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最終更新日:2025年4月21日

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法と社会

「刑事法」=「犯罪と刑罰に関する法」からアプローチする法学入門
 本科目は、「犯罪と刑罰」に関する法、つまり、「刑事法」を切り口とした法学入門です。
 (1)「社会あるところに法あり」という古い法諺(「ほうげん」と読みます)があります。まさにそのとおりで、私たちは、朝起きてから寝るまで(そして、寝ている間も)法との関わりの中で生活しています。例えば、朝(あるいは大学生なら昼過ぎもあり?――前世紀末に学生生活を送った私は駒場でも本郷でも、そういう生活パターンからなかなか抜け出せませんでした)、目覚めた直後に、乾いた喉を潤すために蛇口を捻ってコップ1杯の水を飲むとしましょう。このことが可能なのは、河川法・水道法・地方自治法・地方公営企業法・道路法等の「行政法」という法分野に属する様々な法律による規律が及んでいることに加えて、「民法」という法律が、人と企業が取り決めた約束の効力や、人と物(この場合は「水」)との関係をきちんと定めてくれているからです。(とりわけ、「民法」は、水道料金を支払うことと引き換えに、蛇口から出てきた水を自分の所有物として獲得し、それを飲み干すことができる根拠となる点で、給水事業のユーザーである私たちにとっては重要です。)
 (2)もちろん、法というシステムは、社会を動かしていくための様々な仕組みの一つに過ぎません。他にも、政治システム、経済システム、学術システム等々、分化した多くの社会システムの分業(と協業)によって、私たちの社会の秩序が維持され、そのお蔭で、私たちは日々暮らしていくことができています。
 これらの分業システムには、それぞれに固有の発想や考え方、そして言葉遣いがあります。とりわけ、「法」は、権力でも腕力でも財力でもなく、「言葉の力」で人々の意思決定に働きかけるという方法によって社会を動かしていく仕組みです。そのため、「法」は、日本語で語られます。そのため、一見したところ、とっつきやすく、すぐにわかると思ってしまいがちですが、実際には、法システムに固有のものの見方や考え方があります。そして、それは、時に、世間一般の人々の「常識」とはズレていることがあります。
 そのズレは、時には、「世間知らず」として批判されるべきものであることもあるでしょう。しかし、多くの場合は、ちゃんとした理由があってあえて「ズレ」ているのです。そもそも、世間的「常識」ですべてを処理できるのであれば、法システム、政治システム、経済システム、学術システム等々を分化させて、それぞれを存立させる意味がありません。その場合は、プラトンが思い描いた「哲人」や、中華圏で理想とされた「聖人君子」が、その兼ね備えた卓抜な能力に基づいて、世の中の森羅万象をすべて適切に操るほかありません。しかし、あらゆる問題を適切に解決できる「哲人」「聖人君子」など実際には存在せず、能力の限られた人間が分担してなんとかやっていかなければ仕方がない、というのが、各種のシステムが分化して存在している理由なのです。
 (3)本科目は、そのような分業システムの一つとしての「法」について、中学校や高校で学んだことよりは少し専門的に、けれども、あまり難しくない範囲で(つまり「教養」の域を出ない限度で)学んでみたいという人たちを対象とする法学入門の科目です。
 法学入門には様々な観点・アプローチがありますし、担当する人によって内容は様々です。とりわけ、本科目と同じ曜限に開講される総合科目C「現代と法」は、現在の日本で望みうる最高の教員を多くの分野から揃えた法学入門科目です(私も可能ならば履修したいと思うぐらいです)。多くの法分野を概観したい学生には、本科目ではなく「現代と法」の履修を勧めます。
 (4)これに対して、私は、法学の数ある分野の中でも、犯罪と刑罰に関する法=刑事法を専門としていますので、本科目は、その刑事法を切り口として、みなさんを法の世界に誘います。
 刑事法は、日々の報道や多くのエンタテインメント作品を通じてみなさんが一定のイメージを持っていると思いますが、警察官が罪を犯したと疑われる人物を逮捕して留置場に閉じ込め、外界から遮断して社会生活を送ることを不可能にしてしまうとか(「確実」ではなくその「疑い」――正確に表現すると「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」――があるだけで逮捕できることに注意してください)、警察官が家に踏み込んできてそこらじゅうを引っ掻き回して見つけたものを持って帰ってしまう(朝から晩まで授業を受けて疲れて帰宅し、シャワーを浴びてバスローブを羽織っただけでくつろいでいるところに、突然、警察官が踏み込んでくる事態を想定してみてください)とか、さらには、罪を犯したことは事実であり償いをしなければならないことは確かだけれども、刑務所で数十年間にわたって服役することになったりとかいったシーンを想像すれば明らかなとおり、国家権力が個人の権利・利益をあからさまに侵害したり剝奪したりする場面を扱います。このことから、刑事法は、国家によるあからさまな権力行使を正当化しつつ厳格に制御するるために(いわば「猛獣使い」です)、ギリギリのところを言葉の力で詰めていくという法的な思考やその作法――しかも、世間的な「常識」とはしばしば相容れない思考――が最も強く現れる分野だという特徴を持っています。
 そのような刑事法の素材――ニュース報道や新聞記事、SNSへの投稿、裁判所の判決、論文などなど――を用いつつ、いろいろな角度から法の世界におけるものの見方や考え方に親しんでもらおう、というのが本科目の目的です。
 (5)履修者が文科生か理科生であるかは問いません。2年生の履修も歓迎しますが、主たる履修者としては1年生を想定し、中学校・高校の社会科系統の諸科目で得た知識(+常識)から出発して、大学レベルの学びへと繋げることを目指します。なお、同様の科目をAセメスターにも開講する予定ですが(開講曜限は未定)、法学部進学を考慮している学生を念頭に置いて(ただし、他科類の学生の履修を排除する趣旨ではありません)、Sセメスターよりも専門性を少し強めた内容にするつもりです(もちろん、法学部の持ち出し科目のレベルよりは手前です)。そのため、法学部進学を考えている人は、Aセメスターに履修する方がいいかもしれません。
 履修者が比較的少数にとどまることを前提に、講義科目ではありますが、ゼミに近い運用をします。つまり、積極的な発言を求めたり、グループディスカッションを用いたり、授業内外で自らリサーチをしたりすることを求めるほか、毎回、文書または口頭で提示される課題について、その場で短い分量の回答(リアクションペーパー)を書いてもらいます。したがって、授業に積極的に参加する意欲のある学生の履修を希望します。
 (6)4月1日頃以後に、UTOLのこの授業の欄を見てください。第1回のアクセス情報を含め、この授業の詳細情報はUTOLでお知らせします。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
31294
CAS-GC1C11L1
法と社会
笹倉 宏紀
S1 S2
火曜2限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
不可
開講所属
教養学部(前期課程)
授業計画
 授業の内容・進行は、みなさんの反応・興味関心に応じて、そして、その時々の世の中の動きを踏まえて最新の素材を求めつつ、柔軟に設定します。したがって、2回目以降は「成り行き」次第だと思ってください。  ただし、全13回を通じて、参考書2点(のうちの本科目に関わる部分)の内容を知り、理解することができるように構成します。
授業の方法
 第1回は完全オンラインです。予備知識不要で成績評価に関わらないクイズを実施します。それを通じて、本科目の概要を知っていただくのがクイズの目的です。  残りの回は、教室での対面授業のみの予定です。ただし、数回程度、オンラインに切り替える可能性があります。
成績評価方法
 平常点で評価します。具体的には、2回目以降のリアクションペーパーの「提出回数」に基づく基礎点と、授業における発言やリアクションに基づく加算点の合計で成績を決定します。  基礎点:「提出回数」は、授業に出席して、真面目に勉強して理解・考察したことが確認された回数のことです(したがって、受講態度やリアクションの内容に照らして、各回において当然到達すべき水準に達していないと評価される場合には、不提出と同視しますが、普通に授業に臨んでいればクリアできるものと考えてください)。そして、提出1回あたり3点を付与します。例えば、2回目以降のすべての回に出席し、かつ、受講態度に問題がなく、前記の水準以上の内容のリアクションがあれば、3点/回×12回=66点を獲得することができます。これが欠席ゼロの場合の「基礎点」です。  加算点:加算点は、基礎点を得た学生のうちの3割程度に、その内容等に応じて、回ごとに1点から5点の範囲で付与します(学生には回ごとの評価はお知らせしません)。例えば、毎回コンスタントに2点を得た学生は、2点/回×12回=計24点の加算点を得ることになります。  以上のようにして得られた基礎点と加算点を総合して暫定合計点を算出します。その上で、90点以上の学生数と80点以上の学生数について、それぞれ、教養学部のルールで許容される範囲内で、適切な分布となるよう、最終的な合計点を調整します。
履修上の注意
 予習は不要です。授業内容に特化した意識的な復習も要しません。むしろ、各回の知見をもとに、日々、社会で生起する事象に関心を向け、それと授業で得た知識・理解とを照らし合わせつつ自分なりの見方・考え方を形成することができれば、それが望ましいです。