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最終更新日:2024年4月22日

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現代社会論

現代社会論入門 「白書」と「メディア」から読み解く現代社会
◯本講義の目的
現代社会とはいかなる社会か。その秩序はいかに可能になり、また変更されようとしているのか。
この根本的な問い、様々な解が存在し得る問いに自分なりに一定の答えを与え、これから社会に大きな変化が訪れた時にもそれを解釈するための「自分の中の軸」をつくることが本講義の目的です。

(1)現代社会を俯瞰的に把握するために、社会を構成する諸領域のおさえるべき事実を理解する(2)その過程で一定量の情報を短期間で自らの知識とする経験を反復する(3)諸領域を越境しながら思考することで現代社会に共通する課題とそうではない課題とを峻別する、という3点を繰り返す中で、受講生各々が独自の視座を得ることを目指します。その際には、常にメディアにある情報を横目にいれながら社会と個人の関係とを意識します。

現代社会とは何か。その根本に何があり、どんな特異性が存在するのか。その全体を見渡すことはますます難しくなっています。
個人それぞれが自らの見える世界の内部に閉じこもり、またそれを加速するよう社会構造・情報技術等も高度化している。「それならそれで良い」と意識的に選択しているならまだ良いが、おそらくそうではない。多くの人は情報過多の渦の中に巻き込まれるに身を任せ、無意識のうちに狭い世界に引きこもりつつ、可処分時間を「自分ではない何か」に奪われ、休み無く走らせられ続ける感覚に疲弊している。
未来への答えなき不安と期待値の低さ、現在の幸福と最小化・最適化された不満。その中であえて立ち止まり、自分と社会の足元・現在地を確認しなおすことに、いま大学で学ぶことの意義の一端はあるでしょう。

受講にあたって、文理、所属・専攻、関心、進路の希望等々は問いません。
【2013年度本登録実績:文一3名、文二3名、文三3名、理一4名、理二2名の計15名】

◯本講義の進め方
上記の目的に向け、本講義では中央省庁が刊行する白書を課題文献として、受講生にはその読解を前提に文書を作成し、議論する、という作業をしてもらいます。その際、常に白書の内容に関連するメディア上の情報を踏まえながらのアウトプットを積み重ねます。
具体的には、課題文献を読んで各自のリアクションペーパーを作成した上でグループディスカッションをする「GD回」、全体討議をしレポートを作成する「全体討議回」を講義時間の中で交互に設定し進めます。前後半、それぞれの終わりに研究ノートを作成する「まとめ回」もあります。
リアクションペーパーとレポートでは、メディア上に存在するニュース等関連情報を参照し、白書に示された現状や指針と、メディア上の情報との双方を批判的にとらえるようにしてください。
【昨年度は「文部科学白書」「食料・農業・農村白書」「エネルギー白書」「外交青書」「防衛白書」を読みました】

上記の「本講義の目的」を達成するためには、歴史的アプローチ(ex.過去の動向を大局的に捉え典型的な構造やパターンを抽出して考える)、理論的アプローチ(ex.個別事例を普遍的に説明できる概念や規則・式を参照したり記述したりしながら考える)、フィールドワークや定量データ分析など分析的アプローチ(ex.現場に生きる人の口述内容や意識調査、統計データに現れる見えていなかった現実を元に考える)といった方法がありえます。

本講義は、その前段階で必要な事実を知る機会となります。難しいと思うかもしれませんが、もし可能であれば、各受講者が自分の知っている範囲で、自由にそれらの方法を組み合わせながら議論やレポートの作成をすることを歓迎します。他の講義・ゼミや課外活動で学んだ知識をアウトプットし血肉化する機会としても利用して頂ければと思います。

学部1・2年生であれば、高校までの教科教育で学んだ内容や探究学習等で得た知識をもとに思考せざる得ない部分も大きいでしょうし、大学に来たからには、その枠を超えた思考を展開したいという関心を様々に持っている場合も少なくはないでしょう。それが将来の職業選択やキャリア形成の選択肢を増やすと予感している人もいるでしょう。例えば「SDGsについてより深く考えたい」「国際政治の勉強をして世界平和に貢献したい」「いずれ地方で暮らし少子高齢化やコミュニティ崩壊の問題に取り組みたい」「遠からず来る大規模複合災害に向けていまからできる防災や復興のあり方を構想したい」等々。
それらの関心の上により深く思考するためには、歴史的・理論的・分析的アプローチなどの方法論的な「タテ糸」と、細分化され続ける個別領域・事例についての幅広く・精緻に構造化された理解によって撚られた「ヨコ糸」とで織られた一枚の布を可能な限り幅広く・分厚く自分の中に用意し携えておくことが必要です。
その布は、難所を進む際には雨風から身を守り、立ち止まる際には落ち着いて休むための敷き布となり、旅の中で得た持ちきれないほどの宝物を遠方まで運ぶための包み布としても活きるでしょう。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
30361
CAS-GC1C21L1
現代社会論
開沼 博
S1 S2
火曜2限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
不可
開講所属
教養学部(前期課程)
授業計画
1) ガイダンス 2) 国土の課題と可能性①  課題文献「令和5年版 国土交通白書」https://www.mlit.go.jp/***** 3) 同② 4) 講義:3.11と現代社会 5) 日本の医療・福祉・労働①  課題文献「令和5年版 厚生労働白書」https://www.mhlw.go.jp/***** 6) 同② 7) 中間まとめ③ 8) 秩序と逸脱の現在①  課題文献「令和5年版 警察白書」https://www.npa.go.jp/***** 9) 同② 10) 国際秩序混乱の中で①  課題文献「通商白書2023」https://www.meti.go.jp/***** 11) 同② 12) 次なる社会的危機にむけて①  課題文献「令和5年版 防災白書」https://www.bousai.go.jp/***** 13) 同② 最終回) 最終まとめ③【13回の講義について、本来105分授業のところを90分で実施してきたことの補填分とする】 ※ガイダンスのURLは以下を予定しています。  https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/***** ※全て火曜2限・90分(10時25分~11時55分) ※上記の内容は参加者の関心・人数等を踏まえて変更の可能性があります。 ※①は「GD回」=課題文献を読んでのリアクションペーパー作成&グループディスカッションの議事録を作成、②は「全体討議回」=全体討議への参加&レポートを作成し提出。③は「まとめ回」=研究ノートの作成を指します。
授業の方法
◯受講にあたり求められることと受講生の負担 ・講義の時間外の負担:2-3回に1回、1-2時間 予習として、2回の講義ごとに各回の「課題文献」にしている白書(300-400ページ程度)を読んでくることのみ。 (各自の関心と余力があれば、随時指定する関連白書=「参考文献」を読んでも良い) これを1冊あたり1-2時間程度でこなしてもらいたい、というのが理想です。無論、はじめは数時間、あるいはもし興味があるなら5時間、10時間と時間をかけても良いですが、可能な限り1-2時間を目指してください。 熟読していたらいくら時間があってもたりません。多読・乱読する感覚を身につけられるかどうかが、この講義に最後までついてこれるかの分かれ目になります。大学受験で求められることの多い、限られた分量のテキストを一語ずつ正確に理解しながら全体を100%理解することを目指す読み方ではなく、膨大な分量のテキストを大雑把に要点を把握しながら読み進め、自分なりの論点を提示するという時間の使い方をしてください。 はじめは独特の文体、情報整理の仕方に慣れずに、もっと時間がかかってしまうという人もいるでしょう。ただ、全体像をとらえながら、「それは細かく言われなくても常識的にわかっている」という内容など不必要な情報は読み飛ばす感覚をみにつければ、無理なことではありません。「こんな話があるんだ」と思うようなことを中心に拾い読みしていくことが重要です。 また、白書は、その編纂の主体は様々であっても、編纂者たちが見ているのは皆同じ「現代社会」です。同じものを別々の角度から見て書かれたものを読んでいけば、似たような話が繰り返し出てくることにも気づくでしょう。そういった意味でも慣れれば読解のスピードは加速します。 テキストの分量にあわせて時間を確保するのではなく、確保でてきている時間にあわせてテキストを読むスピード・精度を変えるという感覚で向き合ってください。 ・講時間内の負担:リアクションペーパー、レポート、研究ノート インプット量はもちろんのこと、全体としてのアウトプット量も多いですが、予習を除いた全ての作業時間は講義時間内に収まるようにします。 「GD回」は、各自でリアクションペーパー(*****文字以上)をオンラインフォームに投稿し、それを踏まえてグループディスカッションをしてもらいます。リアクションペーパーには、白書については具体的に引用や参照をするページ数、報道等についてはその媒体名やURLや日時とともに論点を提示してください(ex.「◯◯白書のP23にあるとおり◯◯は~」「◯◯新聞オンライン(http://・・/*****)の◯年◯月丸日の記事には~とあるが、~」)。 「全体討議回」は、GD回を踏まえて全体討議に参加し、レポート(500字以上)をオンラインフォームに投稿してもらいます。 「まとめ回」は講義の時間内で、自ら「問い」をたて、講義で得た知識をもとにそこに一定の「答え」を出す研究ノート(1000字以上)をオンラインフォームに投稿してもらいます。 他に、講義の時間外に文献を読んだりレポートを作成する作業の時間はとらせません。 ◯本講義で得られるもの 現代社会が、高度に専門分化し全体性を見通せなくなる中、そこにある課題に明確な解決策(のように見えるもの)を見いだせない状態になっている、という現状認識の上で、本講義は設計されます。答えなき問いに向き合う力を得る意思が本講義の受講者に望まれることです。メディアにある情報を相対化し、「フェイクニュース」に惑わされず陰謀論にも陥らず、「ポスト・トゥルース」の時代を生き抜く知恵をつける意欲も不可欠です。 本講義の受講を通して、具体的には以下のスキルと知識・視座を得られる可能性があります。 ・得られるスキル ▼情報処理能力:限られた時間で大量の情報から要点をつかみ論じる力 ▼課題発見能力:多様な論点を構造的に理解し課題を抽出する力 ▼論理構成能力:思考を論理的に無駄なく書き・話し、洗練させる力 ・得られる知識・視座 ▼現代日本社会が抱える、政治・経済・文化・科学・教育等々における諸課題と将来展望についてのデータ・事実 ▼現代社会とはいかなるものか、日本社会が空間的にいかに位置づけられ、歴史上いかなる地点にいるのかという俯瞰的な現状認識 ▼現代社会に対して人々・社会が持つ、あるいはメディアが構成するイメージや「社会的現実」のあり方と現実との溝 大学は、学生が研究(あるいはそれに類すること)を教員とともに経験することで学ぶ、特に「未解決の問いに自力で答えを出す力」を養う場として発達してきたとも言われますが(cf.「フンボルト理念」)、上記のスキルや知識・視座はその力に直結し、大学等研究のはもちろんのこと政治・行政・司法、ビジネス、NPO・NGO、ジャーナリズムといった現場で働こうと考えている各々それぞれにとって将来を見通すためのヒントになるかもしれません。 なお、今回、文献として活用する白書は政府施策の現状や背景となるデータなどをまとめたものであり、あくまで俯瞰的に現代社会を捉える素材の一つに過ぎません。当然、白書に社会の全てが著されているわけではなく、書いてあることの全てが「正解」であるわけもありません。過去のそれを見れば、その記述が時代の変化の中で完全なる「誤答」であったと振り返られることも多く書かれてきました。 じゃあ、メディアを流れる情報が「正解」なのかというとそんなわけもなく、旧来のマスメディアへの不信感は高まり続け、ソーシャルメディア等も「正解」を出せるわけではないことも言うまでもありません。ただそれでも、それらには現代社会の一端が反映されているのもまた確かなことです。 ニュースや調査報道・ドキュメンタリー、マンガ、研究書、アート作品、もちろん大学での他の講義・ゼミ、サークル活動やアルバイト等を通しての社会課題の現場へのフィールドワークなど様々な学びの機会の中に現代社会を捉える機会はあります。そういったものからも常に刺激を受けながら、本講義を受講して頂ければと思います。
成績評価方法
以下の割合で評価します。 ▼リアクションペーパー&グループディスカッション参加 40% ▼全体討議参加&レポート 40% ▼中間&最終研究ノート 20% 毎回、何らかのアウトプットが求められることになるので、欠席すれば自動的に点数は減ることになります。 ただし、コロナ感染等明確な欠席理由があり、出席の代替措置を希望する場合は、都度事前にメールにてご相談ください。
履修上の注意
・インターネットに接続できるPC・タブレット&キーボードの用意は必須 スマホのみだとリアクションペーパー・レポート・研究ノートの作成等に色々制限が出ます。 PC・タブレットの持参を忘れたり、バッテリー切れをおこしたり、インターネットに接続できない状態になったりしないように、十分に注意してください。 ・マイク付きイヤホン・ヘッドホンも必要に応じて用意をしてください グループディスカッション・全体討議の時間は、学習効果や感染症対策・対応を考えてオンラインツールの活用も考えています。 ・駒場1・2年生向けということで、「専門的な知識は無い」という前提で講義を進めます それ故、人によっては「もっと体系だった現代社会論や政策論、社会学・社会心理学、メディア論等について学べるものだと思った」とか「各回の話が全体としてどうつながっているのかわからない」とか言った不満がでるかもしれません。 これは、おそらく志が高い学生が高校までの学びと大学の学びとの間にある溝の中でよくいだく戸惑いだとも思います。その場合は、時間と意欲がある限り、各学問分野の大学院入試の勉強をする学生の中で推奨されている教科書的な本を何冊か読んでみることをおすすめします。 定番の入門書を読む中で初歩的な概念、理論をおさえておけば、同じものをみても学術的な連続性や意義を見出すことができるようになりますし、そうしようとすること自体が学術的な思考方法を鍛えるのに不可欠である故です。 より具体的には、こちら、担当教員のWEBの「特定学問領域の基礎知識の習得」という部分 http://kainumahiroshi.net/***** などもご参照ください。 特に本学では高校・予備校のように、特定学問分野について初歩から体系的・網羅的に教えてくれるような講義はあまりないように(丸20年前の私の学生としての実体験からは)思います。その先にある応用的な部分、解釈の多様性や意義ある枝葉末節を、教員の口から聞く、受講生同士で議論するという前提を意識しておいたほうが学ぶことは多いでしょう。本屋・図書館で入手できる本に書いてあるようなことは、どんな本でも長くて数日丸々とれば一冊読めるわけで、それは本で読んでしまって、その上で直接講義・ゼミなどで学ぶ、という学び方を早目に身に着けておくと得るものも多くなると思います。 ・座学にとどまらずより広く深くまなびたい受講生には、東大本部が実施する「体験活動プログラム Hands-on Activities」の一つ「 帰還困難区域の「街づくり」を考える。」をご案内しています。(もちろん、参加は任意です。参加の有無によって成績等に有利・不利になることはありません。)これは担当教員が企画・運営に関わり実施しているもので、3.11被災地である福島で夏季休暇中にインテンシブに聞き取りやデータ分析等を含むフィールドワークを実施し研究発表を目指すものです。旅費支給等の補助があります。昨年は本講義から4名が参加しました。(さらに、そこから大学院の講義の聴講を2名が希望しより専門的な学習・研究を継続しています。)
実務経験と授業科目の関連性
担当教員はいわゆる実務家教員ではないものの、経産省・環境省・復興庁等の有識者会議委員や政治・行政・住民等の多主体間対話の設計などに関わってきた経験があり、また上述のフィールド研究の延長でマスメディアや出版、シンクタンク、教育、地方自治等の現場にも実務的に関わる機会を持ってきました。学術とその外部とを往還する中で得られた種々の社会現象の細部に関する知見や、そこで体験した学術の価値については講義の中で随時共有していこうと思います。