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最終更新日:2025年4月21日

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経済安全保障と知的財産

 工学部での研究と教育は、実用的な知識を開拓することを目的にしています。この「実用」というのは人間社会の中で行われるものなので、法や制度を離れて考えることはできません。建築や社会基盤建造物には種々の基準が設けられ、標準化されない情報通信技術はいくら優れていても生きません。こうしたインターラクションは以前からありますが、知的財産に関わるインターラクションが約30年前から、経済安全保障に関わるインターラクションが約5年前から重要になってきました。さらに、2025年1月に米国で成立した第2次トランプ政権が、問題を複雑化させています。この講義では、経済安全保障を中心に法や制度と科学技術のインターラクションを取扱い、さらにビジネスの観点からの「ルール形成戦略」や、全体の背景となる国際政治について講義します。
 経済安全保障は概念自体が新しく、決まった定説もない分野なので、最前線で問題に取り組んでいる講師陣が問題意識を直接ぶつける形の講義になります。これを通じて、諸君が自分の前にある技術の社会的背景を考え、その実用化に際して法・経営・政治についてさまざまな問題が生じることが理解できるようになることを目的とします。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
FEN-CO4454L1
FEN-CO4454L1
経済安全保障と知的財産
池田 誠
S1 S2
水曜5限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
YES
他学部履修
開講所属
工学部
授業計画
【日程は変更されることがあります。】 (1)イントロダクション――経済安全保障の時代相<玉井>4月9日 1989年から2019年までの30年間が経済の「グローバル化」の時代であり、その後の約5年間が「経済安全保障」時代と位置づけられます。その時代がどのような特徴を持っているのかを解説し、皆さんが大学で学んでいく上での基本的な認識を深めていただきます。 (2)経済安全保障推進法の仕組みと問題(1・「特定重要物資」について)<玉井>4月16日 半導体の重要性の表れが、経済安全保障推進法の定める「特定重要物資」に指定されていることです。この回は、半導体以外の特定重要物資、特に蓄電池を材料にして、経済安全保障が日本経済をどのように変えようとしているのか、またそこにどのような問題があるのかを解説します。また、特定重要物資に関する法制度は、「給付行政」に分類され、学問体系では「行政法」というジャンルになります。その基本的な考え方にも触れます。 (3)経済安全保障推進法の仕組みと問題(2・「特定社会基盤設備」について)<玉井>4月23日 電気、ガス、鉄道、通信といった重要インフラを経済安全保障推進法は「特定社会基盤設備」と呼び、そのセキュリティ対策を講じることを事業者に義務付けています。その確保は、半導体産業にとっても極めて重要です。(特に電気と水が潤沢でないと、半導体は生産できません。)急ごしらえでできた現行法の問題点について解説します。こうした法制度は「規制行政」に分類され、やはり「行政法」に属します。その基本的な考え方にも触れます。 (4)半導体産業の現在<安念>5月7日 半導体産業における各業態を概観したあと、今世紀に入ってからの日本の半導体産業の実状を振り返ります。また、最も今日的な問題として、2022年に制定された経済安全保障推進法の全体像を概観し、その中での半導体産業の位置づけや、国(経産省)の描く日本の半導体産業の未来像を、TSMC(の子会社)の熊本県への進出や、北海道・千歳市のRapidusの工場建設に特に注目して解説します。 (5)半導体をめぐる政治と安全保障<安念>5月14日 アメリカの半導体産業が一種の軍需産業として発足したことを解説し、その具体的な表れとして、国防総省国防高等研究計画局(略称DARPA)の創設や、セマテック・プロジェクトなどに言及します。さらに米中新冷戦において半導体がどのように『武器化』されているか、また、日本がいかにアメリカの半導体戦略に追随しているか、についても解説します。 (6)エネルギー安全保障と原子力発電<安念>5月21日  1973年の第一次オイル・ショック以降の日本のエネルギー安全保障政策を概観し、21世紀に入ってからのエネルギー政策、とりわけエネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画(第1次~第6次)の変遷を解説します。また、エネルギー政策のなかでの原子力発電の位置づけに言及するとともに、原発のいわゆる「再稼働」に至る法律上の手続を概観し、その特色な問題点を解説し、さらに、高経年化原発の運転期間延長問題にも言及します。 (7)経営戦略としてのルール形成戦略<國分>5月28日 経済安全保障が今日のように大きな話題になったのは、自民党ルール形成戦略本部を舞台とするさまざまな活動の成果です。数々の大胆な提案を行うことにより議論をリードした國分特任教授を招いて、その実情について証言していただきます。 (8)(9)サイバーセキュリティの最前線で<西尾>6月4日・11日 ロシアによるウクライナ侵略の前線は、ミサイルや大砲が乱れ飛ぶだけでなく、サイバーセキュリティの最前線でもありました。サイバーセキュリティの確保を企業や政府の依頼で実際に担当している西尾氏から、現時点での最新の技術動向と、国家や経営の観点からサイバーセキュリティにどう臨むべきかを議論していただきます。 (9)サイバーセキュリティをめぐる日本の国際戦略<玉井+ゲスト児玉哲也氏>6月18日 国際動向の中で日本のサイバーセキュリティをどのように考えるべきか、日本サイバーデイフェンス株式会社の児玉哲也取締役に話を伺い、学生諸君とディスカッションします。 (10)営業秘密保護法制と経済安全保障<玉井>6月25日 企業が新たな技術を開発した場合、広く世の中に公開する(権利化しない)こともありますが、知的財産権にするのが普通です。知的財産権としては、特許権を取得するのと、営業秘密にするのと、2つの選択肢があります。「グローバル化」の時代には世界各国で特許権を取得するのが主流でしたが、経済安全保障の時代には、対外的に秘匿して営業秘密にすることが多くなってきました。その法制度について解説し、最先端の事象に触れるようにします。 (11)技術流出問題にどう取り組むか<玉井>7月2日 自国の優れた技術が懸念国に流出しないようにするにはどうするか、というのは経済安全保障の重要な課題です。その一環として、経済安全保障推進法は「特許出願非公開制度」の運用を2024年度から開始します。また、2024年に成立したセキュリティ・クリアランス制度がどのようなものであるかを解説し、問題点を指摘し、諸君の勉学や研究にどのように関わるのか、ディスカッションします。 (12)経済安全保障政策と国際関係<川井>7月9日 経済安全保障は、米中間の新たな冷戦の産物だということができます。米中貿易摩擦と技術覇権競争について、レアアースなどに挙げられる重要鉱物のサプライチェーンの問題と国際関係への影響や、対外直接投資規制の強化と国際的な波及効果などの事例を通じて、国際関係の観点から経済安全保障について理解を深めます。 (13)重要技術政策と経済安全保障<川井>7月10日 AI、量子コンピューティング、5G、バイオテクノロジーなどの重要・新興技術は、国家間の技術覇権競争の中で戦略的に重要な位置を占めています。5G通信技術をめぐる国際的な争いやAI倫理と国際的なガバナンスの必要性などの事例を通じて、重要・新興技術の観点から経済安全保障への理解を深めます。 (補講)経済安全保障の最前線<玉井+ゲスト> 諸君にとって有益な話題を提供できるゲストをお招きし、有意義なお話を伺います。 (※)以上の予定は、講師やゲストの都合で変動することがあります。
授業の方法
4月9日開講です。
成績評価方法
教室でのディスカッションへの参加とレポートによります。授業内で到達度を測るテストを実施することがありえますが、別に時間割を組んでの定期試験は行いません。 出席回数が一定回数以下の場合は、評価の対象になりません。
教科書
玉井克哉=兼原信克編著『経済安全保障の深層』(日本経済新聞出版、2023年)
履修上の注意
視野を広げる
その他
前提となる知識と項目:・高校で履修する程度の「世界史」(19世紀以降)の知識 ・各自の専門とする分野の標準的な理解 ・「大学で自分が学ぶことにどのような意義があるのか」についての問題意識
実務経験と授業科目の関連性
玉井は弁護士登録をしており、特に営業秘密について秘密保持義務を負った上での活動をしており、さまざまなケースについてアドバイスを行っています。安念は弁護士としての経験が豊富であるほか、震災後に東京電力の社外取締役を務めました。また國分は、経営者にコンサルテーションを行う実務の経験が豊富であり、それを踏まえて我が国のルール形成戦略に関する提言を行い、実現させてきた実績があります。これらの実務経験が生かされた授業は、他では聴けない内容になるはずです。