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最終更新日:2025年4月21日

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情報社会と総合安全保障

この講義のテーマは「情報化」と「総合安全保障」です。この講義では、これを日本の政策課題として以下の観点から検討します。 (1)はじめに、本講義のテーマ全般を俯瞰する分析枠組みを説明します。1990年代初頭に始まったインターネットによって、グローバルな情報社会の突破段階が始まりました。本講義では、情報社会学の観点から情報化を世界システムのグローバルな近代化のなかに位置付け、現在の状況を、①国民国家、②世界市場、③インターネットからなる社会の3層構造と、その相互作用によって構成されている、と考えます。この観点から、本講義で取りあげる問題関心は以下の通りです。 (2)まず、①国民国家と国際社会のレイヤーでは、近年のパワー・バランスの変化から米・中冷戦が、またNATOの東方拡大に対するロシア側の対応からウクライナ紛争が生じました。冷戦とは、軍事的な対立だけでなく、経済的な競争からイデオロギー対立までを含むものです。具体的には、相互の経済ブロックと集団的自衛=同盟が一体となった競合状態が生じます。また今次のウクライナ紛争では双方がハイブリッド戦争を戦っています。  ここでわれわれが想起すべきなのは、1980年代の東西冷戦期に日本で「総合安全保障」という広義の戦略思想が構築されていたことです。この戦略思想は、大平首相のリーダーシップによって作成されたもので、鈴木、中曽根内閣の政治理念となりました。この講義で掲げる総合安全保障も、日本の安全保障政策を、集団的自衛などの安全保障体制、経済安全保障、サイバーセキュリティなどを含む統合的なものとして捉えます。つまり外交や同盟関係、経済安全保障や軍事が相互補完的であり、総合的なバランスの保持や領域と対象手段の多様性が重要だ、と考えるわけです。 (3)つぎに、②世界市場については、国際社会の一貫した傾向としてグローバル化と経済的な相互依存関係が深化しています。しかし他方では、2008年の金融危機を契機とする「新自由主義」の見直しと岸田政権の「新しい資本主義論」、イギリスのEU離脱と米国のトランプ前政権のように、政府が国益の重視や経済安全保障を掲げるケースも増えています。さらにはグローバルなサプライチェーンの再構築や経済的相互依存関係のデカップリングが検討されるようになっています。このような各国の動きを前提として、マクロ経済学と公共政策、社会科学の研究枠組みと政治経済思想に生じている変化の歴史的な推移を考察します。 (4)さらに、インターネットについては、GAFAやBATHのような巨大プラットフォームの登場によって、「ユニバーサル・サービス」としての電気通信事業に大きな変化が生じています。インターネットは、これに先立つ交換機系の情報通信インフラとは技術的に大きく異なっています。このために、巨大なプラットフォーマーを前提として、現段階の公益産業(utility industry)としての情報通信産業が満たすべき要件とはなにか、という政策課題が生じることになります。実際に日本の電気通信事業法は今回、プラットフォーム規制の観点から改正されました。  本講義では、直近の出来事としてCOVID-19に伴うインフォデミックやサイバー攻撃など情報社会の具体的なリスク管理、インターネットとデジタル・トランスフォーメーション(DX)によって我が国の産業や政策に生じている課題などについて具体的に取りあげます。 (5)この講義は、(ⅰ)鈴木寛公共政策大学院教授(主担当:元文部科学副大臣・前文部科学大臣補佐官)、(ⅱ)高見澤將林(分担教員:公共政策大学院客員教授/元官房副長官補(事態対処・危機管理担当))、(ⅲ)山内康英(分担教員:公共政策大学院客員研究員/多摩大学情報社会学研究所教授、所長代理)が担当します。本講義は時間の関係から教員による講義を主体とします。 (6)本講義の受講生は、以下の各回の講義のテーマから関心のある課題を選び、PBL(Project Based Learning)による調査研究を行うものとします。PBLでは、各自の修論やゼミのテーマを勘案しながら、文献やオンライン資料を利用して調査研究し、期末にレポートを作成するものとします。  課題の取り組み方や文献については、講義の時間中に、またITC‐LMSの掲示板を使って受講生ごとに講師が説明、指導します。本講義の各回のトピックは事業計画の通りですが、受講者の皆さんの希望を勘案して組み替えるものとします。授業中の質疑にオンラインの検索を使って貰いますので、ネットに繋がるノートパソコンを教室に持ってきて下さい。
(1)この授業の目標は、日本の情報社会と総合安全保障を主題として、(ⅰ)組織論や行政機構論を含む政治決定過程、国際政治としての戦略論といった社会科学のさまざまな分析枠組みを理解し、(ⅱ)具体的な社会事象に結び付けて解釈する方法を身に付けることです。また(ⅲ)PBLを通して研究文献やオンライン資料を使った調査研究の手法を学びます。講義で取り上げる具体例を参考にして、論文作成や調査研究に応用するよう学生の皆さんに求めます。

(2)受講生の皆さんは、シンボリック・アナリストつまり抽象的な概念を使って組織活動やビジネス・スキームを構築する良き経営者や行政官となり、公的職業や付加価値の高い職務をこなさなければなりません。そのためには現在の日本社会の動向と、その歴史的推移を把握することが先決です。具体的には、(ⅰ)日本の安全保障をめぐる政策過程および情報化の諸課題について包括的に理解するとともに、(ⅱ)情報産業や社会のリスク管理について基礎的な専門用語つまり語彙や概念を理解し、これを使って議論を組み立てる能力と、(ⅲ)社会と実践共同体が求める正しい振舞い、つまり公徳(public virtue)に立ちかえって考える習慣を身につけることが大切です。

(3)言葉は、「目と耳から入り、口と手から出るもの」、つまり “words in words out” です。まず基礎的な専門用語を身につけない限り、修士論文を書くことも、ビジネスや行政の実務で企画書や説明資料のパワーポイントを作ることもできません。毎回講義をしっかり受講して、身近な関心のあるテーマを選び、期末レポートでは、自主的に調査と研究を進めて下さい。本学院は専門職大学院ですから、皆さんのこれまでの、あるいは今後のキャリアからテーマを選び、今後の職責に活かすことを考えて下さい。

(4)講義では毎回トピックを1つ選んで、(ⅰ)そのトピックに関連した社会科学の緒理論と、(ⅱ)具体的な検討事例を解説します。成績は、①授業の貢献度と、②期末レポートによって総合的に評価します。単位の必要な方は、かならず期末レポートを提出すること。

(5)この授業を主催する鈴木教授は、霞ヶ関と永田町の実務経験を持つ公共政策の専門家です。また高見澤大使は、防衛省の実務経験の長い安全保障の専門家です。山内は、インターネットのシステム開発と運営、JICAのコンサルタントとしてアジア諸国のインフラ建設に参加した実務経験があります。また東京大学大学院総合文化研究科の博士号(国際関係論)を持ち客員研究員と他の大学の教授職を兼務しています。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
5122222
GPP-MP6P20L1
情報社会と総合安全保障
鈴木 寛
S1 S2
火曜1限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
公共政策学教育部
授業計画
Ⅰ. 情報社会の政治経済学的検討と情報化の技術的背景 第1回 情報社会と政策過程および本講義の基本的な枠組み【4月11日】 第2回 コンピュータ・ネットワークとグローバリゼーション/情報社会と近代化【4月18日】  Ⅱ. 日本の安全保障政策の歴史的展開 第3回 日本の安全保障・防衛戦略を考える枠組みとその展開過程【4月25日】 第4回 新たな国家安全保障戦略を含む戦略三文書の意義と今後の課題【5月2日】 第5回 組織論とイノベーションの観点から見た総合安全保障【5月9日】 第6回 インフォデミックと公衆衛生およびO2Oプラットフォームの諸課題【5月16日】 第7回 サイバーセキュリティ/政策的な課題と対応【5月23日】 第8回 軍備管理軍縮と不拡散/歴史的諸課題と現状【5月30日】 Ⅲ. 情報社会と安全保障 第9回 情報社会と安全保障政策の展開(1):ソーシャルメディアと国際世論【6月6日】 第10回 情報社会と安全保障政策の展開(2):総力安全保障と分野横断型統合【6月13日】 第11回 監視資本主義と政府の役割/「新しい資本主義」の再検討【6月20日】 第12回 リベラリズムと熟議/日本の近代化と社会思想【6月27日】 第13回 社会的なリスク管理と日本の政治決定過程および組織構成【7月4日】
授業の方法
①この講義では、ゼミ論や修論作成の役に立つように期末レポートの作成を指導します。成績の必要な方は必ず期末レポートを提出してください。 ②毎回の講義の資料は、全学授業支援システムを使って毎回受講者に配布し、レポートの作成を指導します。成績は、①授業の貢献度、②期末レポートによって総合的に評価します。 ③受講生はスマホだけでなく、パソコンを用いたファイルのアップロードやダウンロード、Word、PowerPoint、Excelの基本的な利用についても習熟を求めます。
成績評価方法
①期末レポート、②授業の貢献度によって総合的に評価します。
教科書
①重松博之監修、野中郁次郎、鈴木寛、山内康英編著『ワイズガバメント―日本の政治過程と行財政システム』中央経済グループパブリッシング、2021年。 ②鈴木寛『「熟議」で日本の教育を変える―現役文部科学副大臣の学校改革私論』2010年、小学館。 ③千々和泰明『戦後日本の安全保障―日米同盟、憲法9条からNSCまで』中公新書、2022年。 ④公文俊平『情報社会のいま―あたらしい智民たちへ』NTT出版、2015年。 ⑤喬良他『超限戦―21世紀の「新しい戦争」』2020年、角川新書。 ⑥五百旗頭真『大災害の時代』2016年、毎日新聞出版 ⑦船橋洋一『フクシマ戦記(上下)』2021年 文藝春秋 ⑧村上泰亮『反古典の政治経済学要綱―来世紀のための覚書』中央公論社、1994年。 ⑨野中郁次郎、竹内弘高『ワイズカンパニー』東洋経済新報社、2018年。 ⑩ショシャナ・ズボフ『監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い』野中香方子訳、東洋経済新報社、2021年。 ⑪C.A.ベイリ『近代世界の誕生―グローバルな関連と比較 1780-1914』平田雅博、吉田正広、細川道久訳、名古屋大学出版会、2018年。(参考文献) ⑫竹下恵『パケットキャプチャ入門:LANアナライザWireshark活用術(第3版)』 リックテレコム、2014年。
参考書
【情報社会全般】 ①公文俊平、吉田民人、村井純、國領二郎編著『情報社会学概論』NTT出版、2011年. ②公文俊平、大橋正和編著『情報社会のソーシャルデザイン―情報社会学概論II』 NTT出版、2014年. ③公文俊平『文明の進化と情報化』NTT出版、2001年. ④村上泰亮『反古典の政治経済学―21世紀への序説』中央公論社、1992年。 【世界システム論/国際関係】 ①イマニュエル・ウォーラーステイン『入門:世界システム分析』山下範久訳、藤 原書店、2006年. ②佐藤誠三郎『「死の跳躍」を越えて―西洋の衝撃と日本』千倉書房、2009年。 ③ボブ・ジェソップ『資本主義国家の未来』中谷義和監訳、御茶ノ水書房、2005年. ④デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義:その歴史的展開と現在』渡辺治監訳、作 品社、2007年. ⑤ジョン・ミアシャイマー『大国政治の悲劇: 米中は必ず衝突する!』奥山真司訳、五月書房、2007。 ⑥山本吉宣『国際レジームとガバナンス』有斐閣、2008年. 【情報社会と国民国家】 ①原田泉、山内康英編著『ネットの高い壁:新たな国際紛争と文化衝突』NTT出版、2009年. ②アントニー・D・スミス『ネイションとエスニシティ: 歴史社会学的考察』 河野弥生、岡野内正、南野泰義、岡田新訳、名古屋大学出版会、1999年。 ③アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』加藤節訳、岩波書店、2000年。 ④アンソニー・ギデンズ『社会の構成』門田健一訳、勁草書房、2015。 ⑤ジーグムント・バウマン『リキッド・モダニティ:液状化する社会』森田典正 訳、大月書店、2001年. 【政治経済思想と新自由主義】 ①デヴィッド・ハーヴェイ『新自由主義─その歴史的展開と現在』渡辺治監訳、作品社、2007年. ②アンドリュー・ギャンブル『イギリス衰退100年史』都筑忠七、小笠原欣幸訳、みすず書房、1987年. ③アンドリュー・ギャンブル『資本主義の妖怪:金融危機と景気後退の政治学』小笠原欣幸 訳、みすず書房、2009年. ④ロベール・ボワイエ『レギュラシオン―成長と危機の経済学』清水耕一編訳、ミネルヴァ書房、1992年. ⑤ボブ・ジェソップ『資本主義国家の未来』.中谷義和・篠田武司訳、御茶の水書房、2005年。 ⑥ロバート・ライシュ『暴走する資本主義』雨宮寛他訳、東洋経済、2008年. 【データ分析と統計】 ①クリス・アンダーソン『ロングテール(アップデート版)』藤森ゆりこ訳、ハヤカワ新書、2009年. ②ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン:不確実性とリスクの本質』望 月衛訳、2009年. ③服部哲弥『Amazonランキングの謎を解く:確率論的な順位付けが教える売上の構 造』化学同人、2011年. ④スコット・ペイジ『「多様な意見」はなぜ正しいのか:衆愚が集合知に変わると き』日経BP、2009年. 【情報技術解説】 ①米田正明『電話はなぜつながるのか:知っておきたいNTT電話、IP電話、携帯電 話の基礎知識』日経BP社、2006年. ②戸根勤『ネットワークはなぜつながるのか:知っておきたいTCP/IP、LAN、光 ファイバの基礎知識』日経BP社、2007年. ③竹下恵『パケットキャプチャ入門:LANアナライザWireshark活用術』リックテレ コム、2014年. ④村井純『日本でインターネットはどのように創られたのか? WIDEプロジェクト20 年の挑戦の記録』インプレス、2009年. 【消費社会論・記号論・社会学】 ①間々田孝夫『第三の消費文化論:モダンでもポストモダンでもなく』ミネルヴァ書房、2007年. ②ジョージ・リッツア『マクドナルド化する社会』正岡寬司監訳、早稲田大学出版 部、1999年. ③ジョン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』紀伊國屋書店、1979年. ④ロラン・バルト『物語の構造分析』花輪光訳、みすず書房、1979年. ⑤アンソニー・ギデンズ『社会科学の最前線』友枝敏雄他訳、ハーベスト社、1989年. ⑥福原宏幸編著『社会的排除・包摂と社会政策』法律文化社、2007年. ⑦山田昌弘『希望格差社会』筑摩書房、2004年. ⑧エドワード・W. サイード『戦争とプロパガンダ』中野真紀子他訳、みすず書 房、2002年. ⑨エリック・ホブズボーム『極端な時代―20世紀の歴史』河合秀和訳、三省堂、 1996年. 【社会倫理・社会思想】 ①W.K.フランケナ『倫理学』培風館、1975年. ②マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』ハヤカワ文庫、2011年. ③アリステア・マッキンタイア『美徳無き時代』みすず書房、1993年. ④マイケル・ウォルツァー『政治と情念―より平等なリベラリズムへ』齋藤純一他訳、風行社、2006年. ⑤アイザイア・バーリン『自由論』みすず書房、1971年. ⑥チャールズ・テイラー『今日の宗教の諸相』岩波書店、2009年. ⑦J.G.A.ポーコック『徳・商業・歴史』田中秀夫訳、みすず書房、1993年. ⑧ジャン=フランソワ・リオタール『ポスト・モダンの条件―知・社会・言語ゲーム』小林康夫訳、水声社、1989。 ⑨イアン・ハッキング『知の歴史学』出口康夫、大西琢郎、渡辺一宏訳、岩波書店、2012年. 【政治学・日本の政治過程】 ①田中秀明『日本の財政―再建の道筋と予算制度』中公新書、2013年. ②村松幹夫『日本の行政―活動型官僚制の変貌』中公新書、1994年. ③真淵勝『行政学』有斐閣、2009年. 【経営学・経済学】 ①ビョルン・ヴァフルロース『世界をダメにした10の経済学―ケインズからピケティまで』関美和訳、日本経済新聞出版社、2019年. ②エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー『ザ・セカンド・マシン・エイジ』村井章子訳、日経BP社。 ③ショシャナ・ズボフ『監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い』野中香方子訳、東洋経済新報社、2021年。 ④李開復『AI世界秩序―米中が支配する「雇用なき未来」』上野元美訳、日本経済出版社、2020年。 ⑤関満博『フルセット型産業構造を超えて―東アジア新時代のなかの日本産業』中公新書、1993年。 ⑥ジョン・ブリュア『財政=軍事国家の衝撃:戦争・カネ・イギリス国家 1688-1733』大久保佳子訳、名古屋大学出版会、2003年. ⑦野中郁次郎、竹内弘高、梅本勝博『知識創造企業』東洋経済新報社、1996年。 ⑧野中郁次郎、竹内弘高、黒輪篤嗣『ワイズカンパニー―知識創造から知識実践への新しいモデル』東洋経済新報社、2020年。
履修上の注意
別途さらに参考文献が追加される