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最終更新日:2024年10月18日
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全学自由研究ゼミナール (ボーカロイド音楽論)
ボーカロイド音楽論
ボカロPで音楽評論家の鮎川ぱてと申します。本講義は、現代日本の音楽状況の中でもっとも重要な存在感を示す「ボーカロイド(ボカロ)」を用いた音楽群の分析を通して、近年のボカロ流行現象の本質、ひいては音楽自体の本質に迫ろうというものです。
講義では、講師がこれまでも強調してきた「永きにわたった人類による”うたの私有”が終わった」ことのインパクトを考えます。それは同時に、既存の音楽論を振り返り、再検討する機会にもなるでしょう。「アンチ・セクシュアル」というキーワードが、講義のひとつの軸になっていきます。
最初に「シーンの中で人気を博したのが、ラブソング群ではなかった」という事実に注目します。かつて音楽評論家の湯川れい子さんは「人間は、思春期を迎えるとラブソングを求めるようになる生き物なんです」と語りました。果たしてそうでしょうか。ボカロシーンでは、アンチ・ラブソング、とまでは言わないまでも、恋愛などの通念を自明とはしない感性を持った曲が人気を集めました(ex.「ラブという得体の知れないもの」)。人によっては厨二病的とも言うその感性の内と外を、フランスの人文学者ミシェル・フーコーの議論を参照しながら考えていくところから講義はスタートします。
主なアプローチ手法は、記号論、ジェンダー論、精神分析ですが、駒場と言えば、リベラルアーツ。私は、一本学出身者としてこの理念に共感する者です。狭義のアカデミシャンではないゆえに可能なある種の知的蛮勇として、前記の人文科学的手法に留まらない領域横断的な分析を試みてみたいと思っています。
開講にあたって大学から頂戴した前期課程講師用マニュアルには、皆さんに次の3つを促すようにと謳われています。「新しい概念の理解」「自発的想起」「創造的思考」。これらの現場的実践が、私の言葉で言えば「知的蛮勇」であり、「批評」です。
ボカロは老若男女、すべての人を受け入れるシーンですが、その上で、やはり主役は、若いみなさんだと思っています。みなさんが当事者として立ち会い、そしていまだ深度のある議論が少ないボカロカルチャーこそは、そのような批評の対象とするに最適です。
初音ミクが発表されて13年が経ちました。新しい作家が参入しつづけるこのシーンは衰えることを知りません(本ゼミからもたくさんのボカロPが誕生しました)。出会いばかりでなく、別れもありました。本学における本講義には、必ず弔わなければいけない作家がいます。
ボカロが好きな人。音楽が好きな人。かつてボカロが好きだった人。どの立場の人も主役です。科類は問いません。「感覚を思考の俎上にあげること」を恐れないあなたの参加をお待ちしています。
<補記>
講師は2017年より東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野中邑研究室に協力研究員として所属しています。同研究室は、学校教育がフィットしない非典型的な子どもたちにオルタナティブな教育を提供するプロジェクト「ROCKET」を運営しています。本講義は独立したものですが、「典型的ではないこと」をめぐる思考において同プロジェクトと共鳴しています。このような活動に関心のある学生にも集まってもらえたらと思っています。
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