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最終更新日:2025年4月21日

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市民社会組織・政策論

【講義課題】 市民社会組織・政策論のめざすもの」 「市民社会は万能ではないが、すべてのものの前提である」と述べたのは経営学の父と呼ばれたP.F.ドラッカーである。その背景には深遠な理由がある。それは、世界大戦時、ドイツ市民が短期間のうちにナチスの積極的支持者になり、民主主義から全体主義へと転じたという史実である。近年、トランプ大統領の再選、欧州における極右現象など、民主主義を代表する国々で劣化現象がみられる。だが、それは国民が支持した結果である。つまり、市民社会はユートピアではなく正負両側面があり極端にぶれる可能性がある。この問題にどう向かい合えばよいのか。本講義では、常にこの問題意識を念頭に置きたい。 本講義では、まず、市民社会組織(註)の存在意義を論ずる非営利組織論、経営論などの基礎を学ぶ。その上で、非営利組織政策の課題や非営利組織と資源のマッチングを行う社会装置について学ぶ。次に、パラレルキャリアに関する調査と実例を学ぶ。人生100年時代と言われる中、働き方や人生設計のあり方に変化が生じ、パラレルキャリア(企業等で働くと同時に、ボランティアとして社会のために働く)が関心を集めている。そこで、パラレルキャリアに関する企業アンケート調査(1.7万サンプル)の分析結果と、企業人や役員OBによる活動事例を紹介する。 また、評価論の基礎を学ぶ。昨今、休眠預金等、官民から種々の資金が非営利セクターに投じられているが、同時に、評価による説明が求められるようになっている。他方、評価は技法が先行し、それに振り回される傾向がある。そこで、評価の基礎をなす基本的な考え方を抑える。なお、これは非営利組織のみならず、政府の政策評価にも共通するもので、広く公共セクターに適用されるものである。そして、評価は時として社会に影響をもたらすことがある。ここでは会計検査院による補正予算の検証と世論や国会の反応ついて紹介し、評価と財政民主主義について考察する。
【目的と基本スタンス】

本講義の目的は2つある。第1にNPOやNGOなど市民社会組織(非営利組織)の理論と現状を学び、関連の制度および政策を分析することである。第2に非営利組織評価の基礎を学ぶことである。
 非営利組織が、政策的課題として本格的に取り上げられるようになったのは東西冷戦終焉直後からであるが、主たる期待は社会サービスの補填機能であった。だが、それ以上の役割がある。昨今、ポピュリズムや民主主義の危機が取りざたされる中で、大きな緊張感が生じている。こうした状況下では、市民社会は正にも負にも作用する。そこで、ナチスなど歴史的変遷にも着目しながら、市民社会とその中軸を担う非営利組織について考察する。
 また、非営利組織への官民資金が増す中、評価によって説明責任を果たすことが求められるようになっている。だが評価技法に振り回されがちである。そこで基礎となる考え方や思考方法から評価を捉える必要がある。なお、これらの知識や技術は政府評価と共有するもので、政策評価にも適用可能である。
 
【内容】以下のような内容を網羅する予定である。詳細は詳細版を参照のこと。
・イントロダクション:日本社会の持続性と非営利組織 
・社会統治と市民社会 ~ドラッカーとナチスとボランティア~
・市民社会組織運営:経営論
・人生100年時代のパラレルキャリア調査 / トップエグゼクティブの活動事例
・市民社会政策の分析I:資源提供者と非営利組織の仲介機能の設計
・市民社会政策の分析II:官から民へ、構造改革とNPO政策
・評価論「変化とは何か 進捗と効果を科学する~
・評価と財政民主主義「補正予算の会計検査(検証)と世論・国会の反響」
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
5122011
GPP-MP6P20L1
市民社会組織・政策論
田中 弥生
S1 S2
金曜6限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
公共政策学教育部
授業計画
第1回 4/4:「イントロダクション」  講義全体に流れる問題意識とテーマを述べた上で、講義の進め方(方針)、講義の構成について説明する。そして、少子高齢化、財政危機の中で、政策的なパラダイムが大きく揺れ動いている。このような状況下、シビルミニマムをどう再定義するのか、受益と負担に対する国民意識をどう醸成するのか、そして市民社会組織(非営利組織)の役割について議論する。 第2回 4/18:「社会統治と市民社会 ~ドラッカーとナチスとボランティア~」 なぜ社会に非営利組織が必要なのか。公共経済学に基づけば、政府の失敗、市場の失敗を補填する存在として非営利組織の必要性が説かれる。しかし、これとは全く別の視点から非営利組織を説明したのが青年ドラッカーであった。氏はユダヤ人であり、ナチスドイツからの屈辱を受けながら、その怒りを執筆のエネルギーに変え、人類が二度と全体主義に陥らないための叡智を模索し、第二次大戦中にナチスの批判的分析の著を出版した。氏は全体主義について「結局は国民が選んだのだ」と結論づける。21世紀になり、ナチス研究に新たな潮流が生まれた。それは、ドイツ市民が、ユダヤ人虐待を傍観し、ゲシュタポに積極的に協力し、ナチスのボランティア促進策に嬉々として参加していたという論説である。ドラッカーの分析は、まさに21世紀のナチス研究に先んじていたものである。本講義ではこの史実に基づき市民社会や民主主義が抱える危うさについて考察する。 第3回 4/25:「非営利組織とは何か「経済学アプローチの非営利組織論」」 非営利組織、あるいは非営利組織の存在意義を理論として説明したものとして、政府の失敗、市場の失敗が有名であるが、ここでは公共財の分権的供給と多元的価値観、情報の非対称性などに基づく各理論について概観する。これらの理論は、市場と政府が十分に機能していることを前提にした理論であるがゆえにその限界もある。これらの理論を批判的に捉え議論したい。 第4回 5/2:「非営利マネジメント論 ~ドラッカーの成果重視マネジメント論より~」 ドラッカーは、アメリカ社会の多様性を保っているのが非営利組織であり、アメリカの最大の強みでもあると述べている。しかし、非営利組織にマネジメント論の必要性を説いた際、多くの非営利関係者から「企業のような汚い組織と一緒にしないでほしい」と強い抵抗にあったという。だが、30年後にはドラッカーの教えは多くの非営利組織に受け入れられ、結果、飛躍的な成長を遂げた。その後、ドラッカーの経営哲学をもとに非営利組織の経営診断ツールを開発された。ここでは、経営診断ツールを用いながら、ドラッカーの非営利組織論について論ずる。 第5回 5/9:個人・企業と非営利組織 「人生100年時代のパラレルキャリアとボランティア」 人生100年時代の中で、人生設計のあり方が問われ、パラレルキャリアへの注目が集まっている。また、企業は、パラレルキャリアに対して、イノベーションを創出するための新たな人材開発のひとつとして注目している。本講義では、大手企業5社に対して行ったアンケート調査結果(1.7万回答)を説明する。また、企業人材を受け入れるボランティア・マネジメントのあり方も高度化し、戦略的になっている。米国の最新動向を交え説明する。 第6回 5/16:ゲストスピーカー 2つの事例「DIRECTFORCE」「二枚目の名刺」 現役企業人の事例として「二枚目の名刺」、企業人OB事例として「DIRECTFORCE」を紹介する。 DIRECTFORCEとは、経験豊かな企業・団体の役員OBたちが、自らの経験と人脈を生かして社会貢献を推進することを目的にした非営利組織である(2002年創設)。会員は600人。活動は、・子どもたちへの教育支援活動、・若手や中小企業への経営指導、・地方創生や地域デザイン支援から構成されている。ここでは、なぜDIRECTFORCEを創設しようとしたのか、その活動を通じて見えてきた課題、今後目指すものについて伺う。 「二枚目の名刺」とは、職場の名刺の他に、“2枚目の名刺”を持って社会のために働くことをスローガンに、現役商社マンが立ち上げたNPOである。これまで、15年間で、ボランティアを希望する数千の企業人とNPOとのマッチングを行い、双方の成長と発展を促してきた。ここでは、ユニークなマッチングの仕組み、運営方法、成果、今後について伺う。 *ゲストスピーカーの場合、予定変更の可能性あり。 第7回 5/23:政府とNPO 「市民社会政策:官から民へ ~なぜ下請け化は生じるのか~」 「官から民へ」をスローガンにした行財政改革は、2001年の小泉政権以降、特に顕著になった。政府部門が担ってきた社会サービスを民間にアウトソーシングする政策が施行される中で、その影響を最も受けた主体のひとつがNPO法人である。具体的には、多くの自治体からNPOへ行政業務委託が行われたが、それはNPOの収入構造、行動様式に変質をもたらし、「下請け化問題」の問題を引き起こした。ここでは、下請け化現象を分析し、その原因を行政側とNPO側の双方から分析する。 第8回 5/30:ゲストスピーカー ソーシャルベンチャー (株)LITALICO安原健朗氏 ソーシャルベンチャーで活躍する本学公共政策大学院卒業生をゲストに招く。ゲストは(株)LITALICOの執行役員である安原氏。同社は、“障害のない社会をつくる”をビジョンに、発達障害を持つ成人の就労支援、同じく発達障害を持つ子どもや親の教育支援を行っている。短期間で急成長を遂げ、売上収益は350億円、社員数は5000人に達し、本学卒業生も複数が就職している。本講義では、LITALICOの設立経緯と使命、上場するまでの発展経緯、IR活動と社会的使命の緊張、今後の展開や夢について伺う。*ゲストスピーカーの場合、予定変更の可能性あり。 第9回 6/6:非営利と市民をつなぐ社会装置「資源提供者と非営利組織の仲介機能の設計I ~ミスマッチ問題~」 非営利組織の運営基盤強化には個別の努力のみならず、社会装置が必要である。なぜならば、複数の資源提供者(資金や人材等)と非営利組織の間にミスマッチが生じているからだ。そして、それは個々の組織や個人の努力を超えた多対多の問題で、それに応じた解決策が必要である。ここでは、ミスマッチ問題の解決策として、個人などの様々なリソース(金銭・人材)提供者と市民社会組織を仲介する機能(インターメディアリ)を提案したい。そこで、まず、リソースと市民社会組織の間で起こっているミスマッチ問題を分析する。次に、ミスマッチ問題の解決策としてインターメディアリ機能を提案する。そして、この提案の妥当性をロナルド・コースの取引コスト論に依拠して説明する。 第10回 6/13:非営利と市民をつなぐ社会装置「資源提供者と非営利組織の仲介機能の設計II ~インターメディアリ~」 取引コスト論に基づくインターメディアリ機能は、非営利組織の現場でいかに機能しうるものなのか。ここでは、米国や英国の事例を紹介し、第9回の理論を用いて分析する。また、我が国でも、東日本大震災被災者の救援や復興を目的として、市民から寄付を集めNPOに配分するインターメディアリが複数存在した。しかし、どこに資金を投じ、どのような成果をもたらしているのだろうか。それが不透明な場合には、インターメディアリのみならず、非営利セクターの信頼性に影響することなる。ここでは、日本のインターメディアリの可能性と課題について議論したい。 第11回 6/20:「評価とは何か」 評価は非日常的で特別な作業と捉えられがちである。しかし、評価は日常生活のあらゆる場面で営まれている行為である。また、営利企業から、行政府機関、非営利組織のあらゆる機関において、評価が多面的に行われている。本コマではこうした状況を評価の視点から整理し、捉えなおす。その上で、評価の特徴や困難の背景にある原因について考察する。 第12回 6/27:「変化とは何か ~進捗と効果を科学する~ 」「組織評価と基準設計」 評価作業の基本は、対象となった政策や施策の効果、あるいは進捗を測定することである。だが、効果や進捗の意味をよく把握せず、漠然と測定作業をしていることは少なくない。ここでは、効果と進捗を「変化」という概念から見直し、それらを測定するための基本的な方法論、ロジックモデル、セオリー・オブ・チェンジ等をレビューする。  「組織評価と基準設計」 次に、組織評価を取り上げる。組織評価は基準や条件への適合性をもって評価することが多いため、基準の設計方法が肝要となる。ここでは、非営利組織評価事例として毎日新聞社と共催する「エクセレントNPO大賞」を挙げるが基準の構成や審査方法について学ぶ。 第13回 7/4:まとめ&「補正予算の会計検査と世論・議会の反響 ~1本の評価が社会を動かす時~」 本講義担当の田中は2025年3月まで会計検査院長を務めた。同院は、2024年11月に補正予算の検査報告を公表した。我が国の決算制度では、補正予算のみを取り出して執行状況を把握することは出来なかったが、初めて明らかにした。その反響は大きくメディア、視聴者の意見、さらには国会での質疑にも影響した。検査結果の詳細と先の反響を財政民主主義の観点から考察する。 最後に講義のまとめと課題を説明する。
授業の方法
教室での講義
成績評価方法
最終レポート、小レポートによる成績評価 授業や議論における貢献度
教科書
〇田中弥生著「ドラッカー 2020年の日本人への「預言」集英社 2012年 〇田中弥生著「市民社会政策論 ~3.11後の政府、NPO、ボランティアを考えるために~」明石書店 2011年 〇田中弥生著『NPO新時代 ~市民性創造のために』明石書店 2008年 ○田中弥生著『NPOと社会をつなぐ ~NPOを変える評価とインターメディアリ~』東大出版会2005年 ・田中弥生著『NPOが自立する日 ~行政の下請け化に未来はない~』日本評論社 2006年
参考書
・田中弥生著「談合問題は新たな公共の担い手に何を教えているのか」ハーバード・ビジネス・レビュー2007年5月号、ダイヤモンド社 ・田中弥生著「NPO 幻想と現実〜それは本当に人々を幸福にしているのか」同友館 1999年 ・P.F.ドラッカー、G.Jスターン著 田中弥生監訳「非営利組織の成果重視マネジメント〜NPO、行政、公益法人のための『自己評価手法』」ダイヤモンド社 2000年 ・P.F.ドラッカー著 上田惇生訳『経済人の終わり ~全体主義はなぜ生まれたのか』ダイヤモンド社 1997年 ・レスター・サラモン著 入山映訳「米国の非営利セクター入門」ダイヤモンド社 1994年 ・ロバート・ジュラトリー著、根岸隆夫訳『ヒトラーを支持したドイツ国民』みすず書房 2008年 ・ロナルド・コース著 宮沢健一他訳「企業・市場・法」東洋経済 1992年 ・デビット・コーテン著、渡辺龍也翻訳『NGOとボランティアの21世紀』学陽書房1995年 ・重冨真一監修『アジアの国家とNGO〜15ヶ国の比較研究』明石書店 2001年 「関連参考文献」 ・井上達夫『新哲学講議7 自由・権力・ユートピア』岩波書店1998年 ・佐伯啓思著「市民とは誰か」PHP新書 1997年 ・辻中豊、ロバート・ペッカネン、山本英弘『現代日本の自治会・町内会―第1回全国調査にみる自治力・ネットワーク・ガバナンス』 (現代市民社会叢書 1)木鐸社2009年 ・辻中豊、森裕城編著『現代社会集団の政治機能 ~利益団体と市民社会~』 (現代市民社会叢書 2)木鐸社2010年 ・ピーター・ドラッカー著 田代正美他訳「非営利組織の経営」ダイヤモンド社 1992年 ・ユルゲン・ハーバーマス著細谷貞雄・山田正行訳『公共性の構造転換』未来社 1973年 ・レスター・サラモン著 今田忠監訳「台頭する非営利セクター」ダイヤモンド社 1995年 ・Burton Weisbrod(1998) The Nonprofit Economy Harvard ・Edit By Dennis Young(2007) Financing Nonprofit Altamira  ・Walter W. Powell,Richard Steinberg(2008) The Nonprofit Sector A Research Handbook, Second Edition Yale University ・Peter H Rossi, Howard E. Freeman, Mark W. Lipsey(2014) Evaluation: A Systematic Approach Seventh Edition SAGE Publications ・Hartry, H.P., Wholey, J.S., (1999) Performance Measurement: Getting Results, Urban Inst Pr. ・Poister, H.T.(2003)Measureing Performance in Public and Nonprofit Organizations, Jossey-Bass
履修上の注意
大学院生以上を対象としている。公共分野(官、民双方)で働くことや活動すること、研究に興味がある方。 後期教養教育の指定を受けており、特に専攻は問わない。 英文の参考書を使う。