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最終更新日:2025年4月21日

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市民社会組織・政策論

【目的と基本スタンス】 本講義は、市民社会の中軸を担う市民社会組織(非営利組織)の役割と機能、課題について論ずること、そして、昨今のトレンドである社会課題を解決し、パブリックに貢献することについて議論することを目的とする。 非営利組織が、政策的課題として本格的に取り上げられるようになったのは20世紀後半の東西冷戦終焉直後からである。だが、その捉えられ方はユートピアに傾斜していた。しかしながら、歴史を振り返れば、市民社会は正にも負にも作用する。そこで、まず、ナチスと市民社会等に着目し、正負両面から批判的に捉える。そして、市民社会の中軸を担う非営利組織論、評価論の基礎について論ずる。  また、社会課題の解決を通じてパブリックに貢献することを目的にベンチャーを起業したり、ライフテーマとすることを希望する人々が増えている。そこでこの領域で活躍する方々(企業、NPO、政府)をゲストに招き意義やアプローチについて議論する。 【内容】以下のような内容を網羅する予定である。詳細は授業計画を参照のこと。 ・イントロダクション:日本社会の持続性と非営利組織  ・社会統治と市民社会 ~ドラッカーとナチスとボランティア~ ・市民社会組織論:非営利経営論 ・市民社会と社会装置:資源提供者と非営利組織の仲介機能の設計 ・評価論「変化とは何か 進捗と効果を科学する~ アウトカムとロジックモデル」 ・パブリックを担う多様な主体との議論:世界的ピアニストの輩出と地域音楽教育を担うNPO/発達障害教育ベンチャーLITALICOなど。 *本講義は「後期教養教育科目」および大学院横断型教育プログラム「科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育プログラム」に認定されています。 ・後期教養教育科目はこちらを参照ください: https://www.u-tokyo.ac.jp/***** ・科学技術イノベーション政策の科学(STIG)教育プログラム」はこちらをご参照ください:https://stig.pp.u-tokyo.ac.jp/*****
「市民社会組織・政策論のめざすもの」

市民社会組織(非営利組織)が、政策的課題として本格的に取り上げられるようになったのは東西冷戦終焉直後からである。だが、主たる期待は社会サービスの補填機能であった。昨今、ポピュリズムや民主主義の危機が取りざたされる中で、大きな緊張感が生じている。こうした中で市民社会は正にも負にも作用する。そこで、ナチスなど歴史的変遷にも着目しながら、市民社会とその中軸を担う非営利組織について考察することが本講義の底流に流れる問題意識である。

2023年度においては、パブリックへの参加と、その担い手としての非営利組織に着目して講義を構成する。
 社会課題の解決を自らの仕事のテーマ、ひいてはライフテーマにする人々が増えている。社会課題が横たわる領域は、多数の人々に影響をもたらすそれであり、ひいてはパブリックの領域(公共領域)と重なる。パブリックの領域は政府の占有物ではなく、社会情勢、市場の動向、規制などの法的条件の変化によって、常に変容する領域である。また、その担い手は行政機関などの公的機関に限らず、企業や民間非営利組織など多様な主体が担っている。

本講義は大きく2つの柱で構成する。
 第1に、パブリック領域の中でも、個人や市民の自由意志と参加で築かれる民間非営利組織について学ぶ。ここでは、民間非営利組織に焦点を当てて、その存在意義を示す理論、さらにはマネジメントについて学ぶ。そして、パブリックの領域で活動する政府と非営利組織の関係性に着目し、官民協働にかかる政策とその影響に着目する。
 また、非営利組織は市民、企業、そして行政機関などと連携を行っている。また、組織を維持運営し、社会的インパクトを生むためには多くの市民の支持を得る必要がある。しかしながら、非営利組織には企業(市場)、政府(選挙)に該当するユニバーサルな評価メカニズムが存在せず、支持対象としてのNPOの評価基準が曖昧である。非営利の評価研究はそのような背景から生まれた。ここでは、評価の基礎的な考え方、主要な技術について学ぶ。

 第2に、パブリックに参加することに着目し、特に、この領域で働くことの意義について、各セクターからのゲストを招き、受講生と議論する。ゲストには、政府、民間営利(企業)、民間非営利のそれぞれ3つの組織で働く人々を招く。仕事の内容、そのプロセスを成果、個人にとっての動機などを聞きながら、自らの意思で社会課題の解決を通じて、パブリックに貢献することの成果と意義について議論する。

註)NPO、NGOは非営利組織と呼ばれることが多いが、営利を追求しない組織という意味しか説明しない名称であるという批判があった。そこで、民間の立場から公益や社会課題の解決を目的に活動する組織体を体現する名称として、市民社会組織(Civil Society Organization)という言葉が用いられることがあり、特に国際社会では一般的になっている。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
5122011
GPP-MP6P20L1
市民社会組織・政策論
田中 弥生
S1 S2
金曜6限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
公共政策学教育部
授業計画
第1/回4/7:「イントロダクション」  講義全体に流れる問題意識とテーマを述べた上で、講義の進め方(方針)、構成について説明する。そして、少子高齢化、財政破綻、パンデミックの影響を受け、政策的パラダイムが大きく転換されようとしている社会において、シビルミニマムをどう再定義するのか、受益と負担に対する国民意識をどう醸成するのか、そして市民社会組織は何を期待されているのか議論する。 第2回4/14:「社会統治と市民社会 ~ドラッカーとナチスとボランティア~」 なぜ社会には非営利組織が必要なのか。公共経済的な説明に基づけば、政府の失敗、市場の失敗を補填する存在として非営利組織の必要性が説明される。しかし、これとは全く別の視点から非営利組織を説明したのが青年ドラッカーであった。自らユダヤ人であり、ナチスドイツの屈辱を受けながら、その怒りを執筆のエネルギーに変え、人類が二度と全体主義に陥らないための叡智を模索し第二次大戦中にナチスの批判的分析を出版した。氏は全体主義について「結局は国民が選んだのだ」と結論づける。21世紀になり、ナチス研究に新たな潮流が生まれている。それは、ゲシュタポに密告を通じて積極的に協力し、ユダヤ人虐待を傍観していた市民の様子がデータから導き出しているもので、ナチス政府に支配され犠牲になった市民という従来の論説とは大きく異なる。また、ナチスは熱心なチャリティー、ボランティア促進策を進めていた。本講義ではこの史実に基づき市民社会や民主主義が抱える危うさについて直視する。 第3回4/21:「非営利組織とは何か「経済学アプローチの非営利組織論」」 非営利組織の存在意義を理論として説明したものとしては、政府の失敗、市場の失敗が有名であるが、ここでは公共財の分権的供給と多元的価値観、情報の非対称性などに基づく各理論について概観する。これらの理論は、市場と政府が十分に機能していることを前提にした理論であるがゆえにその限界もある。ここでは、クリティカルに理論を捉え、受講者の皆さんと議論したい。 第4回4/28: 非営利マネジメント論 ~ドラッカーの成果重視マネジメント論より~」 ドラッカーは、アメリカ社会の多様性を担保するものが非営利組織であり、またアメリカの最大の強みでもあると述べている。しかし、その非営利組織にマネジメント論の必要性を説いた際、多くの非営利関係者から「企業のような金儲けばかりを追う汚い組織と一緒にしないでほしい」と強い抵抗にあったという。しかし30年後にはドラッカーの教えは多くの非営利組織に受け入れられ、その結果飛躍的な成長を遂げた。ドラッカーは自ら財団を創設し、非営利組織の経営診断ツールを開発している。ここでは、経営診断ツールを用いながら、ドラッカーの非営利組織論について論ずる。 第5回5/12「パブリック領域における政府とNPO~なぜ下請け化は生じるのか~」 「官から民へ」をスローガンにした行財政改革は、小泉政権以降、特に顕著になった。政府部門が担ってきた社会サービスを民間にアウトソーシングする政策が施行される中で、公共領域の担い手に変化が生じた。その影響を最も受けたのは、同時期に法制度が施行され、急増したNPO法人である。具体的には行政業務の委託が多くの自治体で行われたが、それは市民社会組織の収入構造、行動様式に変質をもたらし、「下請け化問題」の問題を引き起こした。ここでは、下請け化現象を分析し、その原因を行政側と市民社会組織側の双方から分析する。 第6回5/19 ゲストスピーカー ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)(日程変動あり) ピティナとはピアノ指導者を中心とした17000人の会員から成る音楽教育団体である。1966年、ピアノ指導者が交流しピアノ教育を向上させることを目的に創設された。現在、毎年のべ45000人が参加する国内最大規模のピアノコンクールを開催している。コンクールの運営は全国の地域グループのボランティアで支えられているが、クラス別に編成され、特級クラスからは世界的なピアニストが輩出されている。2021年ショパンコンクール上位入賞者、2022年ロンティボーコンクール優勝者、東京大学出身でyoutuberとしても活躍する角野隼人さんもピティナ出身である。  ピティナはあくまでも草の根の活動をベースにしながら、世界的なピアニストを輩出するという世界的にみても稀な団体である。また60年以上にわたって組織を維持、発展させたこと、その間にサクセッションに成功しているという点で、非営利組織論としても貴重なケースである。本講義では福田成康代表をゲストに招き、ピティナの歴史、活動と運営、将来ビジョンについて語っていただきながら、ケーススタディとして議論したい。 第7回5/26:「市民社会と社会装置I:資源提供者と非営利組織の仲介機能の設計 ~ミスマッチ問題~」 市民社会組織(CSO)の運営基盤強化には個別努力のみならず、社会装置が必要である。資金や人材などの資源提供者とCSOの間にミスマッチが生じているが、それは個別の努力の問題を超えた多対多の問題だからである。ここでは、社会装置として、寄付やボランティアを希望する人々と市民社会組織を仲介する機能(インターメディアリ)を提案したい。そこで、まず、寄付やボランティア希望者と市民社会組織の間で起こっているミスマッチ問題を分析する。そして、ミスマッチの解決策としてインターメディアリ機能を提案するが、その正当性をロナルド・コースの取引コスト論に依拠して説明する。 第8回6/2:「市民社会と社会装置II:資源提供者と非営利組織の仲介機能の設計 ~インターメディアリ~」 取引コスト論に基づくインターメディアリ機能は、市民社会組織(CSO)の現場でいかに機能しうるものなのか。ここでは、米国のボランティア人材とCSOの仲介事例、英国の寄付者とCSOの仲介事例を紹介する。そして、これらの事例を取引コスト論に基づいて、その基本機能を分析する。さらに、これらの事例で取り上げた仲介機関が取引コストの削減に加えて、仲介したCSOの信頼性の保証、効果の検証をいかに行いうるのかについて、考察する。 第9回6/9 ゲストスピーカー 教育ベンチャー(株)LITALICO (オンライン、日程変動あり) LITALICOは「障害のない社会をつくる」ことをビジョンに掲げ、障害を持つ成人の就職支援、発達障害をもつ子どもの学習支援を主軸に事業を展開するベンチャーである。30代の社長を筆頭に若手で構成されるが、現在、2000人以上を雇用し、東証一部上場するなど急成長を遂げている。また、外資系コンサルタント、金融系の企業から転職したり、本院卒業生も活躍している。ここでは公共政策大学院卒業生で、同社の執行役員を務める安原氏に、LITALICOについて語ってもらう。 第10回6/16「評価とは何か」  評価は日常業務とは別の特別な作業と捉えられがちである。しかし、評価は日常生活のあらゆる場面で営まれている行為である。また、営利企業から、行政府機関、民間非営利組織のあらゆる機関において、評価が多面的に行われている。本コマではこうした状況を評価の視点から整理し、捉えなおす。その上で、評価の特徴や困難の背景にある原因について考察する。 第11回6/23「変化とは何か ~進捗と効果を科学する~ 」  評価作業の基本は、対象となった政策や施策の効果、あるいは進捗を測定することである。だが、効果や進捗の意味をよく把握せず、漠然と測定作業をしたり、あるいは効果を上げねばならないというオブセッションに駆られ評価を行う例は少なくない。そこで、ここでは、効果と進捗を「変化」という概念から見直し、評価論のベースにある考え方を整理する。その上で評価の基本作業を構成するアウトカム、ロジックモデルについて学ぶ。   第12回6/30:「会計検査と財政民主主義」(ゲストスピーカー)」(対面) 会計検査院とは、国の支出の全てを常時検査し、国民に説明することを使命とする公的機関である。その身分は立法府、行政府、司法からも独立していることが憲法で保証されているのは財政民主主義のインフラとしての役割が期待されているからだ。コロナ感染症対策など巨額の財政出動がなされたが、同時に「税金の無駄遣い」への国民の関心が高まっている。では会計検査院はどのようにその期待に応えようとしているのか。ここでは会計検査院成り立ちとコロナ感染症対策予算や布製マスクの検査結果、さらには国の債務状況など昨今の検査結果について説明する。 第13回7/7:「非営利組織の評価設計/まとめとレポート課題」  最終講義では、非営利組織評価を取り上げる。組織評価は基準や条件への適合性をもって評価することが多いため、基準の設計方法が肝要となる。ここでは、非営利組織評価の事例として「エクセレントNPO大賞」(新聞社と共催)を挙げる。同賞では、ドラッカーの非営利マネジメント論をベースに設計された評価基準をもとに、応募者が自己評価しそれをもって応募することが求められる。審査も同じ基準で行われるが、加えて応募者へのフィードバックコメントを記すため、審査過程において、政策評価に従事する国家公務員、企業人が審査ボランティアとして参加している。ここでは、基準の構成や審査方法について論ずる。  また、本講義の締めくくりとしてのまとめとレポート課題について説明する。
授業の方法
対面方式を基本にするが、遠方であったり、職場の関係などの事情がある場合にオンライン受講も可とする 講義では双方型をめざしており、積極的な意見、質問を歓迎する。
成績評価方法
レポート(講義中の小レポート、期末レポート) 講義への参加
教科書
田中弥生著(2012)『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』集英社 田中弥生著(2011)『市民社会政策論 ~3.11後の政府、NPO、ボランティアを考えるために~』明石書店 田中弥生著(2005)『NPOと社会をつなぐ ~NPOを変える評価とインターメディアリ~』東大出版会
参考書
P.F.ドラッカー著 上田惇生訳(1997)『経済人の終わり ~全体主義はなぜ生まれたのか』ダイヤモンド社 ロバート・ジュラトリー著、根岸隆夫訳(2008)『ヒトラーを支持したドイツ国民』みすず書房 Rossi, P.H., Freeman,H. E., and Lipsey, M. W. (2004) Evaluation: a systematic approach, 7th ed., Sage(日本語版:『プログラム評価の理論と方法―システマティックな対人サービス・政策評価の実践ガイド』大島巌他訳、日本評論社、2005年)
履修上の注意
オンライン受講の場合には理由書を提出のこと