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最終更新日:2024年10月18日
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植物医科学
植物医科学概論
世界人口は、2050年には90億を突破すると予想されていますが、それを養う食糧生産の増加率は鈍り、人口増加率の半分にも達しません。そんな中で世界の食糧生産のうち三分の一が微生物病や害虫病、雑草害、生理病、気象害などからなる「植物病」によって失われていることはあまり知られていません。これは世界の飢餓人口を十分に養える量です。この危機的な状況を克服するには、植物を病気から守り、治療する研究を推進する必要があります。一方で、近年の環境問題への意識の高まりとともに、持続性の高い先端農業への転換が強く期待されています。農薬や遺伝子組換え作物に変わりうるものとして植物圏微生物叢やゲノム編集作物などが注目を集めています。これら幅広い研究課題を担う学問分野が「植物医科学」です。植物医科学は世界が協調して取り組むべき開発目標SDGsの17のゴールのうち、生産、陸上資源、イノベーション、エネルギーなど実に10のゴールに密接に関連する重要な研究分野です。
植物医科学は「植物基礎医科学」と「植物臨床医科学」の二つの側面を持ちます。植物病を防ぐには「なぜ植物は病気にかかるのか」という根本的な疑問についてメカニズムを徹底的に究明する必要があり、そのために最先端の分子生物学、ゲノム科学、AI、バイオイメージング、バイオテクノロジーなど多面的なアプローチにより日々研究が進められています。これらを包括する学問領域が「植物基礎医科学」です。
一方、我が国だけで2万種類以上もある植物病を診断し、治療・予防する学問領域が「植物臨床医科学」です。この領域では、「植物基礎医科学」で得られた基礎的な知見を農業現場に活かすことを目的に、最先端の遺伝子組換え技術、ゲノム編集技術、バイオインフォマティクスなどを駆使して、植物病の診断・治療・防除・予防のための高度先端臨床技術の開発を行います。さらに、生産現場で発生する植物の病気を診断し治療する「植物医師」の養成と組織化を担う社会科学的研究分野をも包含します。
本講義では、植物学、微生物学、分子生物学から社会科学までを含む極めて幅広い学問領域である「植物医科学」について、基礎から最先端にわたり易しくかみ砕いて紹介し、「植物医科学入門」の講義構成を心掛けました。植物・微生物・昆虫の関わりについて、分子レベルの課題から有機農業、ゲノム編集作物、環境保全など社会的課題に至るまで平易に紹介し、広く普遍的な生命現象を俯瞰できるように構成しています。この分野にはこれまで触れたことのない方々が多いと思います。この講義を通じて皆さんが日頃見過ごしているに違いない身近にたくさんある植物の病気や植物環境微生物に興味をもって頂き、食糧・環境問題にそれらが深く関わっていることを知って頂きたいと考えています。
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