芸術学の最も難しい現代的課題は、「芸術」と「美的なるもの」との関係を見直すことである。この二つの概念は、互いに交わりながら、「美的でない芸術」「芸術以外の美」の存在を許容する。「美的でない」の意味は多様だが、「知覚的でない」「実用的である」という要因を重視し、この二つに該当する芸術としてそれぞれ「コンセプチュアルアート」「ソーシャリーエンゲージドアート」を意識しつつ、主として分析哲学における洞察と方法に依拠して、芸術と非芸術の区別の規準を考える。
伝統的な「芸術の美的定義」を約30種類、「美的」と「芸術」を切り離した芸術定義論を約40種類、計70種類以上の説を紹介し、歴史的順序よりも論理関係の順に配列して、「学問の体系化」の典型例を提示する。一見して偏執的な分類図式が展開されることになるが、それによって、学問研究が芸術制作と似た物語行為に根差している事実(あるいは可能性)を確認しよう。
以上の諸課題を念頭に、芸術概念の定義がいかなる意味で重要であり、文化的価値全般の中に芸術を位置づけなおす。
第1回 「芸術の定義」という問題圏 概念を定義するとはどういうことか
第2回 「美」による芸術の定義その①・・・「美的」という【概念の意味の】拡張可能性
美的創造理論、虚構的美的性質理論など
第3回 「美」による芸術の定義その②・・・【何が】「美的」なのかについての再解釈
観念論的定義、プロセスアート説など
第4回 「美」による芸術の定義その③・・・「美的」を帰属させる【方法の】再解釈
高階戦略、ディスコミュニケーション説、進化美学、ジェンダー美学など
第5回 「美」による芸術の定義その④・・・「美的」の【顕在化を問い直す】諸説探索
意図主義的機能主義、パラフィリア説、日常性美学など
第6回 「美」を放棄した芸術定義その①・・・アートワールド論~【制度】による定義
地位付与による定義、構造的定義など
第7回 「美」を放棄した芸術定義その②・・・アートワールド論~【歴史】による定義
再帰的定義、物語的歴史主義など
第8回 「定義」を疑問視する芸術理論その①・・・本質主義から【反本質主義】へ
選言的定義、クラスター説、プロトタイプ説など
第9回 「定義」を疑問視する芸術理論その②・・・実在論から【反実在論】へ
責任転嫁理論、個別主義、錯誤理論など
第10回 「定義」を疑問視する芸術理論その③・・・認知主義から【非認知主義】へ
社会彫刻論、ランナウェイ説など
第11回 「定義」を疑問視する芸術理論その④・・・定義からメタ定義へ
脱定義論、実験美学など
第12回 美的定義への回帰?
穏健な本質主義、一般化された意図主義的機能主義など
なお、毎回、講義の中間に休憩を兼ねて、芸術作品の視聴覚資料を提示する。
ひとつのジャンルに統一して提示する予定。(「ピアノのみで演奏されたミニマリズムの現代音楽作品」を当面考えている)