半ば過ぎにかけてのヨーロッパ諸国における政治構造の形成・変動のダイナミズムを比較の視座から描き出す。
政治史は、歴史事象を素材として用いつつも、政治学の重要な一部門を構成する。この講義では、近現代のヨーロッパ諸国の政治発展を題材として、比較政治学的な思考の基礎を身につけてもらえるよう努めたい。
近代国家の成立以来、同じヨーロッパの中でも、民主化のパターンや、官僚制の性格、政党制の構造など、各国の政治のあり方には大きな多様性が見られた。こうした国・地域ごとの差異は、どのような経緯で、いかなる要因によって生まれてきたのか。こうした問いに対して比較政治学の手法と知見とを用いて答えようとする。政治発展の経路を分けることになった重要な分岐点を時期毎に特定し、なぜそのような分岐が起こったのかについて、様々な仮説を検討し、あるいは史実の分析を通じて仮説を構築していく。
あらゆる歴史にもまして、政治史においては偶発的事件や個々人の選択の役割が極めて大きい。しかし、この講義では、そうした「物語」ではなく、その裏側で人々の選択を大きく規定している「構造」に着目する。中長期的に一定の安定性をもった構造がどのように形成され、いかに、なぜ変動するのか、という視点から、ヨーロッパ各国の政治発展の軌跡を比較の土俵に載せていく。
ヨーロッパ政治史は、比較政治学にとって非常に豊かな分析対象である。基本的な社会・経済・文化的な条件をおおむね共有する一方で、20世紀末までのヨーロッパ各国は、極めて多彩な、特徴的な政治構造を発展させてきた。そのため、20前後の中小サイズの国々の政治発展を比較対照することで、いかなる要因が政治のあり方を規定しているのか、を説得的に示すことが期待できる。得られる知見は、日本の近現代政治を理解する上でも、また現在の政治や政策形成の考察にあたっても、有用性を持つだろう。