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最終更新日:2024年4月22日

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人文科学ゼミナール(哲学・科学史)

クリティカル・シンキングと美的観点
 第一義的には、批判的論理思考(critical thinking)の方法を学び、公正な議論のやり方を体得する。その手掛かりとして、「論理的観点」と「美的観点」の類縁性を利用する。内容的素材として、第二次世界大戦、とくに原爆投下に対する既出の賛否両論を用いる。
 第二義的には、歴史的知識の習得。とくに、現在の文化・政治・経済の枠組みをいまだに制約している第二次世界大戦の経緯について、最低限の知識・意見を身につけることを目標とする。とくに、倫理的・政治的観点に偏って一面的になりがちな戦争像を、「論理的」「美的」にとらえ直すことにより、複眼的な歴史観・人間観を発展させる端緒としたい。 
 なお、戦争を「美的」に見るという(映画・小説などではありふれた)態度は、一般的に標榜すると「不謹慎」と評されがちである。戦争をあえて「論理的」に考える場合も、同様の道徳的非難を受けることがある。「不謹慎」であるとはどういうことか、メタ・クリティカルシンキングの領域まで考察を広げ、科学技術社会論(STS)や環境美学への導入も試みる。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
31596
CAS-IC2210S1
人文科学ゼミナール(哲学・科学史)
三浦 俊彦
S1 S2
水曜5限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
不可
開講所属
教養学部(前期課程)
授業計画
第1回、第2回  第二次世界大戦の流れについて確認する。大戦全体を大まかに四つのパートに分け(西欧戦域、独ソ戦域、太平洋戦域、CBI戦域)、戦域間・線域内において見られるさまざまなコントラスト(例えば日独それぞれの敗戦の対照性、米英それぞれの戦争方針の対照性、戦争努力を尺度としたホロコーストと原爆投下の対照性)を手掛かりに、形式的・構造的な「美的属性」を摘出する。  加えて、倫理的・政治的対象を「美的態度」のもとで鑑賞することが、「論理的に」研究する態度と類似していることについて、準備的な芸術哲学的考察を施す。 第3回  原爆投下の「動機」「意図」について議論する。  とくに、「無差別爆撃」「戦略爆撃」「ヨーロッパ優先戦略」などの諸事項を、「ポストホックの誤謬」「係留ヒューリスティクス」「わら人形論法」といった論理的概念によって考察する。 第4回  原爆投下の「大義」について議論する。  とくに、「ポツダム宣言」「インディアナポリス事件」「一億玉砕」などの諸事項を、「構成的ジレンマ」「功利主義」「ノンゼロサムゲーム」といった論理的・倫理的・心理的概念によって考察する。 第5回  原爆投下の「正当性」「効用」について議論する。  とくに、「無条件降伏要求」「大東亜共栄圏」「単独不講和協定」などの諸事項を、「マッチポンプ」「寛容の原則」「選択効果」といった語用論的概念によって考察する。 第6回  原爆投下の「正当性」「効用」について引き続き議論する。  とくに、「硫黄島の星条旗が特別視された理由」「天皇機関説」「東京裁判」などの諸事項を、「完璧主義の誤謬」「コンコルドの誤謬」「同調圧力」といった心理的概念、「カテゴリーミステイク」などの論理的概念によって考察する。 第7回  原爆投下の「影響」について議論する。  とくに、「ダウンフォール作戦」「君側の奸」「日ソ中立条約破棄」などの諸事項を、「アドホックな仮説」「不当な一般化」「意図主義」といった論理的・哲学的概念によって考察する。 第8回  原爆投下および原爆投下を論じることの「影響」について議論する。  とくに、「被爆者感情」「ラッセル・アインシュタイン宣言」「沖縄の反戦教育」などの諸事項を、「期待効用」「慈悲深い殺人のパラドクス」「実践的背理法」といった哲学的概念、「予防ワクチン効果」などの戦略的概念によって考察する。 第9回  原爆投下の「意味」について総合的に議論する。  とくに、「第二戦線」「原爆デモンストレーション」「宮城事件」などの諸事項を、「ファインチューニング」「後知恵バイアス」「歴史修正主義」「愚者のシナリオ」といった学際的概念によって考察する。 第10回  前回までで概観した原爆投下に対するさまざまな賛否両論について、改めて批判的に検討しつつ、洩れている観点、新しい考え方があるかどうかを探る。「唯一の戦争被爆国である日本が核兵器禁止条約に参加しないのはなぜか」といった現在的問題に対する洞察が、本講座開始前に比べてどのくらい深まったか等も検証する。 第11回  倫理的・政治的関心のような実践的関心と、知的関心・美的関心とがいかに関わるかを、メタ学術的に考察する。  第12回  戦争に限らず、自然現象や社会現象を鑑賞対象とする行為を、「レディメイド」「ファウンドアート」などいくつかの美学的概念で捉え直し、戦争に美的態度で接することの「不謹慎」を考察する。さらに、  「不謹慎」という独特の情緒的雰囲気を、崇高、優美、悲壮、華麗、滑稽、わびさび、幽玄、風流、ノスタルジー、グロテスクなどと並ぶ「美的範疇」の一つとして認定する可能性を探る。 第13回  戦争を美的・論理的に考察することは、既成の価値観の破壊と再建を要求する。自由、人権、幸福、公衆衛生上の利益、規律、といった諸価値が対立しがちな今日、原爆投下論がいかなる教訓をもたらすか、総合的に考察する。  合わせて、戦争以外に、都市や人物など任意の対象を美的に鑑賞する可能性へ意識を開く。  〈WWⅠ以降の総力戦体制、WWⅡ以降の核戦略〉という環境に対峙した特定個人を美的対象として鑑賞・解釈した実践例としては、「参考書」欄の二冊目を参照(携帯必須ではない)。
授業の方法
 教科書を6~10パーツに分けて、受講者に担当箇所を割り振り、考察を発表してもらう。背景的学術情報については、適宜、講義担当者が解説を行なう。  受講想定人数 20名以内  (ただし超過した場合も、選考は行わず受け入れる)
成績評価方法
発表、発言と期末レポートによる。
履修上の注意
第二次世界大戦の歴史(アジア太平洋戦線とヨーロッパ戦線)を大まかにでも確認しておくことが望ましい。