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最終更新日:2025年4月21日
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表象文化史演習
経験の上演(2):Investigative Aestheticsの台頭
近年、Forensic Architectureというイギリスのゴールドスミス・カレッジに拠点を置く調査機関の活動を中心に、「Investigative Aesthetics(調査的感性術)」というエステティクス(美学=感性論)の新しい動向が生まれています。これは「エステティクス」を感知の作用や能力と定義した上で、そのような能力を人間はもちろん、人間以外の生物、そして建物やミサイルやさまざまなデジタル/アナログ・センサー、あるいは土壌やアスファルトなどの人工物や自然物までもが持っていることとして拡張して考え、それらの組み合わせによって国家権力が存在を否定したり、なかったことにしようとする出来事を再構築して事件として成立させるというアプローチです。この授業では、こうした動向のマニフェスト的なテクストである、昨年出版されたばかりの《Investigative Aesthetics: Conflicts and Commons in the Politics of Truth》(Verso, 2021)という本を読みながら、そこで提唱されている「調査的感性術」がどのようなものであり、どのような由来を持ち、どこに向かおうとしているのかを検討します。
また補助線として、フォレンジック・アーキテクチャー自体の活動や、そのリーダーであるEyal Weizmanが2000年代半ばに行なっていたイスラエル軍がパレスチナを侵略する際にジル・ドゥルーズなどフランスのポスト構造主義哲学を参考文献として使っていたという驚くべき調査も見ていきたいと思っています。さらには、前回の授業で扱ったプラグマティズムとのつながりを確認するという意味でも、パラダイム論を唱えたトーマス・クーンの教え子でありながら、クーンに真正面から歯向かうことでドキュメンタリー映像作家になったErrol Morrisが自らの方法論を「Investigative Realism(調査的リアリズム)」として提示した《The Ashtray》(University of Chicago Press, 2018)という面白い本を、「調査」という概念を理解するための拡張ツールとして用いることも考えています。
2021年Aセメスターの「経験の上演」を履修した人に:
「経験の上演(2)」というタイトルが示すように、具体的な内容としては、前回の「経験の上演」で行なった、「パフォーマンス」という概念を軸にしたプラグマティズムの読み直しの延長ともみなすことができ、経験論や多元宇宙論、サイバネティックスから薬物、機械学習や振る舞い予測まで、前回の授業で話題にしたトピックがたくさん回帰してきます(ただし、今回からの履修者ももちろん歓迎します)。同時に、いわゆる人新世における環境変動の問題、新しいセンサー技術と古い美学との結びつき、主に建築の分野で培われてきた方法論による証拠と痕跡概念の再検討、オブジェクト指向存在論に代表されるモノの哲学との理論的接点(というか争点)、ウィキリークスなどの情報漏洩活動に従事するハッカー的組織との絡み合い、調査の公開フォーラムとしての美術機関や芸術祭の捉え直し、そして現在進行中のウクライナ侵略戦争に見られるように、さまざまなスケールにおける国家権力による市民への暴力など、新しいトピックと接続することで理解を多方向に深めることを目的とします。
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