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最終更新日:2026年4月20日

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近代ヨーロッパ文化変容論II

記憶と廃墟の詩学・史学 ― 惨禍の表象と解釈学的問題
この演習では、とくに第一次世界大戦および第二次世界大戦の戦争遺構として残された廃墟が、文学および歴史叙述のなかでどのように表象され、記憶されてきたのかを検討します。対象の中心はイギリス文学とイギリス史ですが、必要に応じてヨーロッパや日本の事例も参照し、戦争遺構をめぐる文化的・歴史的記憶の形成過程を比較しながら考察し、どのような問題設定が可能であり、どのようなアプローチをとることができるかを考えてみます。
廃墟(ruins)は、近代以前から美学的・歴史的意味を帯びてきた文化的トポスです。18世紀には古代遺跡の発掘(とくにポンペイおよびヘルクラネウム)や古典古代への関心の高まりを背景として、歴史の時間性や文明の盛衰を象徴する審美的対象として浮上しました。故事物研究を促進し、新古典主義を浸透させる一方で、ローマ帝国の衰退と崩壊という歴史的過程を視覚化した遺跡は、文明・文化の有限性を意識させる歴史認識を構築していきます。このような廃墟意識はロマン主義文学において顕著に展開し、時間の不可逆性と存在の断片化を想起させる象徴的空間として文学表象のなかに組み込まれていきました。
しかしながら、20世紀の第一次世界大戦および第二次世界大戦において、都市や建築が大規模に破壊されたことで、廃墟は単なる歴史的遺物ではなく、近代戦争の暴力と人類史的破局を証言する物質的痕跡として新たな意味を帯びることになりました。Blitzによるロンドン空襲で破壊された教会建築、イギリスおよび連合軍が産みだしたドイツ都市の廃墟、アウシュヴィッツなどの強制収容所跡、さらには広島の原爆ドームなどは、沈黙する証言者として歴史的記憶の核を形成しています。
こうした戦争遺構は同時に、保存・再建・記念化をめぐる政治的・文化的葛藤の場でもあります。廃墟は歴史的な「記憶の場」として保存されるべきなのか、それとも再建や都市再開発のなかで消失する不可避的運命に従うものなのかという疑問は、記憶と忘却、歴史と物質文化の関係をめぐって重要な問いを提起してきました。
本演習では、文学作品や史料・文献における廃墟の表象を精読するとともに、記憶研究および文化史の研究を参照しながら、戦争遺構としての廃墟がどのように文学テクストのなかで表象され、歴史意識を形成し、また再解釈されてきたのかを検討します。文学テクストと歴史研究を横断的に読み解くことで、廃墟という物質的空間が文化的記憶の形成において果たす役割を多角的に理解することをめざします。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
31D220-0383S
GAS-AS6B08S2
近代ヨーロッパ文化変容論II
大石 和欣
S1 S2
月曜5限
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講義使用言語
日本語、英語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
総合文化研究科
授業計画
第Ⅰ部 廃墟の文化史と美学 第1回 廃墟という文化的トポス:理論と方法 目標 廃墟研究(ruin studies)と記憶研究(memory studies)の基本概念を理解する。 テーマ・「記憶の場(lieux de mémoire)」とは何か ・物質文化としての記憶 ・廃墟と歴史意識 参照文献 ピエール・ノラ編『記憶の場』 Andreas Huyssen, Present Pasts: Urban Palimpsests and the Politics of Memory (2003) Robert Bevan, The Destruction of Memory: Architecture at War (2006) 第2回 18世紀ヨーロッパにおける廃墟美学 目的 古代遺跡の発掘とピクチャレスク美学の成立を辿る。 テーマ  •廃墟と崇高 •歴史時間の可視化 •観光・風景・審美 参照文献William Gilpin, Observations on the River Wye (1782)(抜粋) Edward Gibbon, The History of the Decline and Fall of the Roman Empire(抜粋) Christopher Woodward, In Ruins (2001) 和訳あり。 Tim Edensor, Industrial Ruins (2005)(序論) 第3回 ロマン主義文学と廃墟の想像力 目標 ロマン主義における廃墟の意味を考察する テーマ •廃墟と歴史の想像力 •自然と文明の弁証法 •帝国の衰退の寓意 参照文献 William Wordsworth, “The Ruined Cottage” Percy Bysshe Shelley, “Ozymandias” Thomas McFarland, Romanticism and the Forms of Ruin (1981) Anne Janowitz, England’s Ruins (1990) 第Ⅱ部 第一次世界大戦とモダニズム(4–6回) 第4回 第一次世界大戦と近代の破局 目標 第一次世界大戦の破壊と暴力がどのように言語化されているか確認すると同時に、それが記憶の問題としてどのように扱われうるかを考察する。 テーマ •塹壕と近代戦争の景観 •戦争体験の言語化 •死者の記憶 参照文献 Wilfred Owen, “Anthem for Doomed Youth” Paul Fussell, The Great War and Modern Memory (1975) Jay Winter, Sites of Memory, Sites of Mourning (1995) 第5回 モダニズム文学と精神的廃墟 目標 モダニズム文学において、廃墟がどのような表象として現れうるのかを考察する。とりわけ物理的廃墟と同時に、精神的な崩壊の表象としての解釈可能性を追究する。 テーマ •「荒地」と文明崩壊 •都市と精神的荒廃 •モダニズムの歴史意識 参照文献 T. S. Eliot, The Waste Land (1922) Lawrence Rainey, Revisiting The Waste Land 第6回 戦争の記憶と都市空間 目標 戦争の記憶が都市空間のなかでどのように浮上してくるか、その言語化をウルフのだろウェイ夫人をテクストにして考察する。 テーマ  •PTSDと文学 •都市空間と戦争記憶 •個人的記憶と公共記憶 参照文献 Virginia Woolf, Mrs Dalloway (1925) Jay Winter, “shell shock and memory” 第Ⅲ部 第二次世界大戦と爆撃都市(7–10回) 第7回 空襲と都市破壊 目標 戦時下の空襲について歴史的実態とともに、その破壊の文学的表象を考察するとともに、都市の被害状況を確認し、都市空間の変容がどのようなものであり、どんな歴史的意義を持っているかを検証する。 テーマ •Blitzと都市の記憶 •市民生活と戦争 参照文 Elizabeth Bowen, The Heat of the Day (1948) Mark Connelly, We Can Take It! Britain and the Memory of the Second World War (2004) 第8回 爆撃都市の文学 目標 空爆を受けた都市や建築物がどのように戦争の記憶として保存・維持されていくか、記念碑としての意義を検証する。 テーマ •空襲の文化史 •国家神話と記憶 参照文献 Graham Greene, The Ministry of Fear (1943) Angus Calder, The Myth of the Blitz (1991) 第9回 ドレスデン爆撃と記憶の倫理 目標 ドレスデンやドイツにおける連合軍の爆撃について、その文学的表象と歴史的意義を検証する。 テーマ •記憶とフィクション •戦争責任の問題 参照文献  Kurt Vonnegut, Slaughterhouse-Five (1969) Frederick Taylor, Dresden: Tuesday, February 13, 1945 (2004) 第10回 ホロコーストの空間 目標 ホロコーストの記憶とその表象について、文学と歴史双方から再検証する。 テーマ •記念碑と証言 •表象の倫理 参照文献 Primo Levi, If This Is a Man  James Young, The Texture of Memory (1993) 第Ⅳ部 廃墟・記憶・都市(11–13回) 第11回 戦争遺構と記念建築 目標 戦争遺構や記念碑的建築について、その現状と課題を考察し、記憶としての戦争が歴史学的にどのように位置づけられるか検証する。 テーマ •廃墟保存 •記憶政治 事例 Coventry Cathedral Hiroshima Peace Memorial 参照文献 Robert Bevan, The Destruction of Memory Lisa Yoneyama, Hiroshima Traces (1999) 穎原澄子『原爆ドーム-物産陳列館から広島平和記念碑へ』(2015年) 第12回 記憶の風景と文学 目標 戦争の記憶および戦争の破壊力を主題に据えた文学を分析し、廃墟の叙述について文学史的意義を考えると同時に、記憶の歴史学について意味を考察する。 テーマ •記憶の地理学 •廃墟と歴史叙述 参照文献 W. G. Sebald, The Rings of Saturn 和訳あり ---. On the Natural History of Destruction  和訳あり 第13回 廃墟・記憶・未来 目標 廃墟、記憶、未来についてこれまでの授業で学んだことを基礎にして、さまざまな角度から検討する。 テーマ •廃墟保存と都市再開発 •ダークツーリズム •未来の記憶 など
授業の方法
毎回、課題となるテクストを題材にして、それぞれ定められたテーマにそって議論・検討をしていきます。 発表担当者を割り振りたいと思いますので、授業計画を確認の上、発表担当したい回とテクスト(リストにあがっていないものでも関連する文学作品であればなんでも可)を決めておいてください(第2希望まで)。
成績評価方法
出席態度60%、発表20%、レポート20%、
履修上の注意
読解するテクストについては、履修者のほうで自由に選択して結構です。 最初の授業で相談しながら決めていきます。 教員側が容易するものについては、Google Classroom経由で配布しますので、以下の招待コードからアクセスの上、登録しておいてください。 https://classroom.google.com/*****