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最終更新日:2024年4月22日

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物質基礎科学特殊講義II

核磁気共鳴法(NMR)の基礎と応用 Principles and Applications of Nuclear Magnetic Resonance (NMR)
核スピンの共鳴を観測する「核磁気共鳴法」は、物質科学において物性を調べる微視的手法として、また化学における有機分子構造解析の手段として、あるいは医学や脳科学などにも用いられる、現代科学の重要な実験手法の一つである。
本集中講義では、初学者に理解できるように、できる限り平易に「核磁気共鳴法」の基礎原理を説明し、また、特に物性物理・電子物性に対する核磁気共鳴法の応用を解説していく。

この過程で
i) 物理学ならびに化学を中心とした幅広い応用のある「核磁気共鳴法」の基礎原理を理解し、
ii) 物性物理学的観点からの、核磁気共鳴法から見た電子磁性の理解を得る。
の2点の理解の獲得が本講義の目標となる。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
08E1157
FAS-EA4C54L1
物質基礎科学特殊講義II
伊藤 哲明
S1 S2
集中
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
教養学部
授業計画
0)核磁気共鳴法の概括 本集中講義で用いられる核磁気共鳴が、現代科学においてどのような分野で用いられているか概括する。 1)物質中の荷電粒子と角運動量 物質を構成する粒子には「電子」と「原子核」がある。この両者の磁気モーメントがどのように異なるかを概括する。 2)原子核の磁場中での性質の概括 原子核スピンは、第ゼロ近似では、周囲と相互作用を持たない自由な磁気モーメントとみなせる。自由な磁気モーメントが磁場中に置かれたときの静的性質・動的性質についての概括を行う。 3)原子核の静磁場中での運動 自由な原子核スピンが磁場中に置かれたときの運動について古典論・量子論の両側面からの解説を行う。 4)核磁気共鳴 静磁場中原子核スピンに振動磁場が入射されたときの「共鳴」現象を説明する。この共鳴が「核磁気共鳴」に他ならず、この時点で核磁気共鳴の基本的な部分が理解されることとなる。 5) 核磁気共鳴の実際の観測方法とフリーインダクションディケイ(FID) 実際の実験装置を紹介しながら、核磁気共鳴信号の観測方法を解説する。また、実際の観測方法との1つのフリーインダクションディケイ観測法を説明する。 6)原子核スピンの周囲との相互作用 原子核スピンは第ゼロ近似では周囲との相互作用を持たないが、実際には弱いながらも、i)他の核スピンとの相互作用 ii)電子との相互作用を持つ。これらの点を概括する。 7)核スピンの周囲との相互作用の効果ー他の核スピンとの相互作用ー 核スピンの持つ相互作用のうち、i)他の核スピンとの相互作用 のもたらす結果について説明する。さらにこの効果が、液体試料の場合と固体試料の場合でどのように異なるか概括し、化学における有機分子構造解析において、何故液体NMRが主流となっているのかを解説する。 8)核スピンの周囲との相互作用の効果ー電子との相互作用ー 核スピンの持つ相互作用のうち、ii)電子との相互作用、についての議論を始める。 一般に電子の磁性は、電子運動による軌道磁性と電子スピンによるスピン磁性がある。この両者を説明し、前者の軌道磁性効果が「ケミカルシフト」として、後者の電子スピン磁性効果が「ナイトシフト」として核磁気共鳴信号に影響を与えることを解説する。 9) スピンエコー法 6)-8)で説明した原子核の周囲との相互作用により、しばしば核磁気共鳴スペクトルは広い線幅を持つことがあり、この時FID測定は困難になる。この際の測定に用いられる重要な概念「スピンエコー法」について学ぶ。 10) スピンー格子緩和(T1)、スピンースピン緩和(T2) 核スピンの磁場下の固有状態(ゼーマン分裂状態)は、完全な固有状態とはならず、前述の原子核の「周囲との相互作用」により有限の寿命を持つようになる。この効果はスピンー格子緩和(T1)、スピンースピン緩和(T2)の2つに大別される。これらを説明し、その両者の物理量が「周囲のどのような情報」を反映するかを説明する。 11) 物性物理学への応用例 6)-10)で説明されるように、原子核はその周囲の環境と弱い相互作用を持ち、それを利用して周囲の様々な情報を得ることができる。特に物性物理では「物質中で電子がどのようにふるまっているか」が議論の中心となるため、周囲の電子の情報が得られる核磁気共鳴が物性物理において重要な情報を与え得る。この種々の応用例を紹介する。
授業の方法
授業は主に黒板を用いた講義形式で行う。基本的に授業計画で記した項目(1項目につき1コマとは限らない。)の順で解説を行うことを想定しているが、出席者の理解状況に応じて、講義の順番・内容を変えることがある。
成績評価方法
講義の最後にレポートを課す。このレポートにより評価を行う。
教科書
特になし。
参考書
核磁気共鳴法を理解するにおいて有用な教科書は多くあり、その一部を紹介する。 ●核磁気共鳴の原理について 1) 「磁気共鳴の原理」 Charles P. Slichter 著 益田 義賀 翻訳 古典的ではあるが、NMRの原理のバイブル的な教科書である。 2)「核の磁性」上・下 A. Abragam 著 富田 和久 翻訳 より古く、また難解であるが、上記と並びNMRの原理の古典的バイブルとされる。 ●物性物理への核磁気共鳴の応用について 3)共鳴型磁気測定の基礎と応用 北岡良雄 著 NMRの基礎原理から始まり、磁性体、超伝導体等の強相関電子系へのNMRの応用例が多く載っている。 比較的平易に書かれており、読みやすい。(2014年12月第一版発行)
履修上の注意
出席者の理解度に合わせて講義の進捗スピードは変える予定であるが、シュレディンガー方程式、ハイゼンベルグ運動方程式、スピンの交換関係といった、基本的な量子力学の知識は少なくとも必須である。また、ボルツマン分布等の統計力学の理解も必要である。