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最終更新日:2026年10月16日

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フランス語学フランス文学演習VI

翻訳アトリエ:レーモン・クノー『文体練習』を題材に
レーモン・クノー『文体練習』(1947)は、バスの中で起きた取るに足らない口論と、その当事者を後に見かけたという、きわめて些細な出来事を、九十九通りの文体で書き分けた作品である。扱われる「出来事」は常に同一だが、語り方、語彙、修辞、ジャンルの選択が変わることで、出来事そのものの輪郭や意味合いまでもが揺れ動く。内容と表現は分離できるという素朴な考えを裏切り、言語が現実をいかに組み替えてしまうかを、遊戯的かつ批評的に示す試みと言える。

この作品は、フランス語内部での変奏、すなわち「言語内翻訳」の集積として機能する一方で、他言語への翻訳に際しては、単なる置き換えではなく「移し替え(トランスポジション)」を要求する。実際、多くの翻訳や再創作が生まれてきたが、ウンベルト・エーコの言う「ゲームの規則に忠実であること」は、しばしば取捨選択や改変を伴い、その「忠実さ」自体が問題化される。『文体練習』は、翻訳とは何かを根底から問い直す格好の実験場なのである。

今回の授業では、変奏の出発点と見なされる二編「1. 覚書(Notations)」「16. 客観的語り(Récit)」の内容を確認し、試訳を作成した後、直訳はおろか「単なる置き換え」も通用しない変奏を取り上げ、どのような日本語訳が考えられるかを探っていきたい。たとえば「10. 虹の七色」という変奏には、「紫、紺、青、緑、黄、橙、赤」が織り込まれているのだが、意外なことに、クノーは autobus violet(紫色のバス)、place jaune(黄色い席)といった具合に、色の形容詞と修飾される名詞のあいだに特別な動機を設定していない。フランス語には rire jaune(苦笑いをする)など、色彩を含んだ定型表現が存在するにもかかわらず、である。この場合、日本語訳において、原文の結びつきを解体し、「紫煙漂う昼下がり」や「黄色い声」といった形で、日本語特有の定型表現に置き換えるのは許容されるだろうか。エーコはこうした実践を「過剰翻訳」と見なしつつ、『文体練習』はそれを刺激するテクストであり、自らもそのように翻訳した、と述べている。

そのほかにも、英語・イタリア語・ラテン語・ギリシア語などとの距離感を日本文化の内部でどのように置き換えるべきか、「単純過去」「複合過去」といった動詞の時制に特化した変奏の効果を日本語文法の枠内でどのように再現しうるかなど、論点は尽きない。幸い、この作品には、二種類の日本語訳に加え、英語訳、ドイツ語訳、スペイン語訳、イタリア語訳(エーコ)、ポルトガル語訳、ロシア語訳、中国語訳、韓国語訳などが存在する(希望に応じてコピーを配布する)。必要に応じてそれらも参照しつつ、受講者自身が新たな日本語訳を提案してもらいたい。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
04263266
FLE-XX2S05S4
フランス語学フランス文学演習VI
塩塚 秀一郎
A1 A2
月曜2限
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講義使用言語
日本語/フランス語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
可
開講所属
文学部
授業計画
1.イントロダクション 2.« 1. Notations(覚書)», « 16. Récit(客観的語り)» 3.« 10. L’arc-en-ciel(虹の七色)», « 11. Logo-rallye(七題噺)» 4.« 17. Composition de mots(合成語)», « 19. Animisme(アニミズム)» 5.« 20. Anagrammes(アナグラム)», « 21. Distinguo(区別)» 6.« 22. Homéotéleutes(語尾類音)», « 23. Lettre officielle(よそよそしい手紙)» 7.« 24. Prière d’insérer(新刊案内)», « 34. Polyptotes(変形反復)» 8.« 35. Aphérèses(語頭音消失)», « 36. Apocopes(語尾音消失)» 9.« 42. Vulgaire(通俗体)», « 43. Interrogatoire(尋問)» 10. « 47. Fantomatique(怪談)», « 50. Maladroit(稚拙)» 11. « 63. Hellénismes(漢文風)», « 69. Lipogramme(リポグラム)» 12. « 77. Noms propres(固有名詞)», « 78. Loucherbem(業界用語)» 13. « 81. Macaronique(古典風)», « 83. Italianismes(関西弁風)»
授業の方法
受講者をいくつかのグループに分け、一つの変奏(断章)を一つのグループ全員に翻訳して持ち寄ってもらい、教室全体で議論する。 課題は前回の授業までに提示するので、一週間かけて自宅で訳文を作成し、UTOL を通じて提出してもらう。 訳文の眼目は「原文への忠実さ」ではなく、「ゲームの規則に忠実であること」であるから、フランス語が苦手な人でも、アイデア勝負で参加可能である。
成績評価方法
授業への参加度(出席状況、翻訳の提出、議論への参加)を勘案して評価する。
履修上の注意
原書はフランス語で書かれているが、各文体の「原理」や「仕組み」が分かれば、創作的翻訳は可能である。 この授業では、英語訳、ドイツ語訳、スペイン語訳、イタリア語訳(エーコ)、ポルトガル語訳、中国語訳を用意するので、英訳やその他の言語が理解できれば、フランス語が読めない受講者の参加も歓迎する。