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最終更新日:2025年4月21日
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文化人類学演習III-A
災厄の記録=表現と文化人類学
文化人類学は、「フィールドワーク」と呼ばれる経験的調査を通じて、多様な地域の文化現象や人々の生のあり方を探り、他者を理解する作業のなかで自己について問い直す学問だと言われる。だが、「他者の生きる世界に参入して記録し、他者(またそこから照らされる自己)について表現を試みる」という営みは、人類学に限られるものではない。眼の前に生起する世界をいかにして捉えるかは、どのような媒体でどのように記録し、誰に向けてどのようにその記録を公開・共有するかという表現形式をめぐる問題と表裏一体である。
本授業では、とりわけ東日本大震災をめぐる表現活動に焦点を当て、災厄の記憶/記録/継承の間をつなぎ往還する「生をかたどる技法」、自己と他者が入り交じりながら展開するその多様なあり方を考えていく。具体的には、公・民間それぞれによる伝承施設の展示、ドキュメンタリー等の映像表現、現代アートの分野におけるフィールドリサーチや「再演」(リエンナクトメント)の手法を取り入れたインスタレーションの制作・公開について等を取り上げる。
担当教員はこれまで、フィールドの人々やアーティストと協働して、映像や実物資料等のイメージを用いた民族誌的展示や、映像アーカイブの創造的活用に向けたアート・ワークショップの制作、現代アートと人類学を越境する展覧会の企画等を行い、拡張的な人類学的表現手法を手探りしてきた。その知見が議論の土台にはなりえるものの、本授業は「芸術の人類学」や「マルチモーダル人類学」の実践例や理論について一方向的に講義するものではない。履修者とともに、試行錯誤の中から表現された作品を見て、実際に作り手の語りに耳を傾け、対話型のワークショップを重ねる。そのようなプロセスを通じて、他者と自己の経験や記憶を記録/表現し、さらに時空間的に遠い他者を巻き込み共有/継承する方法について考えていきたい。それらは従来の文化人類学が練り上げてきた表現手法や理論と通じ合う部分がある一方で、決定的に異なる部分もあるだろう。そのような意味で、本授業の目的は、災厄の記録=表現や、人類学的表現をめぐって参加者自身が多様な思考を展開し合う場をひらき、繊細で複雑な表現の形と真摯に向き合い、わからなさや届かなさといったモヤモヤを抱えながら、「ともに人類学する」ことにある。
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