大学院
HOME 大学院 金融工学基礎
学内のオンライン授業の情報漏洩防止のため,URLやアカウント、教室の記載は削除しております。
最終更新日:2024年10月18日

授業計画や教室は変更となる可能性があるため、必ずUTASで最新の情報を確認して下さい。
UTASにアクセスできない方は、担当教員または部局教務へお問い合わせ下さい。

金融工学基礎

金融工学基礎
それぞれの企業には、ビジネスの中核に据えるような扱いを得意とするリスクと、反対に扱いが不得意で保有したくないリスクが存在する。円滑な経済活動を可能にする為には、各企業が管理を得意とするリスクに集中できるよう、企業間で互いにリスクを交換出来るような仕組みが必要になる。金融市場とそこで取引される金融派生商品「デリバティブ」が正にそれにあたり、企業の持つ複合的なリスクから「市場化可能な部分」を切り離したり、ニーズに沿ってリスクを組成したりすることができる。日々、想像を絶する規模の取引が活発に行われ、新しい商品や取引スキームが次々に登場しているが、これらの活動に理論的基盤を与えているのが金融工学や数理ファイナンスと呼ばれる分野だ。数理的専門性を社会で直に活用出来る数少ない学術領域になっており、アカデミアに限らず、就職後も研鑽を続けていきたい人にはお勧めしたい。

さて、本講義では、金融派生商品の価格評価及びリスク管理に必要な、連続時間における金融工学とそれに必要な数理手法を解説する。ここでは、どのようにして金融工学の理論的枠組みが構築されているかを深く理解してもらうことに重点を置き、具体的な計算練習等は「上級デリバティブ演習I」に譲る。社会に及ぼす影響を考えると、安易に簡略化された説明で済ますことは出来ない。従って、かなり難易度の高い抽象的な議論も避けることが出来ないが、是非とも頑張ってみて欲しい。無事に最後まで議論に付いて来られた人達は、我々の社会の日常のある一面が、近似的ながらも単純で美しい数学的枠組みにより、かなり良く記述できることを発見して驚くだろう。それと同時に、既存の金融工学の枠組みは残念ながら「非常に狭い」ものであり、厳しい制約下でのみ正当化されることも理解出来ることだろう。前提条件を緩めて境界の外に出てしまうともはや綺麗なお話は通用しない。実際、踏み出したその一歩目から先には、確率的最適制御理論や確率的微分ゲームを始めとする、バラエティーに富んだ広大な研究領域が広がっている。この講義が学生の皆さんにその一端を垣間見る機会を与えることができ、大学か企業かに関わらず、関連分野の研究を志す人が一人でも現れることを期待している。
MIMA Search
時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
291618-10
GEC-MA6720L1
金融工学基礎
藤井 優成
S1 S2
水曜5限
マイリストに追加
マイリストから削除
講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
経済学研究科
授業計画
0 誤解を解く為のお話と導入 (ここは簡単。数学は不要) 1 確率測度、確率空間、確率変数、条件付き期待値 2 確率過程、確率積分 3 確率微分方程式の解の存在とその性質 4 伊藤の公式 5 Black-Scholes 偏微分方程式とFeynman-Kac公式 6 後退確率微分方程式と発展的話題の紹介 7 オプションの価格評価とグリークス 8 確率測度変換 9 マルチンゲール表現定理と複製問題 10 リスク中立測度の存在と無裁定条件 11 確率的な金利下での派生商品評価 付録 A 有用な不等式の公式集 B 確率微分方程式の解のオイラー近似とその収束 C 後退確率微分方程式
授業の方法
講義資料をプロジェクター等で参照しながら進める。講義資料はLMSにアップロードする。途中計算の補足等は板書で行う。講義の前半部分、とりわけトピック(1~4)で行う「数学の準備」は初学者には抽象的で難しいが、仮に数学の理解が不十分でも、計算規則を守れば後半のファイナンスの議論は理解できるようになる。前半が苦しくても、後半の主題に入る前に諦めないようにして欲しい。講義を通じて全体像を掴んだ後、じっくり学習を継続してくれれば良い。
成績評価方法
期末試験
教科書
特に指定しない。
参考書
金融工学のごく簡単な入門書としては Options, Futures, and Other Derivatives (by John C. Hull) Arbitrage Theory in Continuous Time (by Bjork) Stochastic Calculus for Finance I, II (by Shreve) などが知られている。 実解析や確率論の参考書として、 実解析入門 (by 猪狩) 岩波書店 Probability Theory: A Comprehensive Course (by Klenke) Springer をあげておく。なお、後者はSpringer link よりダウンロード出来る。 その他、演習(藤井)のシラバスに挙げた書籍と解説を参考にしてもらいたい。また、講義資料を通じて適宜紹介する。
履修上の注意
アップロードする資料による予習・復習は勿論、自習(や場合によっては仲間との学習)を根気強く継続することが大切だろう。また、更に深く理解するのに役立つ関連分野は確率論や関数解析を中心に多岐に及んでいる。素晴らしいことに、東京大学は総合大学であり理学部や工学部で開講される講義も学ぶことが出来る。様々な関連科目が開講されているはずなので有効に活用して欲しい。また、「上級デリバティブ演習I」において本講義の補足説明、例題の紹介、練習問題等を行うので、可能な限りセットで履修することを推奨する。