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最終更新日:2025年10月17日

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言語理論II

音韻素性の起源・性質・階層構造
 音韻素性とは、ある言語がもつ子音や母音といった「有意味な音」の特徴を区別するための単位のことであり、1つの音はいくつかの音韻特徴の集合体とされてきた。通常は二項的に[±F]で表示され、たとえばtip, dip, sip, zipの語頭子音は順に、それぞれ[-voice, +coronal, -continuant], [+voice, +coronal, -continuant], [-voice, +coronal, +continuant], [+voice, +coronal, +continuant]の集合体であり、調音位置はみな同じ歯茎音[+coronalであるが、重要な意味対立は有声か無声か[±voice](t vs. dまたはs vs. z)と閉鎖か摩擦か[±continuant](t vs sまたはd vs. z)にある。
 世界言語の子音や母音を区別するために、音韻素性は一説によると19種類におよび、それらは人類が共通にもつ普遍部分となるのだが、ある言語の獲得過程では、必要な区別をするための素性と指定値のみ学習(その他の素性は不活性化または喪失)するとされる。こうした音韻素性論は約60年にわたって議論されてきたが、今なお議論の余地のある論点もある。
 この授業ではそうした論点のうち、次の3つに絞って議論を行う。第一に、起源(Nature/Nurture Problem):どこまでが言語普遍的(ゆえに種固有の遺伝的共通部分)でどこからが言語個別的(ゆえに言語ごとの学習可変部分)なのかの問題。人間固有部分が19種類もあるとなると、進化的に近隣他種生物からの漸進性が説明できない。第二に、性質(Monovalent/Bivalent Problem):音の特徴がそもそも「±」という二項的(binary)な性質を持つ(つまり「−」は「+」にない効果を持つ)のか、それとも単に特徴の有無だけが問題となる欠性的(privative)な性質を持つ(つまり「−」は設定しない)のかの問題。音韻過程に照らして、「−」を積極的に支持する根拠が果たしてあるのかどうか。第三に、階層構造(Feature-Geometry Problem):人間言語の種固有性が階層構造にあるとすれば、統語構造と同様に音韻素性はどのような階層構造を持つのかの問題。音韻素性も相互に関連のあるものと無関係のものがあるが、妥当な階層構造を求めて約40年にわたる論争の歴史がある。
 ここでは代表的な論文を3つか4つ取り上げて、3つの論点に関わる理論的・経験的検証を参加者とともに行う。これらの論点は相互に関連しており、切り離して議論できないことがおいおいわかるだろう。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
08C1530
FAS-CA4G29L1
言語理論II
田中 伸一
A1 A2
月曜5限
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
教養学部
授業計画
以下の計画に基づき授業を進めてゆく。 第1~2週 弁別素性かエレメントか:音韻素性の性質と起源を考える(田中 2023を中心に) 第3~7週 素性階層論:基本的な考え方と論争の歴史(Clements & Hume 1995を中心に) 第8~12週 非時系列音韻論:新たな階層構造とその狙い(那須川 2025を中心に) 第13週 予備と総括
授業の方法
 上の計画に沿って扱う論文の電子版をUTASにて配布するので、あらかじめ読んでいることを前提として、最初は教員による論文紹介と全体討論にて授業を進める。慣れてきたところで、授業の2回目以降は受講者による論文紹介と全体討論に当てる。「論文紹介」とは、パラグラフごとの論点の紹介と確認を意味する。「全体討論」とは、参加者による批判的検討や問題に対する代案探究を意味する。
成績評価方法
 出席や発言など授業への積極性50%,紹介発表50%として総合的に行なう。
教科書
 下のうち、代表的なものを3つ取り上げつつ、場合によりその他も扱う。 ・田中伸一 (2023)「音韻素性の存在根拠を再考する:規則の定式化と言語進化の観点から」『日本エドワード・サピア協会研究年報』第37巻, 1–23. ・Clements, Nick & Elizabeth Hume (1995) “The Internal Organization of Speech Sounds,” in John Goldsmith (ed.) Handbook of Phonological Theory, 245–306. Oxford: Basil Blackwell. ・Hall, Tracy A. (2007) “Segmental Features,” in Paul de Lacy (ed.) The Cambridge Handbook of Phonology, 311–333. Cambridge: Cambridge University Press. ・那須川訓也 (2025)「第9章 統率音韻論とエレメント理論」橋本大樹ほか編『生成音韻論の歴史と展望:田中伸一教授還暦記念ハンドブック』,202-228.開拓社. ・那須川訓也 (2024)「音韻論における非対称構造と音声的外在化-伝統的音韻構造とPfPの音韻構造の比較-」KLS Selected Papers 6, 95–108. The Linguistic Society of Kansai. ・那須川訓也 (2022)「第3章 音声言語と手話言語における音韻特性の種類と言語機能障害」石原和・菊澤律子編『手話が「発音」できなくなる時:言語機能障害からみる話者と社会』,55–64.ひつじ書房.
参考書
 授業にて指示する。
履修上の注意
 この授業は音韻論の中級講義であり、学部「言語理論II」、大学院「言語科学基礎論II」、GSI「研究技法トレーニングII」との合併科目である。履修希望者は「基礎言語理論III:音の体系」や「言語科学基礎概論III」を履修済みであることが望ましいが、初級程度の知識があれば履修を推奨したい。
その他
 特になし。
実務経験と授業科目の関連性
 特になし。