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最終更新日:2026年4月20日

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アジア政治外交史史料講読

中華民国の主権と「辺政」……チベットとの関係を中心に 
 2025年7月に90歳を迎えた、チベット仏教で最も著名な化身ラマ(活仏)・精神的指導者であるダライ・ラマ14世は、長年来自身の生まれ変わりについて「将来のチベットの人々の願望による」という曖昧な立場を示してきたのを改め、今後の生まれ変わりを確約するとともに、その過程についてはもっぱら自身の財団(ガンデン・ポタン信託財団=ダライ・ラマ法王庁)の執行役員が責めを負うとした。このことは、チベット仏教の指導者選びは完全にチベット仏教自身のイニシアチブによるべきであるという意思表示に他ならない。

 いっぽう中国政府はかねてから一貫して、チベット仏教の活仏選びにあたっては、清の乾隆帝が制定したくじ引き制度によるべきで、これこそが中国の国家主権のあらわれであると主張し、くじ引きを用いようとしないダライ・ラマ14世及びチベット亡命政府の立場に対し、中国の国家主権を毀損するものと批判している。

 このような対立は不幸なものであるが、同時に興味深い論点を示してもいる。
 近代中国ナショナリズムの立場は、清末における出現以来一貫して「中華文明の求心力」を強調し、当面は様々な文化的伝統を有する様々なエスニック・グループに属する人々も、その枠組みの中で漢人・中華との共同性を歴史的に育み、帝国主義列強への抵抗を通じて「中華民族」としての自覚を共有してきたのだとする。そして経済発展の時代においても、まさにその経済発展の事実を以て、中華文明の求心力と共同性はますます強まっており、あらゆるエスニック・グループの歴史と文化も「中華」との関係・価値観に基づいて解釈されるべきであるとしている。
 しかしそもそも、中華文明の文脈に属さない宗教の指導者をくじ引きで選ぶことを以て「中華」国家の主権のあらわれと説くことは、このような「中華文明の求心力」という言説と必ずしも沿わないようにも思われる。実際、「中華」の名における近代主権国家・中華民国が「駆除韃虜」の叫びの延長において1912年に成立したときにも、実際の領域は清から継承したものであったがために、それまで中華文明と距離があった人々を統合するべく、「五族共和」のもと様々な「中華」的ではない施策が採用された。清室優待、チベット・モンゴルの活仏に対する優待はその一端である。
 かくして近代中国においては、清から継承したとする国家主権の護持・安全保障上の要請と、現実の中華文明の広がりとのギャップを埋めるため、新疆も含めて「辺政」という政策ジャンルが生まれ、チベット・モンゴル、並びにその背後にいる英国やロシア・ソ連との、緊張をはらんだ交渉の過程を生んだ。とりわけチベット仏教を象徴する化身ラマであるダライ・ラマの生まれ変わりやパンチェン・ラマの扱いをめぐっては、国民政府・チベット・軍閥など諸勢力の思惑が入り交じる中で、活発な交渉が展開された。その中で新たに生じた思想的交錯が、当時の国際関係における緊張と相まって、様々なアクターの新たな発想を誘発し、20世紀後半以後の中国の国家統合における諸課題や(とりわけ中国ナショナリズムの側における「中華民族共同体」的言説への強いこだわり……共産党のみならず国民党も含む)、本来は疎遠な関係でしかなかった台湾と内陸アジアとの新たな関わりを生んだと言える。

 そこで本演習では、近代中国政治史において、とりわけ国家統合上重要な歴史的意味を持ちながらも、これまで必ずしも具体像が広く知られていなかった「辺政」のあり方について、とくにチベットとの関係をめぐる国民政府の一次資料(中国蔵学出版社の史料集)を読み解きながら考えることにより、東アジアから内陸アジアにまたがる歴史と現在・未来を自由に展望する機会を持つことにしたい。

使用史料(一部をスキャンしてUTOLで配付する)
中国蔵学研究中心 中国第二歴史檔案館 合編『十三世達頼圓寂致祭和十四世達頼転世坐床檔案選編』中国蔵学出版社、1991年。
中国第二歴史檔案館 中国蔵学研究中心 合編『黄慕松 呉忠信 趙守鈺 戴伝賢 奉使辦理蔵事報告書』中国蔵学出版社、1993年。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
25-304-133
GLP-LP6312S4
アジア政治外交史史料講読
平野 聡
S1 S2
木曜2限
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講義使用言語
日本語、中国語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
法学政治学研究科
授業計画
第一回は概要紹介及び自己紹介とする。 第二回以後は史料読解を進める。
授業の方法
基本的に、文献講読系の演習である。史料を正確に読解し、文脈と問題点を把握し、関連する論点や様々な可能性について討論することにより、参加者の理解を促進する。
成績評価方法
平常点による
履修上の注意
参加者には中華民国期の史料を音読・翻訳して頂くため、事前の予習が必要である。 読み方は華語・日本式の漢文訓読のどちらでも良い。(韓国語を母語とする方は韓国式漢文音読でも良い)