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最終更新日:2024年10月18日
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文化人類学特殊講義(災害の人類学)
「私が学び模索してきた人類学:フィールドワークから民族誌の作成、そしてその先の長い道のり」
人は時代と社会の子であり、文化人類学者も各々が生きる時代と社会の制約と可能性のなかで暮らし、学び、仕事をしています。そのことを私自身の経験を振り返りながら、なるべく具体的にお話しします。
フィールドワークの現場では特定民族/コミュニティの社会・文化を、当該社会の人たちに生きられている日々の暮らしのコンテクストのなかで理解しようとします。テクストだけでなく、それを意味づける広い社会・文化・宗教・政治的なコンテクストへの目配りが不可欠です。
そして参与観察と称される人類学の方法では、客観的に冷静に傍観者として観察するわけではありません。自然科学が野外で行う測定機器を用いた観測や標本資料の採集とはまったく異なります。また霊長類学のフィールドワークでは群れの近くに身を置いて近い距離からの観察をしますが、相手の発言や発話を傾聴して理解を深めたりするわけではありません。
それに対して人類学のフィールドワークでは観察するとともに、当事者や関係者からの話や説明を直接に聞くことがきわめて重要です。そのためにはラポール(相手との信頼関係)が重要であると入門書で強調されます。しかし私自身は、ラポールという外来語が今ひとつピンと来ないので今までほとんど使ったことがありません。
代わりに応答(respons-ability)という言葉を使ってきました。教会で歌われる黒人霊歌の歌唱法をイメージしています。リーダー(メインボーカル)の呼びかけに聴衆(コーラス隊)が応える(時には逆方向もある)掛け合いです。ただし黒人霊歌の場合と異なるのは、フィールドワークではコミュニティーの人たちも声をかけ呼びかけてくるのです。人類学者はそれに応えながら調査を進めます。呼びかけは単に家族の医療費や子供の学費、コミュニティー・プロジェクトなどへの協力だけでなく、儀礼その他の彼ら自身の意味付与実践の開示や説明なども含まれます。
本講義では1972年に文化人類学科に進学してから現在に至るまでの50年にわたる私の経験を紹介しながら、日本の人類学の歩みを振り返ります。それは学生への講義という以上に、私自身がこの先へラディカルに進んでゆくために現在の居場所の確認と反省作業の一助とするためでもあります。
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