学内のオンライン授業の情報漏洩防止のため,URLやアカウント、教室の記載は削除しております。
最終更新日:2024年4月22日
授業計画や教室は変更となる可能性があるため、必ずUTASで最新の情報を確認して下さい。
UTASにアクセスできない方は、担当教員または部局教務へお問い合わせ下さい。
情報社会と総合安全保障
この講義では、現在の日本の政策課題として、情報化と総合安全保障を取りあげ、両者の関係に焦点を当てつつ、以下の観点から幅広く検討します。
(1)本講義では、はじめに現在の社会状況全般を俯瞰する分析枠組みを検討します。1990年代初頭に始まったインターネットの発展によって、グローバルな「情報社会」が到来しました。本講義では、「情報社会」を世界システムの「近代化」のプロセスのなかに位置付け、現在の社会状況を、①国民国家、②世界市場、③インターネットからなるグローバルな3層構造と、その相互作用によって構成されている、と考えます。この観点から、本講義で取りあげる問題関心は以下の通りです。
(2)まず、①国民国家と国際社会のレイヤーでは、近年の国際社会のパワー・バランスの変化から「新冷戦」と呼ばれる状況が生じています。「総合安全保障」は1980年代に東京大学の研究者が中心になって構築した概念で、時の大平内閣の政治理念となりました。「総合安全保障」は、主権国家の安全保障を、総合的な性格を持つものとして捉えます。つまり外交や同盟関係、経済安全保障や軍事が相互補完的であり、総合的なバランスの保持や、領域と対象手段の多様性が重要だ、と考える訳です。本講義ではCOVID-19に伴う「インフォデミック」やサイバー攻撃など情報社会の具体的なリスク管理について取りあげます。
(3)つぎに、②世界市場については、国際社会の一貫した傾向としてグローバル化と経済的な相互依存関係が深化しています。しかし他方では、2008年の金融危機を契機とする新自由主義の見直しや、イギリスのEU離脱と米国のトランプ前政権のように、政府が国益の重視や経済安全保障を掲げるケースも増えています。このような各国の動きを前提として、マクロ経済学や公共政策、社会科学の研究枠組みや政治経済思想に生じている大きな変化の歴史的な推移について考察します。
(4)さらに、インターネットについては、GAFAやBATHのような巨大なプラットフォームの登場によって、「ユニバーサル・サービス」としての電気通信事業に大きな変化が生じています。インターネットは、これに先立つ交換機系の情報通信インフラとは技術的に大きく異なっています。このため現段階の「公益産業(utility industry)」としての情報通信産業が満たすべき要件とはなにか、という広範な政策課題が生じています。本講義では、インターネットとデジタル・トランスフォーメーション(DX)によって、我が国の産業や政策に生じている課題を具体的に取りあげます。
(5)この講義は、(ⅰ)鈴木寛公共政策大学院教授(主担当:元文部科学副大臣・前文部科学大臣補佐官)、(ⅱ)高見澤將林(分担教員:公共政策大学院客員教授/元官房副長官補(事態対処・危機管理担当))、(ⅲ)山内康英(分担教員:公共政策大学院客員研究員/多摩大学情報社会学研究所教授、所長代理)が担当するものとします。
(6)本講義の受講生は、各回の講義のテーマから関心のある課題を選び、PBL(Project Based Learning)による調査研究を行うものとします。PBLでは、修論やゼミのテーマを勘案しながら、文献やオンライン資料を利用して調査研究し、期末にレポートを作成するものとします。課題の取り組み方や文献については、受講生ごとに講師が説明、指導します。各回の講義のテーマは以下の通りですが、受講者の希望を勘案して入れ替えます。授業中の質疑にオンラインの検索を使って貰いますので、ネットに繋がるノートパソコンを教室に持ってきて下さい。オンラインの講義では当然、パソコンは必須です。
(1)この授業の目標は、日本の情報社会と総合安全保障を主題として、(ⅰ)既存の社会科学のさまざまな分析の枠組みを理解し、(ⅱ)具体的な社会事象に結び付けて解釈する方法を身に付けることです。また(ⅲ)PBLを通して研究文献やオンライン資料を使った調査研究の手法を学びます。講義で取り上げる具体例を参考にして、論文作成や調査研究に応用するよう学生の皆さんに求めます。
(2)受講生の皆さんは、シンボリック・アナリストつまり抽象的な概念を使って組織活動やビジネス・スキームを構築する良き職業人となり、公的職業や付加価値の高い職務をこなさなければなりません。そのためには現在の日本社会の動向と、その歴史的推移を把握することが先決です。具体的には、(ⅰ)日本の情報社会の政治経済の動向について包括的に理解するとともに、(ⅱ)情報産業や社会のリスク管理について基礎的な専門用語つまり語彙や概念を理解し、これを使って議論を組み立てる能力と、(ⅲ)社会と実践共同体が求める正しい振舞い、つまり公徳(public virtue)に立ちかえって考える習慣を身につけることが大切です。
(3)言葉は、「目と耳から入り、口と手から出るもの」、つまり “words in words out” です。まず基礎的な専門用語を身につけない限り、修士論文を書くことも、ビジネスや行政の実務で企画書のパワーポイントを作ることもできません。毎回講義をしっかり受講して、身近な関心のあるテーマを選び、期末レポートでは自主的に調査と研究を進めて下さい。
(4)講義では毎回トピックを一つ選んで、(ⅰ)そのトピックに関連した社会科学の緒理論と、(ⅱ)具体的な検討事例を解説します。成績は、①授業の貢献度と②期末レポートによって総合的に評価します。単位の必要な方は、かならず期末レポートを提出すること。
(5)この授業を主催する鈴木教授は、霞ヶ関と永田町の実務経験を持つ公共政策の専門家です。また高見澤客員教授は、防衛省の実務経験の長い安全保障の専門家です。山内客員研究員は、インターネットのシステム開発と運営や、JICAのコンサルタントとしてアジア諸国のインフラ建設に参加した実務経験があり、また東京大学大学院総合文化研究科の博士号(国際関係論)を持ち客員研究員を兼務しています。
MIMA Search