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最終更新日:2024年10月18日

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日本地域特殊演習

文化財から考える日本の朝鮮支配
近代日本の歴史や文化を考える際、植民地支配の問題を視野に入れる必要がある。改めて言うまでもなく、植民地支配は、被支配民族に様々な害を与えた。そのなかでは、文化についての統制や破壊、略奪もあり、後世に伝えるべき文化財についての、各種の被害もそこで生み出された。
そのことについては、単に過去に起こった出来事である、として片づけるわけにはいかない。植民地朝鮮から持ち出された文化財についてどのように考えればいいのか、という問題などが存在するからである。
ただし、個々人のレベルで見れば、文化財をめぐる交流、伝統的な美の発見と評価、保存のための活動も、構造的な支配と被支配との関係が厳然として存在するなかでも生み出された。もっとも、これは換言すれば、そのような構造自体は破壊されないまま、関係が築かれていたわけであり、それを手放しで評価することも難しい。
そうした、日本の植民地支配の時期に行われていた文化財政策や、そこでの文化財の持ち出し、破壊、民間レベルでの文化財をめぐる交流、それにともなう「過去清算」の動きなどについて、この授業では学んでいく。


長く伝わる美術工芸品や先人が残した建造物などの遺跡、伝統行事などの有形、無形の文化財は、国籍や民族を超えて人びとに感動を与えるものである。しかし、それは、国家による国民統合と無縁ではなく、それはしばしば特定の国民や民族のナショナリズムと結びつくこともある。そして、「どの国民のものか」、「それをどこに置くべきか」といったことがしばしば問題になる。また、そもそも、文化財の選定や遺跡等の保存については、「だれがどのような基準で価値を認めるか」という問題がある。人権侵害や戦争、植民地支配の記憶と結びつくものが、忌避されたり、賛否両論の議論を呼び起こしたりすることは珍しくない。
周知のように、韓国・朝鮮にある、あるいは韓国・朝鮮の人びとが製作したり、その歴史と関係を持ったりしている文化財についても、そうした問題は存在する。そして、日本には、そうした文化財が多数ある。
そこで、この授業では、朝鮮・韓国の文化財に着目し、文化財の選定、保存や、所有、返還、活用、展示等の諸問題を考えていくこととしたい。その際、朝鮮・韓国関係の文化財のみを取り上げるのではなく、他地域・他民族の事例で比較、参照しうるものについても学んでいく。
そのことを通じて、文化財と市民社会との関係の望ましいあり方、日本と韓国・朝鮮との友好について考えを深めていく。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
08C2829
FAS-CA4Q24S1
日本地域特殊演習
外村 大
S1 S2
水曜3限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
教養学部
授業計画
1、ガイダンス―文化財について考える意義 授業の概要と目標について説明し、参考にすべき文献の紹介や基礎的知識の確認、授業で扱う文献等について、説明を行う。 なお、この第1回授業についてはオンラインで実施する。 2、近代日本における文化財制度 近代日本での文化財の保存、管理、認定の制度がどう確立して来たか、その特徴がどんな点にあるかを考える。 3、朝鮮支配と文化財政策 朝鮮植民地支配のなかで、日本帝国がどのような文化財政策を展開していたのか、制度の確立施行や文化財調査、保存などについて説明していく。 4、朝鮮民族勢力と文化財保存 1920~30年代において展開された、朝鮮の民族運動勢力がどのように朝鮮総督府の政策に対抗しようとしていたのか、朝鮮語紙の論調や古蹟保存運動などについて論じる。 5、朝鮮民族勢力と文化財保存 植民地期に文化財が流出するなかで、私財を投じて文化財を守る活動を続けた朝鮮人も存在した。そのような人物の活動について紹介する。 6、浅川兄弟による朝鮮の美の発見 在朝日本人のなかには、朝鮮の工芸品等に美を見出した者もいた。特に浅川巧・浅川伯教兄弟の活動は、高く評価されている。そのことについて紹介し、評価を考える。 7、柳宗悦と朝鮮民族美術館の設立 浅川兄弟にも影響を受けながら、柳宗悦は朝鮮の美術工芸品を評価し、当時の同化政策を批判した。さらに朝鮮民族美術館の建設も実現している。そのことについて、紹介し、評価を考える。 8、日本民芸館の見学 駒場キャンパスの近くにある日本民芸館を見学し、朝鮮韓国由来の美術品、工芸品などを鑑賞するとともに、柳宗悦や浅川巧らと朝鮮人との交流について考える。 9、戦後の日韓国交正常化と文化財問題 日韓国交正常化の交渉の中では、文化財問題はどのように扱われたのか、それについて、韓国や日本の市民はどのような認識を持っていたのかについて考える。 10、21世紀以降の韓国への文化財返還問題 21世紀に入っても、文化財返還が問題となり、実際に、それが実現したケースもある。そこにおいて問題になったことは何か、現在はどのような問題があるかについて提示し、議論する。 11、海外における「文化財返還」の動向 近年、ヨーロッパでは過去に植民地から持ち出した文化財を返還する動きがある。その背景や法制度との関係などを学ぶ。 12、北朝鮮の文化財 朝鮮民主主義人民共和国の文化財政策や、博物館の現状、国交のない北朝鮮との間での文化財問題の解決はどう展望し得るのかを考える。 13、総合討論 授業全体を振り返って、朝鮮・韓国の文化財をめぐる問題について受講者全員で議論を行う。
授業の方法
教員が指定した文献を読み、受講生が報告、討論する授業のほか、ゲストとして招き、お話しをうかがって、議論を行う授業も予定している。 毎回の授業に関して、授業レポートを作成してもらいながら、授業に対する理解を深める。 学期の途中で、本授業の責任講師が招聘講師の授業の内容を整理し、履修者の間で、理解度を深め、論点を整理する時間を持つ。 オムニバス講義という形式で進め、毎回、論点を整理するコメントシートを配布し、成績評価に反映する。
成績評価方法
毎回の授業に対するコメントの提出、および学期末レポートの提出、そして平常点(授業への積極性・貢献度)などを総合的に勘案して成績評価を行う。
教科書
特に指定しないが、授業で関連の論文や著書を紹介するので、各自の学習に活用すること。
参考書
授業時間に紹介する。
履修上の注意
近代の日朝関係史について、基礎的な通史を1冊以上読んだうえで受講することが望ましい。