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最終更新日:2024年4月22日

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世界哲学と東アジアIII(9)

崇高と資本主義──ジャン=フランソワ・リオタール
この授業では、ジャン=フランソワ・リオタール(1924-98)の思想を「崇高と資本主義」という観点から包括的に解説する。

リオタールは、ドゥルーズ、デリダ、フーコーらとともに、20世紀後半の「フランス現代思想」の一翼を担った人物として知られる。とくに、世界的なベストセラーとなった『ポストモダンの条件』(1979)以来、その思想はフランスのみならず英語圏でも広く受容されるようになり、1998年の没後から四半世紀が過ぎた現在でも、リオタールへの関心は英米圏を中心に高まりを見せている。

なかでも、リオタールが1980年代においてもっとも力を注いだプロジェクトのひとつが「崇高(sublime)」の美学の問いなおしであった。20世紀の芸術実践を、大衆の趣味に迎合する「美しいもの」の美学と、それらに批判を加える「崇高なもの」の美学へと二分するリオタールは、アドルノをはじめとする先達の議論を継承するかたちで、前衛(アヴァンギャルド)に一貫して高い評価をあたえる。さらに、この「崇高の美学」に先鞭をつけたカント『判断力批判』の再読に着手したリオタールは、『熱狂──カントの歴史批判』(1986)や『崇高の分析論』(1991)といった仕事を通じて、狭義の美学にはとどまらない「崇高」の歴史的・政治的な射程を明らかにしていくのである。

その「崇高の美学」に賭けられていた同時代的なアクチュアリティのひとつこそ、資本主義(capitalisme)批判にほかならなかった。リオタールはしばしば、「資本主義経済のなかには崇高なものが存在する」ないし「資本主義の美学は崇高なものの美学である」という——いささか奇妙な——言明をおこなっている。むろん、リオタールは生涯一貫して、資本主義に対する批判的な姿勢を崩すことはなかった。しかしその一方で、その批判の方法がきわめて複雑なものにならざるをえない、ということも重々承知していた。というのも、リオタールの考えによれば、資本主義の直截的な批判は端的に不可能だからである。リオタールは本格的に執筆活動をはじめた1970年代前半に、すでにそのような意見を公にしている。そして、明示的にそう言われているわけではないにせよ、のちのリオタールの哲学は、この批判不可能な資本主義をいかに批判するかというモティーフに貫かれていた。

この批判ならざる批判を行なうために、リオタールは美学という領域に終始こだわり、そこでさまざまな概念を創造しつづけた。その中核をなすと目される崇高は、資本主義に内在しながらそれを内破させうる可能性を秘めた、両義的な概念として想定されている。崇高とは、リオタールにとってたんなる美学の概念ではない。「美学」と「政治」という二つの領域のあいだの複雑な交錯は、まさしく崇高という概念を要石として展開されているのである。

この授業は、以上のような関心にもとづき、教員の講義を中心に行なわれる。ただし、講義後の質疑応答や、学生による発表機会も随時設ける予定である。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
08F150709
FAS-FA4F07L1
世界哲学と東アジアIII(9)
星野 太
S1 S2
水曜2限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
教養学部
授業計画
第01回 イントロダクション 第02回 講義(1)はじめに:崇高と資本主義 第03回 講義(2)1-1:呈示不可能なものの呈示、崇高 第04回 講義(3)1-2:超越的な崇高 vs. 内在的な崇高 第05回 講義(4)2-1:争異と呈示不可能なもの 第06回 講義(5)2-2:呈示の臨界──表象の不可能性 第07回 講義(6)3-1:衝撃の美学 第08回 講義(7)3-2:非物質的質料と〈もの〉 第09回 講義(8)4-1:資本主義の美学 第10回 講義(9)4-2:二つの「非人間的なもの」 第11回 講義(10)5-1:ポストモダンの幼年期(1979-1984) 第12回 講義(11)5-2:展覧会「非物質的なものたち」(1985) 第13回 授業のまとめ
授業の方法
1)講義が全時間のおよそ60%を占める。 2)その後、講義にもとづいた長めの質疑を行なう。これが約30%を占める。 3)受講者の希望を募り、関連の発表機会を設ける。これが約10%を占める。
成績評価方法
学期末に期末レポートを課し、提出者を対象に単位を付与する。 その他、授業中の発表や討議への貢献も総合的に評価し、点数に加味する。
教科書
なし。講読するテクストがある場合は教員が用意する。
参考書
授業中に指示する。関連する教員の論文は以下の通り: 星野太「ポストモダンの幼年期──あるいは瞬間を救うこと」『現代思想』2021年6月号、青土社、22-31頁。 星野太「(非)人間化への抵抗──リオタールの「発展の形而上学」批判」『現代思想』2016年1月号、青土社、160-172頁。 Futoshi Hoshino, "The Sublime and Capitalism in Jean-François Lyotard" in UTCP Booklet 27: The Sublime and the Uncanny, 2016, pp. 17-40. 星野太「感性的なものの中間休止──ジャン=フランソワ・リオタールの崇高論における時間論的転回」『超域文化科学紀要』13号、2008年、145-159頁。
履修上の注意
フランス語を既習、あるいは学習中であることが望ましい。
その他
この授業は原則的にすべて対面で行なう。 ただし、学部の方針に従い、初回のみオンラインで行なう。 詳細についてはLMSに掲示するアナウンスを確認すること。