第1回「ガイダンス」(江草)
幅広い波長域にわたる最先端の天体観測により、膨張宇宙において様々なスケールの天体が生まれ、進化している様子が明らかにされつつある。ここでは現代天文学の基本的な考え方を説明するとともに、星、ガス雲、銀河、銀河団など様々な種類・スケールの天体が、膨張宇宙の進化の過程でどのような位置づけにあるのかを俯瞰し、ゼミナール全体のガイダンスとする。
第2回「星と惑星系の誕生」(小林)
星は暗黒星雲の中で冷たい星間ガスが降り積もって作られる。そのダイナミックな一連の基本過程を、この30年ほどで確実になった観測・理論データをもとに紹介する。星の誕生と同時に、周囲を回転する原始惑星系円盤の中では、木星や地球のような惑星が誕生・成長する。この講義の後半では、主に理論シミュレーションや最近の系外惑星系の観測を通して明らかになった、惑星系誕生についての基本的な知識を紹介する。
第3回「赤外線スペクトルで見る大質量星の誕生と死」(高橋)
大質量星は数こそ少ないが、寿命が短いため進化のサイクルが早く、輻射及び物理的なエネルギー放出が極めて大きい。さらに、その最期である超新星爆発に伴って、大量の金属元素を宇宙空間に放出する。これらの特質は、恒星進化のみならず、銀河の活動性の起源、及び宇宙における元素の形成に本質的な影響を与える。この重要な大質量星の進化について、減光が大きく可視光での観測が困難な領域も含めて、赤外線スペクトル観測が明らかにしつつある現状及び将来の展望について紹介する。
第4回「小中質量星の進化と質量放出」(上塚)
小中質量星はその進化の末に赤色巨星となり、恒星内部で合成した物質を活発に宇宙へ放出する(質量放出)。この質量放出は宇宙に物質的な多様性をもたらす重要な現象の一つであるが、その一連の過程を理解するためには、小中質量星の進化や赤色巨星の脈動、星周におけるダスト(塵)の形成など、多岐にわたる現象を理解する必要がある。本講義では、これらの現象に関する観測的・理論的研究の成果とその手法について解説し、小中質量星の進化と質量放出に関する最新の描像を紹介する。
第5回「光赤外線天文学の観測技術」(酒向)
対象が遠方に位置する天文学では、他の自然科学のように能動的な実験・測定による調査を行うことができない。天体が発する微かな信号(電磁波)をいかに検出し測定するかという受動的な手法を極めることになる。CCDに代表される電子の目と高速な演算処理が可能な電子の頭脳の獲得は、天文学に17世紀の望遠鏡の発明以来の第2のブレイクスルーをもたらした。本講義では可視~赤外線光を用いた最新の観測技術とそれにより得られた研究成果について紹介する。
第6回「星間ダスト」(左近)
銀河の星々の間の空間には、原子ガスや分子ガスのほか、珪酸塩(シリケイト) および炭素質の塵が存在する。それらは星間ダストと呼ばれ、進化した星の終焉期に放出される重元素を含む恒星風が冷えて凝縮し生み出される。 星間ダストは、主に紫外線によって温められ、赤外線波長域での連続的な熱放射や、物質の組成や物理/化学状態に特徴づけられたスペクトル構造を示す。 従って、主に近〜中間赤外線の分光観測によって、星間ダストの性質を調べることが可能になる。本講義では、特に有機物の星間ダストに焦点をあて、赤外線観測天文学および実験天文学に基づく最新の知見を紹介する。
第7回「可視光・赤外線で探る銀河の誕生と進化」(小西)
光の速度は有限であるため、遠方の天体を観測すれば宇宙の過去の姿を観測することが可能となる。この事実を利用すれば宇宙や銀河の進化を探ることができるが、宇宙膨張による赤方偏移のため、宇宙初期の天体から放射された電磁波は波長が引き伸ばされて地球に届く。化学組成や活動性など多くの情報が含まれている可視光線を遠方の銀河から捉えるにはより波長の長い赤外線で観測する必要がある。ここでは最近の可視・赤外観測で明らかになってきた 銀河の形成と進化についての最新の研究成果を、その観測手法も含めて解説する。
第8回「面分光で探る天体の詳細構造」(松林)
2次元視野の分光スペクトルを一度に取得する観測手法である面分光は、広がった天体の詳細構造の解明に非常に有用であり、多くの大型望遠鏡に面分光機能を備えた装置が搭載されている。本講義では、主に可視光・近赤外線での面分光に用いられる手法と面分光観測によって得られた観測結果について解説する。
第9回「突発天体とマルチメッセンジャー天文学」(新納)
天体の中には長い年月にわたって光を放ち続けるものだけでなく、ごく短期間に強く輝き時とともに消えてしまうものも存在し、そのような「突発天体」の中には発生源やメカニズムの解明されていないものが少なく無い。近年は特に、様々な観測手段を組み合わせて天体の性質を探るマルチメッセンジャー天文学によって様々な突発天体の正体の解明が進められている。本講義では多様な突発天体種族やその正体を解明しようとする近年の観測について紹介する。
第10回「天文学とビッグデータ」(瀧田)
近年のコンピュータ性能の飛躍的な向上に伴い、さまざまな分野において「ビッグデータ」という概念が重要視されるようになってきた。天文学においても、観測装置や数値シミュレーションの高度化により、取得・生成されるデータ量は爆発的に増加しており、ビッグデータ化が急速に進んでいる。特に観測天文学の分野では、大規模観測によって得られる膨大なデータを効率的に解析するため、機械学習を用いた天体の分類や異常検出が広く用いられており、新しい天体現象の発見につながっている。本講義では、木曽観測所における Tomo-e Gozen 計画を中心的な題材として、さまざまなビッグデータ天文学の研究事例について紹介する。
第11回「近傍銀河の形態と力学」(江草)
銀河とひとことで言っても、その大きさや質量、形や星形成活動の活発さなどにはそれぞれ大きな違いがある。本講義では、近傍銀河の形態によって分類された種族(楕円銀河、円盤銀河、不規則銀河など)を紹介し、それぞれの銀河種族がどのような特徴を持っているのかについて説明する。また、各銀河の内部構造を理解するためには、星や星間ガスの運動を知ることも欠かせない。そこで、観測量から得られる力学的な指標と銀河の形態や内部構造との関連性についても紹介する。さらに、銀河内の渦巻腕構造や棒状構造が、星間ガスや星形成活動に与える影響についての最新の研究成果にも触れる。
第12回「活動銀河核」(鮫島)
銀河の中には、中心のコンパクトな領域が非常に明るく輝くものがあり、「活動銀河核(AGN)」と呼ばれている。その正体は超巨大ブラックホールだと考えられており、その周囲では様々な極限的物理現象が起こっている。特筆すべきは、恒常的に光っている天体の中で最大級に明るいという点である。このため極めて遠方にあっても活動銀河核の観測は可能で、初期宇宙の様子を捉える貴重な手段となっている。本講義では、活動銀河核観測の歴史を概観し、そこから明らかになってきた宇宙進化の様相について紹介する。
第13回「銀河団:銀河の居住環境と銀河進化」(諸隈)
銀河の居住環境には多様性があり、銀河進化は居住環境によって異なることが知られている。銀河が少ない場所もあれば、銀河が多く集まる場所もある。中でも「銀河団」は、およそ100を超える銀河が密集し、宇宙最大の重力束縛系である。現在の宇宙では、銀河団内の銀河では活発な星形成活動が行われていないことが知られている。一方、遠方宇宙の(原始)銀河団の銀河は活発に星を作っているものが多い。本講義では、銀河団における銀河進化を現在から宇宙再電離期の宇宙に遡って紹介する。