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最終更新日:2026年4月20日

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特殊研究演習II[イギリス研究コース]

ゴシックと文学・文化研究
 この授業は、18世紀イギリスに誕生したゴシック小説を起点としつつ、その後の西洋文学、アメリカ文学、さらには日本・アジア文学における「ゴシック的想像力」の展開をたどりながら、文学研究としてのアプローチについても検討していきます。
 ゴシックは単なる怪奇趣味ではありません。廃墟・幽霊・血統・監禁・分身・人工生命といったモチーフを通して、近代社会の宗教的不安、政治的正統性、ジェンダー規範、科学技術への恐怖、そして主体の分裂を可視化してきました。この授業では、各回で特定の作品を精読し、歴史的背景と思想的文脈を確認しながら、ゴシックの多義性を探っていきます。
同時に、空間論(廃墟・館・迷宮・迷宮)、感情史(恐怖・崇高)、ポストコロニアル理論、ジェンダー研究、精神分析理論などの批評的アプローチを導入することで、どのようにゴシックを解釈しうるかについても検討していきます。西洋と日本・アジアを往還しつつ、ゴシックを普遍的様式ではなく、時代と地域に応じて再編成される動的な想像力、文化的装置としてその意味を問うことを目標とします。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
08C2132
FAS-CA4J31S1
特殊研究演習II[イギリス研究コース]
大石 和欣
S1 S2
月曜3限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
不可
開講所属
教養学部
授業計画
第1回 ゴシックとは何か ゴシックという語の歴史的変遷をたどり、18世紀イギリスにおけるゴシック・ロマンスの成立背景を確認します。ゴート人から派生した「ゴシック」という言葉は、その曖昧さを包摂しつつ、想像力を刺激してゴシック・ロマンスからゴシック建築まで多様な姿をとって顕現しました。ホラース・ウォルポールの『オトラント城』を導入として、中世という舞台、ロマンスという構造、血統・超自然というテーマ、抑圧される女性、恐怖、闇という基本的要素について考えます。 第2回 崇高と闇の美学 イギリスでゴシック・ロマンスが台頭した背景には、墓場派の詩やピクチャレスク美学があります。それらを参照し、廃墟・死・闇・崇高に関わる感情や美学がいかにゴシック的感性を形成したかを現代のサブカルチャーの視点も導入しながら検討します。(墓地派の詩、エドマンド・バークやカントの崇高美論など) 第3回 迫害される乙女 ゴシックとして定番となっている抑圧される女性について考えてみます。ゴシックでは女性が社会制度によって抑圧されたり、物理的に監禁されたりといったモチーフが用いられます。恐怖・女性主体の問題をジェンダー的観点から考察します。感傷小説との連続性も検討します。(江戸川乱歩「人間椅子」、小川未明「赤い蝋燭と人魚」、岡本綺堂「怪談牡丹灯籠」など) 第4回 エロ・グロ・ナンセンス ゴシックには暴力性だけではなく、抑圧的な制度に対する反逆や批判が含まれています。西洋ではそれがカトリックなどの宗教制度や家父長制である場合が多いですが、日本の「エロ・グロ・ナンセンス」を代表する小説において、そうした制度への抵抗がどのように現れているか考えてみます。 (夢野久作『少女地獄』、泉鏡花『高野聖』など) 第5回 ゴシックの政治性 第4回で確認した制度への批判や反逆は政治的なスタンスにもなります。ウィリアム・ゴドウィンの『ケイレブ・ウィリアムズ』は、革命期の監視・陰謀・暴力がテーマになった、近代的サスペンスの先駆的事例です。それ以外のゴシック的要素を持つ文学作品を読解しながら、ゴシックの政治性について考えてみます。 (カフカ「流刑地にて」、芥川龍之介「将軍」、魯迅「狂人日記」、エドガー・アラン・ポー「落とし穴と振り子」など) 第6回 人工生命 メアリ・シェリーが書いた『フランケンシュタイン』の抜粋を精読し、創造行為と責任、科学の倫理がゴシックという枠組みとどう絡み合っているのかを検討します。若き科学者が生み出した人工生命と創造主の関係を通して、近代的主体の傲慢と孤独、排除された存在の苦悩を読み解くことで、ゴシックとSF小説の接点を考えてみます。また、怪物像の思想的意義を考察し、現代に通じる科学と人間の問題を議論します。 (メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』、ホフマン「砂男」など) 第7回 ロマン派のゴシック 第6回で読んだ『フランケンシュタイン』は、ロマン主義の要素を多分に含んでいます。第7回ではゴシックのロマン主義性について、ロマン派の詩や絵画を素材にして考えてみます。罪、呪い、幻想、造像力、崇高が重要なテーマとなっていますが、その背後にはどのような哲学的意味があるのでしょうか。音楽や絵画との連動性も考えてみたいと思います。 (S・T・コウルリッジ「老水夫行」、ゲーテ『魔王』、ノヴァーリス『夜の讃歌』、ジョン・キーツ『つれなき美女』、ボードレール「吸血鬼」など) 第8回 アメリカン・ゴシック アメリカ合衆国におけるゴシック文学においては、旧世界の城や廃墟ではなく、都市、精神、罪責、倒錯といった内面的空間を舞台に、恐怖と想像力が展開します。その構造を分析し、崇高の変質、主体の分裂、死と美の結合を読み解き、アメリカン・ゴシックの特質を明らかにします。 (ポー「アッシャー家の崩壊」、シャーロット・パーキンズ・ギルマン「黄色い壁紙」、ホーソーン「ヤング・グッドマン・ブラウン」、トニ・モリソン『ビラヴド』) 第9回 日本近代のゴシック 日本文学におけるゴシックは、大正時代に欧米から導入され、芥川龍之介や佐藤春夫らによって翻訳・翻案されて受容されました。恐怖や怪奇、閉鎖空間(古い屋敷など)を舞台に、幻想や耽美的な要素を特徴とし、戦後は映画やファッションにも波及して独自に発展しました。今回は日夏耿之介『サバト恠異帖』を軸にすえて、日本近代における幻想・怪奇文学の系譜の一つを検討します。西欧デカダンスや悪魔学的想像力を受容しつつ、日本的宗教感覚や美意識と交錯する怪異表象を精読します。呪術・異端・魔女的祝祭といったモチーフを通して、日本ゴシックの形成過程とその思想的背景にせまってみます。 (日夏耿之介の『サバト恠異帖』(1948)、ボードレール「腐屍」、久生十蘭『地底獣国』『魔都』、澁澤龍彥『犬狼都市』『唐草物語』など) 第10回 吸血鬼物語 フォークロアから『カーミラ』『ドラキュラ』へと続く吸血鬼像の変遷を辿り、19世紀末の社会背景である他者性・帝国主義・身体の政治学を精読します。また、近年の映像作品に見られる、かつての「敵」から変容する現代的な吸血鬼像の表象についても考察します。 (レ・ファニュ『カーミラ』、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』、皆川博子『聖女の島』など) 第11回 二重人格―近代都市と主体分裂のゴシック 19世紀末、近代都市の匿名性と精神医学の勃興は、一元的な自己に対する見方を揺るがしました。今回は、公共空間の「秩序」と私的領域の「無意識」の二重性を軸に、主体分裂の表象を検討します。ヴィクトリア朝の規律が生んだ「偽善」や、犯罪学が規定した「退化」への恐怖が、いかに怪異な身体として表出されたかを分析します。西洋のドッペルゲンガー伝説が、日本の近代知識人へといかに変奏・受容されたか、その思想的背景をゴシックの文脈において精読します。 (R.L.スティーヴンソン『ジキル博士とハイド氏』、オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』、芥川龍之介『二つの手紙』、ボードレール「スプリーン」など) 第12回 ポスト・コロニアリズム ゴシック文学の背後には、常に植民地支配による他者への加害と、その報復を恐れる帝国の不安が潜んでいます。この回では、西欧近代が「野蛮」として排斥した植民地的他者が、いかに吸血鬼や呪術といった怪異として回帰し、宗主国の秩序を揺るがすかを分析します。サイードの「オリエンタリズム」等の概念を用い、中心と周縁の権力構造が、いかに身体の変容や閉鎖空間の恐怖へと翻訳されるかを、日欧のテクストから精読してみましょう。 (ジーン・リース『サルガッソーの広い海』、中島敦『文字禍』、谷雄高『死霊』など) 第13回 現代ゴシックの変奏 ―クィア・ゴシックと残酷の美学 現代におけるゴシックの一端は、性の多様性や歴史の暗部を照射する装置へと進化を遂げています。今回は、サラ・ウォーターズに代表されるクィア・ゴシック小説を軸に、家父長制的な閉鎖空間で抑圧された女性たちの欲望のあり方や、皆川博子の描く耽美的な残酷美や少年愛、ナチス等の歴史的背景について考えてみます。Jホラー的なテクノロジーの恐怖とは異なる、身体の情動と様式美が織りなす「現代の異端表象」の到達点を議論します。 (サラ・ウォーターズ『半身』、『黄昏の彼女たち』、皆川博子『倒立する塔の殺人』、『死の泉』など)
授業の方法
毎回、課題となるテクストを題材にして、それぞれ定められたテーマにそって議論・検討をしていきます。 発表担当者を割り振りたいと思いますので、授業計画を確認の上、発表担当したい回とテクスト(リストにあがっていないものでも関連する文学作品であればなんでも可)を決めておいてください(第2希望まで)。
成績評価方法
出席態度40%、発表20%、レポート20%、試験20%
履修上の注意
あまり長くないようにしますが、毎週読解する小説や短編などがあります。事前に読んで来てください。 第1回4月6日のみonlineもしくはストリーミング配信で授業を行う可能性があります。Google Classroom経由で連絡しますので、以下のリンクより事前に登録しておいてください。  https://classroom.google.com/*****