4/6, 4/13
宮﨑弘安「整数からはじめる抽象化」
1, 2, 3,….整数は最も身近な数である一方,「モノの個数」の一般化として得られる抽象的な概念でもあります.整数の研究は長い歴史を持ちますが,20世紀以降,「モノの形」について調べる「幾何学」の手法を応用することにより,かつてないほどの爆発的な進展を遂げました.「モノの個数」と「モノの形」は全く異なる概念のように思えますが,大胆な抽象化によって,これらを同じ舞台で扱えるようになり,お互いの手法を活用できるようになったのです.それのみならず,その優れた抽象性によって,整数論から生まれた理論が様々な数理科学分野で応用されるようにもなってきています.この講義では,整数論の発展に抽象化が果たした役割について,最近の進展にも触れながら解説します.
4/20,4/27
菊地健吾「素粒子と場の概念」
我々の世界は何からできているか.宇宙を記述している数式は何か.その問いに対する答えを探究し理解しようとする学問が,素粒子論である.この講義では,人類がこれまで到達した素粒子像,現代物理学の歩み,相対性理論や量子力学,そして場の量子論について概観する.
5/11, 5/18
岡田崇「生物進化はどのように進むのか?」
進化生物学の究極的な目標のひとつは,進化がどのように進むのかを詳細に理解し,将来起こる結果を物理学のように定量的なレベルで予測することである.この非常に困難に思える目標は,近年の技術革新により,次第に現実的なものになりつつある.特に,バクテリアやウイルスを用いた進化実験により,進化ダイナミクスを高い時間解像度で観測できるようになってきた.本講義では,進化生物学の理論的基礎を解説し,近年の進化実験への応用について紹介する.
5/25, 6/8
難波亮「宇宙のなりたちを物理する」
宇宙の構造,ひいては私たち自身の起源は,「量子のゆらぎ」である――にわかにはフィクションとも思えるような理論が,現在の物理学では,宇宙の最初期についての一般的な理解となってきています.加速度膨張を続ける宇宙,時間を遡ればかつては極小の粒だった宇宙では,量子力学(極小の物理)と特殊相対性理論(高エネルギー物理),そして重力理論(極大の物理)が見事に調和しています.インフレーションやビッグバンなど宇宙最初期の様相がどのようにして紐解かれ,宇宙マイクロ波背景放射や重力波といった,近年の劇的な技術革新によってどう実際に確かめられるようになったのかをお話していきます.また,宇宙がこれから辿る行く末の可能性についても,一風変わった仮説も交えつつ紹介します.
6/15,6/122
足立景亮「生物と物理をつなぐ相転移」
温度の上昇に伴う氷の融解のように,わずかなパラメータの変化で集団的性質ががらりと変わる現象は相転移と呼ばれます.相転移は,磁石・超伝導体・高分子溶液といった多数の要素が相互作用する系で起こることが知られており,凝縮系物理学の分野で盛んに研究されています.最近では,細胞内タンパク質・細胞集団といった生物系においても相転移現象がありふれていることが明らかになってきており,相転移が生体内で果たす役割や生物のように非平衡な系で起こる相転移のメカニズムが精力的に調べられています.この講義では,相転移に焦点を当て,物理学と生物学の境界分野における最近の話題を紹介します.
6/29,7/6
伊藤悦子「量子の世界を計算する」
みなさんは「計算する」ことは得意でしょうか.自然科学を理解する際「計算機」は必要不可欠な道具となっています.この講義では,素粒子の世界をスパコン等の古典計算機や近年登場した量子計算機を用いて計算(シミュレーション)することで,これまで何がわかってきたのか,これから何がわかりそうなのか解説します.
7/13
関野裕太「マクロな量子現象とは何か?」
私たちの身のまわりには,金属やゴム,半導体など様々な物質があふれています.原子が大量に集まったマクロな集合体である物質の性質を理解することは,物理学における重大テーマの一つです.また,比熱や電気抵抗などの物質特性の理解は工学的応用を考える上でも重要となります.金属比熱の温度特性や,電気抵抗なく電気が流れる現象である超伝導は,ニュートン力学の枠内では説明できない物質の性質であり,量子力学の影響がマクロな物理現象として現れる代表例です.本講義では,量子力学に基づいた統計力学(量子統計力学)という手法によって,様々な物質の性質がこれまでにどのように理解されてきたのかについて解説します.