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最終更新日:2024年4月22日

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近代とニヒリズム

近代とニヒリズム――カントからニーチェへ
この授業ではカントからニーチェまでの近代ドイツ哲学の流れを概観する。19世紀ドイツはさまざまな独創的な哲学思想を生み出した時期であり、後世への多大な影響を考慮して最近の研究ではこの時期の思潮は「ドイツ古典哲学」と称されることもある。この間の哲学的立場はきわめて多様であるが、それぞれの哲学が何を求め、どのような問題に直面していたのかを理解するためには、比較的大きなコンテクストを想定し、学派や思潮の間にある有機的連関を捉えることが有効である。
この時期のドイツ哲学を論じる際にはしばしば、19世紀初頭のいわゆる「ドイツ観念論」の成立と退潮に確認される「精神的断絶」(レーヴィット)からまとめられる。とはいえこのような整理では、なぜある時期にある傾向をもった思想への熱が高まり、またそれがなぜ急速に冷めていくのか、説明が難しい。そこでこの授業では「カント哲学への応答と対処」という観点をひとつの考察の軸としてみたい。応答と対処の仕方はさまざまであるが、哲学者たちが直面した問題はカントの啓蒙主義的な批判哲学によって空いた穴をどのように塞ぐか、ということにきわまる。このような見立てを用いて、ヘーゲルに代表されるドイツ観念論の議論を通過しながら、ニーチェに至るまで線を引くことにする。
カント哲学の残した問題とは、大きく見れば「西洋近代」と「ニヒリズム」(伝統的な価値観や世界に対する意味づけ可能性の喪失)に関わる。西洋近代という時代文化をある特定の観点からのみ提示することはできないが、ここではとりわけ「自分の頭で考える」という要求に着目してみたい。「自分の頭で考える」ことの必要性は現代日本の社会に生きるわたしたちにとっても自明であるし、哲学の伝統にとってもその根幹をなす態度だと言える。しかし仮にそうだとしても、わたしたちはなぜそれほどまでに、自分の頭で考えなければならないのだろうか。あるいは、あえて「自分の頭で考える」ことが求められるのは、どのような状況だろうか。ある側面から見れば、そのような思考の要求とはある種の突き放しであるともいえる。自分で考えろ、誰も答えを教えてくれないのだから(あるいは誰も答えを知らないのだから)、と。このように見るなら、思考の要求がようやく常態化した時代 ―― それがすなわち「西洋近代」である ―― の特殊な精神性が際立ってくる。授業では「あえて知れ」というカントのモットーを出発点として、カント以後の哲学者たちの思索を「ニヒリズム」への対処という観点から整理してみたい。
もとより対象となる思想家・哲学者は多岐にわたるため、ひとつひとつの難解なテキストを詳細に紹介・分析するというより、そうした研究のための一助となるような、ある程度の幅をもつ理解の形成を目指す。

授業の到達目標
・近代ドイツ哲学の基礎知識を身につける
・西洋哲学史のおおまかな流れと、そこに通底する問題を理解する
・哲学の諸問題について自分で考え表現できるようになる
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
21240405
GHS-GC6D01L1
近代とニヒリズム
下田 和宣
S1 S2
火曜4限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
人文社会系研究科
授業計画
18世紀末ドイツの哲学者カントを起点とし、その後のドイツ観念論哲学の成立と解体を通観したうえで、19世紀後半とりわけニーチェの哲学をその路線上で扱う。トピックとしては、カントが理論認識の可能性から排除した「宇宙」と「神」のステータスがしばしば問題となる。 1 ガイダンス 西洋近代という時代文化の正統性をめぐって 2 カントの認識論と宇宙論――認識の限界 3 カントの道徳論と宗教論――人間の弱さと強さ 4 フィヒテとロマン主義――肥大化する〈わたし〉 5 「ドイツ古典哲学」の研究法――スピノザ主義をめぐる布置状況 6 ヘーゲルと意識経験――知ることが味わう絶望の意味 7 ヘーゲルの精神――有限と対立する無限は真の無限ではない 8 ヘーゲルと歴史――哲学するために哲学史を学ぶ必要はあるのか 9 シェリングと現代の実在論――悪のステータス 10 ショーペンハウアーと反出生主義――「生れてこなければよかった」のか 11 フォイエルバッハのキリスト教批判――「人間が創った神」は必要なのか 12 ニーチェのキリスト教批判――ルサンチマンと人間の卑しさ 13 ニーチェと永遠に繰り返される宇宙――ニヒリズムを生きる、授業全体のまとめ なおプランは状況に合わせ適宜変更となる可能性がある。
授業の方法
基本的に講義形式による(パワーポイントを用いる)。同時に内容理解を促進するため、適宜受講者間のディスカッションを取り入れる。また、各回の授業についてコメント課題を提示する。
成績評価方法
平常点:50%(コメント課題、ディスカッションでの積極的な発言など) 期末試験:50%(自作ノートのみ持ち込み可)
教科書
特定の教科書は使用しない。
参考書
レーヴィット『ヘーゲルからニーチェへ』三島憲一訳、上下巻、岩波文庫、2015年 その他の文献については授業内で適宜紹介する。
履修上の注意
基礎的な概念や考え方についても授業中で解説するため、受講に際して特定の前提知識を求めることはない。授業での解説を復習する、授業内で紹介された文献に取り組むなどするとよい。