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最終更新日:2024年4月22日

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テクスト分析演習I(5)

ロマン主義の諸相(イギリス)
「ロマンチックな」という形容詞は日本語でも日常的によく使われています。しかし、「ロマン主義とは何ですか?」とあらためて問われると、即答できる人は少ないのではないでしょうか。
では、ロマン主義作家あるいは芸術家としてどんな人たちを思い浮かべますか、と尋ねられたらどうでしょうか?
フランスならユゴーやネルヴァル、ドラクロワ。ドイツならゲーテやシラー、シュレーゲル。ロシアのプーシキン。音楽家で言えば、ベートーベンやシューベルト、さらにはシューマンやリストなども想起する人がいるでしょう。そしてイギリスでは、ワーズワスやバイロン、シェリーといった詩人や画家ターナーを思い出してもいいでしょう。
 これらの人たちは、生き方はもちろんのこと、作風も、画風も、そして生きた時代や文化も多様性に富んでいて、彼らの作品すべてに共通する要素を抽出するのはきわめて難しい気がします。実際、研究者の間でもロマン主義の定義については長い間議論され続けています。いくつか重要な学説は存在していますが、それぞれについて批判的な見解があったり、対抗する説によって否定されたりしています。
 しかしながら、ロマン主義に大まかな傾向は認められます。時代としては18世紀末から19世紀前半にかけて興隆した文芸・芸術運動です。一般的傾向としては、現実ではなく、想像力の世界や内面性に価値を置き、時に非現実的な世界へ逃避したり、中世などの過去やオリエントなどの異国へ憧れたり、時に自然美や子供の無垢を讃えたり、それゆえに時に旧弊的な政治体制に批判を行う革命性を備えています。スタイルの面から言えば、前時代の古典主義的な修辞や形式を破り、自然な感情の奔放な発露を追求します。
 この講義では、こうした多面的な側面を持つロマン主義を主にイギリスを中心にして考察していきます。具体的にはワーズワスやコウルリッジ、ブレイク、シェリー、キーツ、バイロンといった詩人の詩作品を中心に精読していきます。時には『オックスフォード英語大辞典(Oxford English Dictionary)』を参照しながら、言葉一つ一つについて意味を確認・特定しながら、言葉を理解する面白さを体験していきます。同時に、それぞれの詩の背景やヨーロッパ全体を含めたロマン主義のテクストとして備えている意義についても確認していきます。
 見過ごしてはならないのは、この時代、アメリカ独立戦争やフランス革命、ナポレオン戦争といった政治的な動乱があったと同時に、イギリスにおいてはいわゆる産業革命や農業技術の進歩、消費経済の浸透が起こった結果、社会構造の大きな変容とともにアイデンティティと価値観の大きな動揺を誘発されたということです。そういう歴史的背景を置いてみることで、ロマン主義文学の重層的な意味を解きほぐすことができるでしょう。そうした関連資料も読み解きながら、詩的言語の表と裏をともに精読していきます。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
08C160805
FAS-CA4H07S1
テクスト分析演習I(5)
大石 和欣
A1 A2
月曜4限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
教養学部
授業計画
 毎回の授業では対象とするテクストや作品について読解を行い、テクストについては翻訳した上で、分析や考察を論じていきます。  毎回、事前に決められた発表担当者は与えられたテクストの翻訳と考察を提示します。その後、教員やほかの学生からの質疑応答を行い、教員から補足説明と一歩踏み込んだ考察を提供します。  授業は対面で行います。  毎回のテーマと課題テクストは以下の通りとします。 第一回  序論  ロマン主義の背景と全体像を確認します。 John Keats, ‘On First Looking into Chapman’s Homer’ 2 感受性の時代からロマン主義の時代へ  感受性の時代と言われた18世紀中葉から移行したと考えられるロマン主義文学だが、そこにはどのような文学的モチーフの連続性と断絶を見ることができるのでしょうか。「抒情性」というロマン主義の特質とどう関係するものだと考えられるでしょうか。 William Wordsworth, ‘Sonnet on Seeing Miss Helen Maria Williams Weep at a Tale of Distress’ (1787) 3 無垢と経験というテーマ  ロマン主義には無垢、子供、自然状態を理想化する傾向が認められます。それは同時に大人の世界、社会における悪を批判的にみつめる眼差しにもつながります。無垢と経験というテーマはロマン主義においてどう捉えるべきなのでしょう。 William Blake, ‘The Shepherd’ (1789), ‘London’ (1794) 4 内的探求のモチーフ  ロマン主義文学に頻出するモチーフが探求ですが、なかでも内面的探求はもっとも特徴的なものと言えるでしょう。それがどのようなものであり、かつ文学的に、また哲学的にどう位置づけるべきものなのか考えてみましょう。 Percy Bysshe Shelley, ‘Alastor’ (1816) [抜粋] 5 ロマン主義において自然崇拝が意味するもの  自然崇拝はもう一つのロマン主義文学の特質です。20世紀末にはエコロジー批評が台頭し、ロマン主義解釈に新たな光を当てることになりました。自然がロマン主義において持っている意味を確認してみましょう。 William Wordsworth, ‘Tintern Abbey’ (1798)[抜粋] 6 崇高美のアイロニー  自然に対する眼差しの審美的性質かかわるものに「崇高美」という概念があります。もともとは修辞学における美質であった「崇高」の概念が、自然美に適用されていったものです。ロマン主義文学にはこの「崇高美」を好んで用いるケースが多いです。それはどのようなものでしょうか。 Percy Bysshe Shelley, ‘Mont Blanc’ (1817)[抜粋] 7 廃墟のロマン主義  崇高美を構成する一要素として「廃墟」がありますが、それは単に審美的なものにとどまらず、実存的な意味を付与されると同時に、ロマン主義の作品を特徴づける「断片」性ともつながりを持っていると考えられます。ロマン主義の本質にかかわる問題として「廃墟」を考えてみましょう。 Lord Byron, Childe Harold’s Pilgrimage, Canto IV (Stanza 25-27) (1818) 8 バラッド復興  イギリスにおけるロマン主義の台頭は、ワーズワスとコウルリッジの『抒情歌謡集(Lyrical Ballads)』を契機とする学説が有力ですが、「歌謡(ballads)」の復興はそれ以前、とりわけ1765年にトマス・パーシー(Thomas Percy)が編纂した『イギリス古詩拾遺集(Reliques of English Ancient Poetry)』によって国内に広まっていました。しかし、ロマン主義文学が再構築した「歌謡」は、パーシーの蒐集した「歌謡」とは異なる性質のものであると考えられます。それは何を特徴としているのでしょうか。 John Keats, ‘La Belle Dame Sans Merci’ (1820) 9 想像力とエクフラーシス(ekphrasis)  ロマン派詩人たちは共通して想像力の重要性を訴え続けますが、それは具体的にどのようなものとして捉えるべきなのでしょうか。ロマン主義における代表的な想像力論を俯瞰しながら、その特質と問題点を考えてみます。その一例としてジョン・キーツの「ギリシアの壺についての賦」を読解します。この詩は視覚芸術を言語化するエクフラーシス(ekphrasis)の実例でもあり、詩的言語の絵画性についても同時に考えてみたいと思います。 John Keats, ‘Ode on a Grecian Urn’ (1820) 10 女性詩人たち 「ロマン派詩人」というとワーズワス、コウルリッジ、シェリー、キーツ、バイロン、ブレイクという男性詩人を指すことが多いですが、ロマン主義時代は女性の詩人や散文作家が活躍した時代でもあります。彼女たちの言語活動についてどのような特徴と歴史的意義があるのか考察してみましょう。 Anna Letitia Barbauld, ‘Epistle to William Wilberforce, Esq. On the Rejection of the Bill for Abolishing the Slave Trade’ (1791) 11 革命とロマン主義  ロマン主義の時代は、アメリカ独立戦争やフランス革命、ナポレオン戦争によって大きな政治的・社会的影響を受けることになります。また、いわゆる産業革命の時代にあって、社会生活そのものも大きな変容を経ていくことになります。ロマン主義詩人たちの思想や言語もこうした革命の時代のなかで位置づけていく必要があります。 Percy Bysshe Shelley, Prometheus Unbound (1820) [抜粋] 12 オリエンタリズムとロマン主義  遠い異国への憧憬はロマン主義を特徴づけるもう一つの性質です。18世紀末以来、アフリカや南米などへの探検についての記録やアジアの風物についての見聞録が、広く英語圏でも出回っていた時代背景を考える必要があります。なかでもオリエントや東洋は、詩人たちの想像力を掻き立てるものでもありました。ロマン主義文学はエドワード・サイードの「オリエンタリズム」の事例として考えられるものなのでしょうか。 Samuel Taylor Coleridge, ‘Kubla Khan’ (1816) 13 思想・哲学とロマン主義  ロマン主義における文学は、背後において思想・哲学に支えられたものでもあります。時代全体として、また詩人・作家それぞれにおいても、特徴的な思想・哲学があり、展開されてきました。そうしたロマン主義の思想的・哲学的な特徴について考えてみましょう。 Samuel Taylor Coleridge, ‘Frost at Midnight’ (1798)
授業の方法
毎回の授業では課題となっているテクストについて読解を行い、全員で議論します。 毎回、事前に決められた発表担当者は課題テクストを日本語に訳した上で、分析・考察を提示します。 その後、教員やほかの学生からの質疑応答を行い、教員から補足説明と一歩踏み込んだ考察を提供します。 授業は対面で行います。
成績評価方法
出席と発言・授業態度 50%、発表25%、レポート25%
教科書
課題テクストについては事前に配布します。
参考書
Ferber, Michael. Romanticism: A Very Short Introduction. Oxford: OUP, 2010. Wu, Duncan, ed. Romanticism: An Anthology. 3rd ed. Oxford: Blackwell, 2006. ---, ed. A Companion to Romanticism. Oxford: Blackwell, 1999. Roe, Nicholas, ed. Romanticism: An Oxford Guide. Oxford: OUP, 2005. McCalman, Iain, Jon Mee, Gillian Russell, Clara Tuite, eds. An Oxford Companion to the Romantic Age: British Culture, 1776-1832. Oxford: OUP, 1999.
履修上の注意
大学図書館の提供する情報サービスを通して、デジタル版の『オックスフォード英語大辞典』(Oxford English Dictionary)を確認できるようにしてください。 ロマン主義が専門の学生でなくても大丈夫です。
その他
可能であれば地域文化研究専攻イギリス科アルヴィなほ子先生のイギリス・ロマン主義文学に関する授業("Texts and Contexts of Romanticism")も合わせて履修することをお薦めします。