4月5日13時よりオンラインで開講します。「その他」にあるZoomのURLを4月5日13時にクリックして受講して下さい。
4月5日 オリエンテーション
第1部 近代における国家・経済・帝国
担当:野原慎司
第1回:近代における国家と経済Iースコットランドの経験から (4月19日)
1707年に、スコットランドはイングランドと合邦し、独立した国家ではなくなった。近年スコットランドの独立運動が盛り上がりつつあるが、原点はこの時の合邦であった。近代における国家とは何か、そこでの経済の役割を考える。
第2回:近代における国家と経済IIー独仏の経験から (4月26日)
18世紀末にフランス革命、19世紀後半にはドイツの国家統一を経験する。それらは、国民国家の形成にとり重要な契機であった。近代における国家を考える上で、国民国家を考えることは必須である。それは経済状態と関連する。
第3回:大英帝国の経験I (5月10日)
現代世界における、諸民族の分布は、その少なからぬ部分を、大英帝国による植民地・人の移動に追っている。大英帝国の経験を振り返ることで、現代の世界経済の基礎を把握する。
第4回:大英帝国の経験II (5月17日)
大英帝国の19世紀後半以降における過程を振り返ることは、現代の世界における資本主義の展開を考える上で重要である。大英帝国という経験が、現代資本主義にどのような影響を与えているかを考える。
参考文献;授業中適宜指示する。
第2部 現代経済の二つの起源と二つの性格
担当:小野塚知二
現代の世界経済を歴史として見た場合、そこには二つの起源があり、また、現代経済は政策思想史的には容易には調和しない二つの性格を帯びています。現代経済の二つの起源と二つの性格をそれぞれ概観したうえで、両者の関係について考察し、また、それらがヨーロッパ統合史にいかに反映しているか考えてみることにしましょう。
第1回 二つの起源(1):介入的自由主義と分断されたグローバル経済 (5月24日)
現代経済は、近代の経済を特徴付けた「古典的自由主義」の社会設計(それが決して夜警国家ではなかったことは詳述します)の不可能性が判明したあとに、介入的自由主義の原理が経済・社会・生活のさまざまな面に浸透することから始まります。また、現代経済は世界システム的視点から見るなら、近代末期のグローバル経済(現在、われわれが「国際経済」として認識しているものの原型)が第一次世界大戦によって分断されたことに起源をもちます。まず、第1回では、現代の世界経済の始まり方に注目して、現代の特質を考えます。
第2回 二つの起源(2):二つの起源の統合:第一次世界大戦と1930年代 (6月7日)
介入的自由主義と分断されたグローバル経済という二つの起源はそれぞれ独立の現象ですが、それらは第一次世界大戦期以降は否応なく結び付けられた現象として展開しました。二つの起源がいかに結合され、その結果いかなる経済社会が出現したのかを概観するとともに、しかし、そこでも解決されなかった問題は何であり、それが1930年代にどのように露呈したのかに論及します。
第3回 二つの性格:保護と自由 (6月14日)
現代経済は一方では、近代から自由(自己選択自己責任による欲望充足)を継承しますが、19世紀末~20世紀初頭に相次いださまざまな発見(「貧困」、「自助の不可能性」等々)を通じて、その前提とされた「強く、たくましい」人間像を社会設計の標準的な人間像としては維持できなくなります。その結果、成立した「弱く、劣った」人間像を前提にした社会は、諸種の保護、幸福への誘導、介入・統制・矯正で特徴付けられるようになります。これら二つの性格が現代経済の中で、国内的にも国際的にも、いかに機能しているのかを考えてみましょう。
第4回 ヨーロッパ統合の経験とアジア・太平洋地域 (6月21日)
現代経済の二つの起源に最も強く制約され、また二つの性格を最も強く帯びたのは20世紀、殊に第二次世界大戦後のヨーロッパです。ヨーロッパ統合のさまざまな基盤を概観するとともに、それをBIS、国連、IMF、IBRD、ITO(GATT)、WTOなどの国際調整の取り決めや機構と比較して、ヨーロッパの経験がアジア・太平洋地域にとってもつ意味を考えてみましょう。なお、この数年、話題となっているEU離脱やEU懐疑派の動きも簡単に概観します。そこから立ち現れるのは、第一次世界大戦開戦前(第1回で詳説)に広く観察されたのと同様な「被害者意識に彩られたナショナリズム」の作用です。
[参考文献]
小野塚知二『経済史:いまを知り、未来を生きるために』有斐閣、2018年.
小野塚知二編著『第一次世界大戦開戦原因の再検討 ―国際分業と民衆心理― 』岩波書店、2014年.
小野塚知二「日本の社会政策の目的合理性と人間観 ―政策思想史の視点から― 」『社会政策』第3巻第1号、2011年6月、pp.28-40.
小野塚知二編著『自由と公共性 ―介入的自由主義とその思想的起点― 』日本経済評論社、2009年.
藤瀬浩司『資本主義世界の成立』ミネルヴァ書房、1980年.
遠藤乾編『ヨーロッパ統合史』名古屋大学出版会、2008年.
第3部 現代世界経済の課題
担当:丸川知雄
2018年に始まった米中貿易戦争と、2019年のグレタ・トゥンベリの告発によってクローズアップされた気候変動問題は、これからの世界が乗り越えていくべき大きな危機である。第3部では第2次世界大戦後に世界的規模の課題がどのように生じてきたか、そしてそれを乗り越えるために各国が協力して作ってきたガバナンスの仕組について学び、これからの危機を乗り越える方策を考える。
第1回 後発国のキャッチアップと制度間の摩擦 (6月28日)
綿織物業という比較的小さな資本で始められる産業から産業革命が始まったが、その後、中心的な産業の資本規模が次第に大きくなっていた。キャッチアップを目指す後発国は各時代における最新の産業に近道をするために、銀行による資金の集積や国家による投資、関税やその他の規制による国内産業の保護などの手段を用いた。そうした後発国の制度は、自由貿易が有利だと考える先進国との間に摩擦を生んできた。今日の米中貿易戦争も、大ざっぱに言えば、こうした制度間摩擦の歴史を再現するものだといえる。1980年代の日米貿易摩擦や戦後の東西対立と対比しつつ、今日の問題の特徴を論じる。
第2回 大収斂と多国籍企業 (7月5日)
20世紀後半に物流とコミュニケーションのコストの下落により、企業の国際的活動が活発になり、サプライチェーンが国境を越えて形成された。1980年代から今日までの世界経済の歩みはこうした事実上の統合の歴史であったといえる。中国の急速な経済発展もグローバリゼーションがもたらしたものであり、その「国家資本主義」が果たした役割は限定的だった。事実上の統合によって、世界各国の所得水準が収斂するのであれば、後発国に国家介入をやめるよう説得することが可能となる。
第3回 世界経済のガバナンスとその危機(7月12日)
第2回で述べた世界経済の事実上の統合は、世界の制度的な協調を推進するドライバーである。ここではGATT/WTOとIMFに代表される現在の世界経済の制度についての基本を学び、自由化が特に1990年代以降さらに進展したこと、EUやTPP11など地域貿易協定によってさらに自由化を推進する流れも把握する。 だが、米トランプ政権の成立以来、アメリカのTPPからの離脱やNAFTAの解消、イギリスのEU離脱、さらには安全保障貿易の広がりなど、自由化の流れに逆行する動きが増え、WTOが機能不全に陥る危機にある。
第4回 地球環境問題と再生可能エネルギー (7月19日)
世界経済を制約する問題として近年重要性を増している地球温暖化問題について、それを抑制するための国際的な制度、二酸化炭素の排出を抑えるための制度(排出権取引やCDM)、さらに地球温暖化に対抗するための鍵となる技術である再生可能エネルギーの現状について説明する。