学部前期課程
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世界史論

グローバル・ヒストリーglobal history。  グローバル・ヒストリーは、世界史world historyや人類史human historyと基本的に同じ意味と目的をもつことばです。すなわち、地球が経済・文化的に一体化していく現状をふまえ、従来の各国史を集めた世界各国の歴史ではなく、地球に住む人類の歴史を大局的に叙述する歴史叙述のことです。人類の軌跡を、地域や国を越えた地球の歴史として把握する試みといえるでしょう。  グローバル・ヒストリーのあつかう人類の歴史は、人々が「普遍」をつくりだしていく歴史のことです。普遍とは、人々の共有することのできる超越的な価値観をさします。前近代においては、普遍は、神や天、仏法などのことばで示されました。近代社会になると、普遍は、個人の尊厳や生存する権利(人権)に転換します。人類は、どの地域でも、どの時代でも、超越的価値(普遍)を求めて歴史を歩んできました。グローバル・ヒストリーは、このような人類の共通の歩みのあとをふりかえり、未来のより良い世界の見取り図を描こうとする学問です。  本講義は、21世紀に入って急速に進展しているグローバル・ヒストリーの研究動向をふまえ、世界史の大きな流れを、できるだけ系統的に講じるものです。今日におけるグローバル・ヒストリーへの注目度の高さに比べると、日本の大学におけるグローバル・ヒストリーの授業は、現時点ではまだ決して多くはありません。その欠落を埋める役割を、本講義が少しでも果たせたら、と願っています。  教員の専門分野は、文献の読解に基礎を置く文献史学という学問分野です。主な対象地域は、中国大陸の華北であり、対象時期は、4世紀から13世紀頃までの約1000年間です。留学し現地調査を行った地域は、東アジアを主とします。そのために、教員の能力には限りがあり、人類史の全体を満遍なく論じることは不可能です。  そこで、本講義「グローバル・ヒストリー(世界史論)」の特色を述べれば、教員の研究経歴をふまえ、東アジアの歴史を比較のモデルmodelとして世界史の大きな構造を分析する点にある、といえるでしょう。授業の内容も、世界各地の歴史に言及しますが、東アジアが舞台としては一番多くなります。東アジアの歴史にもとづく歴史モデルが、アフロ・ユーラシアAfro-Eurasia大陸(アフリカ大陸とユーラシア大陸を合わせた大陸名称)や南北アメリカ大陸にも適合できる、ということを具体的に示したいと思っています。
 本授業の目的は、世界史の基礎知識を系統的に習得することにあります。そのために、世界史の大きな流れを、交通と都市と環境を鍵概念に用いることで把握できるように構成しています。教員が調査をしてきました世界各地の都市の写真も、授業の随所に取り入れ、映像資料や絵画、音楽を活用して視覚的・聴覚的に歴史の流れを理解できるように試みます。
 世界史の系統的な知識を身につけることによって、初めて、日本や東アジア、世界の歴史を客観的に眺めることができるようになり、現在の私たちがおかれている社会状況を把握しやすくなり、人類社会の未来を鳥瞰できるようになると思います。もちろん、個人一人の力で世界史のすべてを把握することなど、到底できるものではありません。可能なことは、世界史の大きな流れをつかむことで、人類の営みの共通性を認識し、多様な世界の細部に自分独自の意味を見出すことです。21世紀の世界を生き抜くために必要とされる歴史の基礎知識を習得すること、これが本授業の目的であり到達目標です。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
31098
CAS-GC1B54L1
世界史論
妹尾 達彦
S1 S2
金曜2限
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教室
講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
不可
開講所属
教養学部(前期課程)
授業計画
第1回 はじめに:生態環境の境域に都市と国家と普遍概念が生まれる  アフロ・ユーラシアAfro-Eurasia大陸における生態環境を概観し、生態環境の境域に歴代政権の拠点が置かれ、歴史の表舞台となることを論じます。そして、人類の歴史とは、人々が超越的価値(普遍)を求める歴史であることを述べます。超越的な価値観である普遍の共有こそが、異なる人々をあまねく連結させる方法であり、境界こそが普遍を生みだす場となるのです。 第2回 空間と時間の考え方:アフロ・ユーラシア大陸の歴史構造  本講義が対象とする空間と時間の範囲とその特色について述べます。アフロ・ユーラシアAfro-Eurasia大陸の歴史は、ユーラシア大陸東部・中央部・西部の三つの世界システムsystemの交流の歴史として描くことができます。本講でいう世界システムとは、異なる環境を連結することで成立する広域経済圏のことです。  歴史の時期区分としては、4~7世紀と16~18世紀の二つの人間移動を画期とする三時期区分が、複雑な歴史の説明として適していると考えます。すなわち、第1期(遊牧地域と農業地域に古典国家の生まれる3世紀まで)、第2期(農業地域と遊牧地域を包含する農牧複合国家の生まれる4世紀~15世紀まで)、第3期(地球が海路によって連結する16世紀以後)の時期区分です。このような時間と空間の枠組みを設定し、歴史の流れを系統的に論じます。あわせて、アフロ・ユーラシア大陸と比較して、南北アメリカ大陸の歴史空間の特色についても論じます。 第3回 古典国家:前1000年紀における遊牧国家の形成と農業国家の再編  前1000年紀に、ユーラシア大陸の南北に対峙する形で、ユーラシア大陸の東部・中央部・西部の遊牧地域と農業地域に、それぞれの古典国家が誕生する経緯を述べます。特に、ユーラシア大陸東部の古典国家(匈奴と秦漢帝国)を事例にとりあげ、現在の国家の原型をつくった古典国家の特色を具体的に明らかにします。あわせて、南北アメリカ大陸における古典国家の形成と比較しながら、アフロ・ユーラシア大陸の古典国家の特色を論じます。 第4回 農牧複合国家:4~7世紀の混乱と農牧複合の構築  主な古典国家は、4~7世紀における遊牧民の農業地域への進出によって解体します。その結果、ユーラシア西方では、フランク王国Franciaと東ローマ帝国Eastern Roman Empire(ビザンツ帝国Byzantine Empire)が対峙するようになり、ユーラシア中央ではイスラーム教にもとづくウマイヤ朝Umayyad dynastyが生まれ、ユーラシア東部では、吐蕃と隋唐王朝が誕生します。これらの国家の大半が、農業地域と遊牧地域を包含する農牧複合の国家です。アフロ・ユーラシア大陸をつつみこむ混乱期の中で誕生する、これらの農牧複合国家に共通する特色を述べます。 第5回 普遍宗教圏(世界宗教圏):7~8世紀の広域経済圏  農牧複合国家は、遊牧と農業という従来異なる生業の地域を一つに統合する手段として、どの地域の人々も共有できる普遍的な法律(論理)や宗教(信仰)を必要としました。地球の歴史を代表する三つの普遍宗教であるキリスト教Christianity、イスラーム教Islam、仏教が、7~8世紀のアフロ・ユーラシア大陸に広く浸透した背景を述べます。 第6回 都城時代の誕生:7~8世紀のユーラシアEurasia大陸東部と日本の建国  ユーラシア大陸東部の仏教圏の形成は、仏教を王権の理論に取り入れた多数の国家と都城を生み出すことになりました。日本という国家も、この時期に誕生します。7~8世紀にユーラシアEurasia大陸東部の諸国家で建造された都城を取り上げ、仏教寺院のならぶ各国の都城の景観を比較することで、7~8世紀という時期の特色を述べます。 第7回 "商業帝国"の交替:8~13世紀におけるソグドSogd商人からイスラームIslam商人への転換  普遍宗教圏(世界宗教圏)の形成は、アフロ・ユーラシア大陸の東西の交流を促進し、東西をかけぬける国際商人組織を生み出し、"商業帝国"をつくり出すことになりました。4~7世紀の国際商人組織の代表は、中央アジア出身のソグドSogd商人でした。8世紀以後になると、ペルシアPersia湾沿岸に拠点をおくイスラームIslam商人(ムスリムMuslim商人)が、東西貿易の主役をソグド商人にとって替わります。国際商業組織の主体が、中央アジアのソグド商人からインド洋のイスラーム商人に転換することは、アフロ・ユーラシア大陸の交通幹線が内陸から沿海に移動することに対応しています。 第8回 羊と馬の文化圏:草原地帯(ステップsteppe)がつなぐ世界  ユーラシア大陸の東西につなぐ交通幹線が、草原地帯Eurasia Steppeです。草原地帯は、羊と馬の文化圏でもあります。羊と馬は、草原地帯の生活様式のすべてを規定する家畜です。軍事の上で、前近代の内陸世界における馬は、近代の沿海地帯における戦艦に匹敵する役割をもち、騎馬民の圧倒的な軍事優位をささえました。羊も、草原地帯の衣食住のすべてにかかわる家畜で、馬とともに草原の民の精神的な支柱でもありました。羊は草原地帯の文化的象徴であり、羊料理は、ユーラシア大陸の農牧複合地帯で最も好まれ、あらゆる肉料理の中で最上とされました。日本列島には、アフロ・ユーラシア大陸に普遍的な羊と馬の文化が存在しません。このことが、日本人によるアフロ・ユーラシア大陸の理解を困難にさせていることを指摘します。 第9回 太平洋の歴史:海の世界  地球最大の海洋(陸地以外の海水部分)は、太平洋Pacific Oceanです。アフロ・ユーラシア大陸と太平洋の関係史は、北太平洋、西太平洋、南太平洋の歴史が相互に重なりながら展開します。4~7世紀の遊牧民の移動は、沿海部への住民の定住を促し、9世紀以後には、西太平洋やインド洋、地中海には沿岸交通網が拡大し、海洋と陸地が結びつく広大な沿海交易圏が新たに生まれました。 ただし、太平洋の港湾都市群が、インド洋Indian Oceanや大西洋Atlantic Oceanの港湾都市群とつながり、三つの海洋が連結するのは16世紀以後のことです。たとえば、シンガポールSingaporeは,太平洋とインド洋を媒介する立地を生かし、地球規模の海域貿易の拠点港湾都市の一つとして、海の時代を集約する港湾都市国家となります。 第10回 古典文化の復興運動と近代合理思想:9~15世紀におけるユーラシア大陸の複数のルネサンスRenaissance  従来、西欧文化史の画期を象徴するとされたルネサンスRenaissance(古典国家の文芸の復興)は、西欧のみならず、ユーラシア大陸中央部や東部にも共通して見ることできる現象であったことを述べます。どの地域においても、古典文化の復興運動を契機に近代国家が形成されます。あわせて、キリスト教の神概念からの脱却をめざす西欧近代合理主義の形成に際し、普遍的な神が存在せず、絶対神を必要とせずに「普遍」を構築した朱熹(1130-1200)に集成される中国思想(天理の概念)が、直接の影響を与えたという近年の研究を紹介します。 第11回 西欧の勃興と近代国家の形成:16世紀から始まる現代社会  西欧近代国家形成の背景について、現在、どのような考えが提起され、どのように議論されているのでしょうか。ユーラシア大陸の西端に位置する西欧諸国が、16世紀以後、地球の経済・政治・軍事を掌握する国家群として登場する背景とその理由について、ユーラシア大陸の中央部や東部の歴史との比較を通して述べます。西欧勃興の理由は、歴史学をふくむ社会・人文科学全体が追求する最も重要な問題の一つです。本講義全体の論旨から、この問題を分析してみたいと思います。 第12回 国民広場の誕生:視覚化される20世紀と目に見えない21世紀  19世紀以後の世界各地における近代国民国家の形成は、国家をなりたたせる超越的な概念が、天や神、仏法から「国民の支持」に転換することで可能となりました。前近代国家を代表する空間は、君主の宮殿であり、多くの場合、宮殿は宇宙の理法を象徴する場と考えられていました。それに対し、近代国民国家を象徴する空間は、首都の中央に位置する国民広場です。国民広場は、為政者が国民の支持を受けていることを視覚化する場であり、同時に、国民が為政者に対し政治的な意思表示ができる場でもあります。世界各国の国民広場の形態を比較することで、日本の近代国家の特色を述べます。最後に、21世紀の国家の国民統合のありかたについて言及します。 第13回 これからの世界  21世紀になって顕著となったアフロ・ユーラシア大陸における広域経済圏の形成は、人類の歴史に新たな展開をもたらしています。中国、ロシアRussia、インドIndia、イランIran等のユーラシア国家の政治的・経済的台頭は、従来の欧米のつくりあげた世界秩序(資本主義体制)を根本から揺るがし始めています。本講では、今も急速に拡大しているアフロ・ユーラシア大陸を包み込む大きな経済圏の現状と問題点を、グローバル・ヒストリーの中に位置づけます。
授業の方法
授業は、双方向性のオンラインOnlineで行います。オンラインでは、映像や音楽の使用が容易です。毎回の授業では、オンラインの長所を活用し、映像や音楽などの視聴覚資料を用いながら進めます。
成績評価方法
出席・レポート・書評の合計点で評価します。毎回の出席と、毎回の授業の短文レポート(300字~400字程度。字数は一つの目安であり増減してもかまいません)、教員による教科書『グローバル・ヒストリー』書評(授業終了後に提出。1200字~1600字程度)の合計点となります。
履修上の注意
毎回の授業で使用します教科書の該当個所と参考文献、関連資料は、授業の前後にデータdataを公開します。予習と復習に活用ください。