今回は以下のような4つのテーマを予定しています。
講義1:「超関数」阿部紀行先生(10/10, 17, 24)
概要:ディラックは原点で無限大,それ以外で0という「関数」を考えました.これは通常の意味では関数ではありませんが, 現在は超関数という通常の連続関数を含む広いクラスにおける関数(もどき)の一つとして理解されています. ディラックによるこの不思議な関数の性質を出発点として, 超関数の理論について講義をします.
講義2:「数学における無限と証明不可能性」酒井拓史先生(10/31,11/7, 11/14)
概要:数学には自然数の集合や実数の集合など,様々な無限集合が現れます.これらの無限集合についての数学的命題には,通常の数学の方法では証明も反証もできないものが多くあることが,20世紀に明らかにされました.連続体仮説がその代表例です.この講義では,まず数学に現れる無限集合について触れます.その後で,"数学の証明” の述語論理を用いた形式化を紹介し,ゲーデルの不完全性定理や,無限についての命題の証明不可能性を紹介します.
講義3:「空間とファッション」本多正平先生(11/21, 28, 12/12)
概要:みなさんはお気に入りの服はありますか.私は子供のころは服に無頓着で,親が指定する服だけをきていました.しかし大人になると好きな服がでてきて,それを着るようになりました.成長という時間発展で自分の好みがわかってきたためです.
幾何学でも似た問いがあります.ねんどを与えて,そこからできる一番いい形のねんど模型は何かを問うものです(多様体にとって一番お気に入りの服を着てもらう,という表現でもOKです).しかし一番いい形なんてのは最初はわからないので,とりあえず形を勝手に作っておいて,そこから時間発展でねんど自身が勝手に自分の好みの図形になっていってくれることを願う方法があります.この方法に沿った大きな進展の1つに,サーストンの幾何化予想の解決,特にポアンカレ予想の解決がありますが,こういった話題をできるだけ初等的に提供します.
講義4:「3次式の代数幾何学」小木曽啓示(12/19, 26, 1/9)
概要:代数幾何学の面白さ・美しさの一端を3次式で定まる図形を題材に解説したいと思います. 代数幾何学の母体である複素射影空間を定義し, 座標の斉次1次式, 斉次2次式で定まる図形の形状を線形代数学の知識を用いて調べた後, 本講義の主役である斉次3次式で定まる図形を,(複素)1次元の場合に詳しく調べてみます. 滑らかな場合には, 楕円曲線とよばれる対象であり, 現代数学において、分野を超えて縦横に現れる重要かつ基本的な対象です。講義では, その分類から初めて, 楕円曲線の群構造といった, 豊かで深い性質をもっていることを, できるだけ具体的かつ射影代数幾何学的な方法で説明したいと思います. 時間が許せば, 3次式で定まる高次元の図形について, 現代代数幾何学の主要未解決問題とともに俯瞰したいと思います.