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最終更新日:2026年10月16日

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経済安全保障と知的財産

法や政治と先端技術のインターラクション
 工学部での研究と教育は、実用的な知識を開拓することを目的にしています。この「実用」というのは人間が社会の中で生きていく上での価値に注目するものなので、法や制度を離れて考えることはできません。たとえば、社会基盤建造物には種々の基準が設けられ、標準化されない情報通信技術はいくら優れていても生きません。こうしたインターラクションは以前からありますが、知的財産に関わるインターラクションが約30年前から、経済安全保障に関わるインターラクションが約5年前から重要になってきました。とりわけ、半導体の製造技術は、国際政治の焦点になっています。2025年1月に発足した第2次トランプ政権の動向が、問題を複雑化させています。この講義では、経済安全保障を中心に法や制度と科学技術のインターラクションを取扱い、さらにビジネスの観点からの「ルール形成戦略」や、全体の背景となる国際政治について講義します。
 経済安全保障は概念自体が新しく、決まった定説もない分野なので、最前線で問題に取り組んでいる講師陣が問題意識を直接ぶつける形の講義になります。これを通じて、諸君が自分の前にある技術の社会的背景を考え、その実用化に際して法・経営・政治についてさまざまな問題が生じることが理解できるようになることを目的とします。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
FEN-CO4454L1
FEN-CO4454L1
経済安全保障と知的財産
池田 誠
S1 S2
水曜5限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
YES
他学部履修
可
開講所属
工学部
授業計画
【日程と内容は変更することがあります。】 (1)4月8日 イントロダクション――経済安全保障の時代相<玉井> 1989年から2019年までの30年間が経済の「グローバル化」の時代であり、その後の約5年間が「経済安全保障」時代と位置づけられます。その時代がどのような特徴を持っているのかを解説し、皆さんが大学で学んでいく上での基本的な認識を深めていただきます。 (2)4月15日 技術流出問題と営業秘密保護法制<玉井> 最先端の技術が外部に流出する問題に取り組むための法制度について解説します。まずこの回は、私企業が保有する最先端技術についてです。これまで、新たな技術を開発した企業は、特許出願をして技術を公開する代わりに特許権を取得するのが基本的な戦略でした。しかし、経済安全保障の時代においては、企業内部に秘匿して「営業秘密」にすることが多くなってきました。なぜそうなったのか、またその最前線では何が起こっているのか。法制度の基本から最先端事象までを解説します。 (3)4月22日 「スパイ罪」について<玉井> 技術流出問題についての2回目です。総選挙後、にわかに「スパイ罪」を設けようという動きが活発になってきました。それはどういうものか、どのような問題があるのか、経済安全保障についてどのような意味があるのかといったことを、最「先進」国である米国の現状を題材に解説します。 (4)5月13日 セキュリティ・クリアランス制度について<玉井> セキュリティ・クリアランスというのは、「信用の措ける人にだけ大事な情報を扱わせる」仕組みです。わが国にはなかったものですが、2024年に成立した重要経済安保情報法に基づき、2025年5月からセキュリティ・クリアランス制度の運用が始まりました。制度がどのようなものであるかを解説し、問題点を指摘します。また、時間があれば、外国への情報伝達を規制する外国貿易・外国為替管理法(外為法)や特許出願を秘密にする特許出願非公開制度についても解説します。 (5)5月20日 サプライチェーンの確保<玉井> 2022年に成立した経済安全保障推進法は、わが国がサプライチェーンを確保すべき物資を「特定重要物資」として指定し、補助金によってその供給を確保することにしました。半導体関連では、ルネサス(マイコン、2025年3月供給開始)、ローム・東芝D&S(SiC/Siパワー半導体)、富士電機・デンソー(SiCパワー半導体・エピウエハ・ウエハ)が認定を受けています。またそれは「原材料等」も対象としており、製造装置としてキヤノン(露光装置、2026年4月供給開始予定)が認定を受けています。この回は、この仕組みがどのようなものか、またそこにどのような問題があるのかを解説します。特定重要物資に関する法制度は、「給付行政」に分類され、学問体系では「行政法」というジャンルになります。その基本的な考え方にも触れます。 (6)5月27日 半導体産業の現在<安念> 半導体産業における各業態を概観したあと、今世紀に入ってからの日本の半導体産業の実状を振り返ります。また、最も今日的な問題として、2022年に制定された経済安全保障推進法の全体像を概観し、その中での半導体産業の位置づけや、国(経産省)の描く日本の半導体産業の未来像を、TSMC(の子会社)の熊本県への進出や、北海道・千歳市のRapidusの工場建設に特に注目して解説します。 (7)6月3日 半導体をめぐる政治と安全保障 アメリカの半導体産業が一種の軍需産業として発足したことを解説し、その具体的な表れとして、国防総省国防高等研究計画局(略称DARPA)の創設や、セマテック・プロジェクトなどに言及します。さらに米中新冷戦において半導体がどのように『武器化』されているか、また、日本がいかにアメリカの半導体戦略に追随しているか、についても解説します。 (8)6月10日 エネルギー安全保障と原子力発電<安念> 1973年の第一次オイル・ショック以降の日本のエネルギー安全保障政策を概観し、21世紀に入ってからのエネルギー政策、とりわけエネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画(第1次~第6次)の変遷を解説します。また、エネルギー政策のなかでの原子力発電の位置づけに言及するとともに、原発のいわゆる「再稼働」に至る法律上の手続を概観し、その特色な問題点を解説し、さらに、高経年化原発の運転期間延長問題にも言及します。 (9)6月17日 「重要インフラ」の保護 電気、ガス、鉄道、通信といった重要インフラは、経済安全保障推進法によって「特定社会基盤設備」と呼ばれ、そのセキュリティ対策を講じることを事業者に義務付けています。その確保は、半導体産業にとっても極めて重要です。(特に電気と水が潤沢でないと、半導体は生産できません。)急ごしらえでできた現行法の問題点について解説します。こうした法制度は「規制行政」に分類され、やはり「行政法」に属します。その基本的な考え方にも触れます。 (10)6月24日 「能動的サイバー防御」について<西尾> 重要インフラについては、サイバー対処能力強化法が2025年5月に成立し、2026年から2027年にかけて施行される予定になっています。「能動的サイバー防御」がその目玉なのですが、実際に何ができるのか、さまざまな問題があります。サイバーセキュリティ実務の第一人者である西尾素己先端研客員研究員から、法律の前提と現実の間のギャップや、実施を前にした問題点の克服についてお話しいただきます。 (11)7月1日 サイバーセキュリティの最前線で<西尾> ロシアによるウクライナ侵略の前線は、ミサイルや大砲、そしてドローンの最前線だっただけでなく、サイバーセキュリティの最前線でもありました。また、ベネズエラ、イラン、パレスチナなどの地域紛争におけるサイバー戦にも、目覚ましい進展があります。西尾研究員から、現時点での最新の技術動向と、国家や経営の観点からサイバーセキュリティにどう臨むべきかを議論していただきます。 (12)7月8日 サイバーセキュリティをめぐる日本の国際戦略<玉井+ゲスト児玉哲也氏> 国際動向の中で日本のサイバーセキュリティをどのように考えるべきか、日本サイバーデイフェンス株式会社の児玉哲也取締役に話を伺い、学生諸君とディスカッションします。 (13)7月15日 経営戦略としてのルール形成戦略<國分> 経済安全保障の理想の一つは、日本やその周辺で武力攻撃事態が発生しても日常生活を確保することができる、ということがあります。それは、政府ではなく民間の仕事です。数々の大胆な提案を行うことにより議論をリードした國分俊史特任教授を招いて、そのあり方について証言していただきます。 (※)以上の予定は、講師やゲストの都合で変動することがあります。
授業の方法
各分野の専門家が講義を行い、随時参加諸君とのディスカッションを行います。また、玉井以外の講師が担当する回では、原則として玉井も出席して質疑応答に加わります。
成績評価方法
教室でのディスカッションへの参加とレポートによります。授業内で到達度を測るテストを実施することがありえますが、別に時間割を組んでの定期試験は行いません。 出席回数が一定回数以下の場合は、評価の対象になりません。
履修上の注意
教室で指示します。「大きく叩けば大きく鳴り、小さく叩けば小さく鳴る」タイプの授業を目指します。
その他
<前提となる知識・項目> ・高校で履修する程度の「世界史」(19世紀以降)の知識 ・各自の専門とする分野の標準的な理解 ・「大学で自分が学ぶことにどのような意義があるのか」についての問題意識 <備考> 4月8日開講です。
実務経験と授業科目の関連性
玉井は弁護士登録をしており、特に営業秘密について秘密保持義務を負った上での活動をしており、さまざまなケースについてアドバイスを行っています。安念は弁護士としての経験が豊富であるほか、震災後に東京電力の社外取締役を務めました。また國分は、経営者にコンサルテーションを行う実務の経験が豊富であり、それを踏まえて我が国のルール形成戦略に関する提言を行い、実現させてきた実績があります。これらの実務経験が生かされた授業は、他では聴けない内容になるはずです。