4/9,4/16
瀧雅人「深層学習のフロンティア:学習するコンピュータが世界を変える」
深層学習は,1940年代以降に統計学やコンピュータサイエンス,神経科学,OR,認知心理学,理論物理学,数理科学などが渾然一体となって発展してきた人工知能(AI)という研究分野に結実した最大の成果です.70年来の研究者の夢であったAIの実現を可能にしてくれる深層学習の威力は強力で,この12年にわたる発展は凄まじいものがありました.また,2024年度のノーベル賞はAI研究に対して物理学賞と化学賞の二賞が与えられましたが,長い目で見ればこれは科学研究の劇的な変動の始まりに過ぎません.この授業ではまず,機械学習の仕組みの簡潔な解説から始めて,深層学習とは何か,何がその発展を可能にしているのか,そして深層学習により何ができるのかを解説します.いくつかの成果を紹介したのち一度具体例から離れて,人間の明示的な知識ではなくデータに多くを委ねる機械学習というアプローチが,データ規模がスケールアップすることで思いもよらなかった機能や性質を発現することを説明します.その最大の成果として,この数年注目を集めている大規模言語モデル(LLMs)に関する成果や謎を議論したいと思います.また箸休めとして,この分野へ関心のある学生さんのために,業界の人材の流動性や研究成果の発表の様子など,AIの研究業界の様子も少し紹介したいと思います.AIという分野の歴史と最前線を垣間見れば,既存分野の壁に縛られてることの無意味さが感じられますし,これからはどの分野においても新しいアプローチがより求められる時代になるでしょう.そんな時代を担う次世代のみなさんへ刺激を与えるような授業を目指したいと思います.
4/23, 6/18
辰馬未沙子「惑星形成の物理」
惑星形成論は,μmサイズの塵から惑星までの固体成長理論です.この成長過程は,塵の分子間力などの付着力によりkmサイズの微惑星へと成長する過程と,重力により微惑星が集積し惑星へと成長する過程の2つに分けられます.本講義では,微惑星形成過程における障壁を解説し,それを克服するために提案されている理論を紹介します.
5/7, 5/14
間瀬崇史「差分方程式入門 ~現象記述と数理構造の観点から~」
微分方程式は,現象を記述する道具として分野を問わず頻繁に用いられます.一方,現象を記述する際に,微分方程式ではなく差分方程式が用いられることもあります.差分方程式とは,おおざっぱに言えば離散的な独立変数を持つ関数についての方程式で,高校までの数学では数列の漸化式が代表的な例になります.この講義では,現象の記述と数理構造という2つの側面から,差分方程式について紹介していきます.
5/21, 5/28
野海俊文「宇宙論入門」
宇宙はどのように始まったのか?ブラックホールって何者?物質や相互作用を記述する宇宙の基本法則は?そもそも時間や空間とは何なのか?宇宙について考えると様々な疑問が湧いてきます.これらの疑問に最先端の理論と最新の観測・実験データを駆使して挑むのが宇宙論です.例えば,近年の理論研究では,従来の宇宙論・素粒子論の考え方に加えて非平衡物理や量子情報の視点も取り入れられるなど,分野の枠に捉われない研究が進められていいます.観測・実験サイドでは,2040年頃に「100万キロサイズの重力波干渉計」を宇宙に打ち上げたり,月の裏側で電磁波観測をしようという議論も真剣になされています.本講義でははじめに,高校で学ぶ力学と熱力学を用いて「宇宙をどうモデル化するか?」を議論し,これまでの宇宙論を概観します.その後,みなさんが現役世代である今後50年で宇宙について何がわかると嬉しいかを一緒に議論したいと思います.
6/4,6/11
成瀬元「地形・地層の形成メカニズムへのデータ駆動科学的アプローチ」
この授業では,地球型惑星の地形や地層がどのように形成され,そこから何を読み取ることができるのか,特に深海での地形発達作用に注目しながら説明します.これまで,地形や地層の研究は定性的なアプローチが主でしたが,計算機の進歩とデータ駆動科学的研究手法(機械学習)の発展により,近年ではより定量的な分析が可能になってきました.本授業では,新しい手法を活用し,地形や地層の複雑なパターンから過去の現象を復元する考え方について学びます.
6/25,7/2
吉田恒也「凝縮系のトポロジー」
膨大な数の粒子で構成される凝縮系では,金属や絶縁体などの多様な物性が見られます.本講義では,近年注目を集めているトポロジカル絶縁体とそれに関連する最近の話題を紹介します.
7/9, 7/16
山本暁久「生命現象の数理と物理」
私たちの体はやわらかい細胞が多数集まってできています.細胞は互いに周囲の細胞や生体高分子に接着することで安定に組織を形成しますが,色々な組織にはそれぞれ特有の配列パターンがあり,さらに疾病によってそのパターンが変化します.本講義では,細胞の力学的性質をやわらかい物質として特徴づける物理や,細胞の配列パターンを記述するための物理と数理科学の手法を紹介します.さらに,実際に疾病によって細胞配列パターンが変化する医学の問題においてこれらの考え方を用いることで,普段は遠くにあるように思える数理や物理・医学の分野それぞれで新たに何が見えてくるのか,最近の研究も含めて紹介します.
*授業時間の後に全履修者が参加・共有できる形で質疑応答の機会を設けます.
*7月16日は東大の授業日ではありませんが,講義はあります.これについては出席にカウントしないので,出席するかどうかは自由です.