L’Echiquier(チェスボード)は、8x8のマスからなるチェスボードにちなんで64章で構成され、各章では、コロナ禍自主隔離期間中にあった著者がその時々に感じたこと考えたことが時系列順に綴られていきながら、その合間合間に、チェスにまつわる個人的な回想や、著者が始めたツヴァイクの『チェスの話』の翻訳に関する話などがランダムに挿入されることで、日常的・平面的な時空間に夢幻的ともいえる奥行きと拡がりが与えられ、想像上のチェスボードの上で随想、回想と文学が複雑かつ豊かに共鳴しあうという、数あるトゥーサン作品の中でも独創的な創作となっています(昨年のゴンクール賞候補作となりながら、惜しくも受賞を逃しました…)。授業では、L’Echiquierとともに刊行されたトゥーサン初の翻訳書である Echecs(Minuit, 2023)、L’Echiquierと同じく「回想」形式で書かれた前作 C’est vous l’écrivain(LeRobert, 2022)、さらに、未刊行の第一作Echecs(1979-1981)をあわせて参照しながら、L’Echiquierの世界に浸っていきたいと思います。