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最終更新日:2026年10月16日
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企業と産業の経済史
日本における大企業の起源
本講義の目的は、「日本における大企業の起源」(The Origins of Big Businesses in Japan)をテーマとして、日本経済発展の原動力である大企業(big business)の起源を、その初発の時点である明治期にまで遡って問い直すことにある。具体的には、明治期の鉄道企業を事例として、日本の大企業の生成期における動態と構造的特質を、ステークホルダー間の多様な関係性に注目しながら明らかにする。その上で、大企業という視点から日本の鉄道史を再構築してみたい。その際、産業史と経営史の伝統的な研究手法に、一部、企業の経済学の分析枠組みを取り入れることを試みる。
20世紀は、大規模株式会社が経済諸活動の主役であったことから、「巨大企業の世紀」と呼ばれる。ところがアメリカでは1990年代以降、大企業による垂直統合の分解が進行し、中小企業を中心とする産業集積や企業ネットワークなどへの注目が高まった。しかし少なくとも日本では、2020年代になっても巨大な規模と範囲を誇る大企業が、依然として経済活動の中核的なアクターであり続けている。さらに日本の大企業は、自ら統合型大企業である一方で、企業系列の中心でもある。ただし、こうした戦後日本における市場と企業との関係は、戦前期から引き継いだ日本の伝統ではない。例えば、様々な市場が発展途上であった第一次世界大戦以前の日本では、企業が市場で必要な財を調達することができず、取引を内部化せざるを得ないという事態が生じていた。経済的な後進国であった当時の日本では、市場の未発達を企業組織が補完するという現象がみられたのである。一方、両大戦間期には市場の発達によって英米型に近い企業統治構造が出現した。そしてこれらの企業システムに戦時期の経験が折り重なって、戦後の大企業が形成されたのである。このように、日本における大企業のあゆみは、一つの単純なロジックで説明できるものではない。とくに大企業の黎明期である明治期は、両大戦間期などに比べて大企業に関する研究の蓄積が乏しい。そのため日本における大企業の起源をたどるためには、明治期に関する詳細な研究が不可欠である。さらに企業と市場との関係は、それぞれの産業ごとに個性的であるため、産業の枠を考慮した分析が必要になる。以上の点をふまえつつ、本講義では、日本の産業革命のリーディングセクターの一つであり、明治期を代表する大企業を多く輩出した鉄道業を事例として、日本における生成期大企業の企業構造を明らかにし、その特徴についてのちの時代との比較や国際比較を通して検討してみたい。
一方、本講義の主たる事例である日本の鉄道業は、官営鉄道として出発しながらも、明治中期以降、統合型大企業である幹線鉄道会社の発達によって混合寡占市場を形成した。その後、明治後期に鉄道国有化という大きなショックを経ながらも、大都市近郊の電鉄業を中心に複合経営を行う新たなタイプの統合型企業が登場し、両大戦間期以降に大企業化することになる。そのため、鉄道業を事例に大企業の起源を問う本書は、必然的に日本の鉄道経営の特徴である複合経営の源流を問い直すことになる。
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