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最終更新日:2024年4月22日

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西洋史学特殊講義XVII

歴史を読み替えるーージェンダーから見た西洋史
講義目標は以下の3つである。
(1)「ジェンダー視点(gender perspective)」で歴史を見ることの意義について考える。
ジェンダー視点は「発見」と「救済」の視点である。それは、歴史学研究のなかで見えなかった(見てこなかった)事象を見えるようにする試みであり、周縁化されていた存在(女性やLGBTなど)をエンパワメントする取り組みである。
(2)「ひと」の属性を決定する諸要素(性別[セックス]・身体・セクシュアリティ・生殖など)への問いから始めることの意義について考える。
「ひと→親密な集団[家族など]・共同体→地域→国家→世界」という順番で問いかけることによって、焦点をあてる問題群が異なってくる。
(3)ジェンダー視点は「西洋史」を相対化するとともに、問う側(「日本/日本社会」)を問い直す視点の一つであることを理解する。
「ジェンダー研究(gender studies)」は1970年代に欧米でフェミニズムの第2の波のなかで成立した学際的研究分野である。とくにジェンダー史は、「西洋近代市民社会」を批判的に問い直すものとして出発した。その後、深化発展するなかで、ジェンダー研究は「白人中流女性」中心性を脱却し、アジア・アフリカ女性を含む「女性の多様性」に着目するとともに「植民地主義」や「男性性」「クイア」などへの問いを含むようになった。これとともにジェンダー史研究も射程を広げつつあり、「西洋史」や西洋史を前提にする時代区分論を相対化しようとしている。同時に、ジェンダー平等停滞国である「日本/日本社会」の現状をも批判的に検証し、「アジアのなかの日本」を積極的に考えようとしている。
そのさい、21世紀に注目されはじめた3つの概念・理論枠組みが有用である。「アンコンシャス・バイアス(unconsious bias)」、「インターセクショナリティ(intersectionality)」、「ジェンダード・イノベーション(gendered innovation)」である。
「アンコンシャス・バイアス (無意識の偏見)」とは、世間の常識や本人自身に擦り込まれている価値観や思い込みをさし、これを意識化することによって個人の能力開発が進むことが明らかになっている。西洋史研究にたずさわる「わたし」や「あなた」の「アンコンシャス・バイアス」を問い直すことにより、研究の視点が広がる。
「インターセクショナリティ(交差性)」とは、性(セックス)やジェンダーがさまざまな要因(人種、性的指向、性自認、国籍、年齢、障がいなど)と交差しつつ人びとの経験や社会的差別を形作るという認識の理論的枠組みである。従来の西洋史研究における重要概念を問い直すときの理論枠組みとしても役立つ。
「ジェンダード・イノベーション(ジェンダーに基づく技術革新)」とは、科学技術やイノベーションにもジェンダーが深く関わるという指摘である。たとえば、男性観察者がオスのマウスを使って得た実験結果が性差を無視して一般化されると女性には有害な結果であることが軽視されるとか、骨粗しょう症を閉経後の女性の病気とみなして男性の骨粗しょう症患者が見過ごされるとか、シートベルトなどの安全具が男性仕様になっているため女性にはかえって危険であることなどである。「文化」や「科学」は歴史研究のなかでも周縁化されやすい。「文化」や「科学」の「男性性」(ジェンダー・バイアス(gender bias:ジェンダーに基づく偏見や差別))を問い直すことにより、新たなテーマを見いだすことができる。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
04201355
FLE-HU4J02L1
西洋史学特殊講義XVII
三成 美保
A2
集中
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講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
文学部
授業計画
(1)「ジェンダー視点で西洋史を読み替える」ということの意義 「ひと」=男性、「人権」=男権、近代歴史学=「公」的領域の歴史、身体・性(セクシュアリティ)・生殖・家族の無視・軽視、「近代」=欧米近代、「世界史」=西洋史、などを問い直す。 (2)ジェンダー研究の発展 フェミニズムの第2の波(1970年代)=「ジェンダー」の発見・近代的家父長制、女性差別撤廃条約(1979年)、女性学・フェミニズム研究・ジェンダー研究、諸概念(セクシュアル・ハラスメント、DVなど)の創出、女性史・ジェンダー史、フェミニズムの第3の波(1990年代)=クイア研究・植民地主義・多様な女性・男性性、北京会議(1995年)=ジェンダー主流化、21世紀の発展=アンコンシャス・バイアス、(人種等との)交差性、SDGs (3)「身体」の語られ方とその変化――セックス二元論の歴史性 「人格」、「性の特徴」、生殖器官、解剖学、女人禁制(「血の穢れ」) (4)つくられるジェンダー(「らしさ」)①――「母性」・近代的男女差別の始まり ルソー『エミール』、啓蒙期ドイツの「未婚の母」と子殺し、「人道主義」のジェンダー・バイアス、新たな居場所としての「家庭」、専業主婦の誕生、良妻賢母、「女学校」、「家政学」 (5)つくられるジェンダー(「らしさ」)②――「男性性(マスキュリニティ)」・「男性」の新たな序列化 男性史研究、「市民権」、「市民的名誉」、市民の決闘文化、比較 (6)セクシュアリティの対象化――西洋的性規範は多様な性規範の1つ SOGI/LGBT、キリスト教における身体嫌悪と性の忌避(しかし過剰に「性」を語る) (7)歴史のなかの「同性愛」①――前近代社会における多様性 家父長制社会(古代ギリシア・江戸期日本)における男性同性愛と異性婚の両立、聖書、キリスト教におけるソドミー罪、近世の厳罰化、日本(公家・寺社の稚児愛・武家の男色) (8)歴史のなかの「同性愛」②――近現代社会における西洋的性規範の優越 近代刑法(フランス型とドイツ型)、「同性愛(男性)」概念の成立と「異性愛」の概念化、病理化と犯罪化、「第3の性」(権利運動)、女性同性愛の周縁化、1970年代のゲイ解放運動、日本(大正期の変態性欲論) (9)生殖と家族――「リプロダクティブ・ライツ」の形成 家族(史)研究、人口変動、生殖コントロール、1960年代欧米のピル屈折、1970年代人工妊娠中絶(プライバシー権):アメリカとドイツの二つの道、出生前診断の普及と女性の「自己決定権」と障がい者差別(優生的選別)の関係、1978年生殖革命(体外受精の成功)、1990年代「リプロダクティブ・ライツ」、代理母、生殖ツーリズムの地域間格差、精子バンク (10)優生学と優生法制――「科学」とジェンダー 優生学の成立、1920年代の優生学の伝播(アジアなど)、1933年ナチス断種法、1940年国民優生法(日本)、「健康」の国家管理、戦後国際社会における国家主義的優生学の封じ込め、1948年優生保護法(日本)、バイオエシックス、自由意思による優生思想の興隆(リベラル優生学)、ヒト胚は「人間」か?(「人間の尊厳」論)、デザイナーベビー(ハーバーマスの警告)、ヨーロッパ型とアメリカ型、北欧における強制断種の国家補償 (11)親密関係における暴力の可視化――公と私の関係をどう問うか? 公私二元モデル、「法は家庭に入らず」(近代法の原則)、1970年代セクシュアル・ハラスメントやDVの概念化(アメリカにおけるセクハラ裁判)、1990年代内戦、1994年女性に対する暴力撤廃宣言、国際刑事裁判所 (12)買売春をどう見るか?――性暴力か、セックスワークか?欧米とアジアアフリカで異なる女性の利害 キリスト教社会における買売春の位置付け、1800年頃フランスにおける近代公娼制の形成、19世紀近代公娼制の普及(日本へ)、日本における買売春の変化、戦時性暴力、単純売春と強制売春、セックスワーク、人身取引(トラフィッキング) (13)「西洋」と「非西洋」の関係を問い直すーー権力関係とジェンダー 植民地支配に伴う「身体美」の西洋標準化、多様な性文化の否定と画一化、「欧米―日本―アジア諸国」という関係、女性身体の道具化 (14)21世紀への展望――ジェンダー平等・ジェンダー主流化・SDGs 日本における(日本からの)「西洋史」研究は、21世紀国際社会にどのような貢献ができるのか? (15)まとめ
授業の方法
基本概念や前提となる歴史的事象について講義し、討論(質疑)によってテーマを深める。 西洋史については、ヨーロッパ(おもにドイツ)を中心とし、日本との比較を念頭に置く。 細かな歴史的事実の確認というよりも、「歴史の捉え方」「問題発見の手がかり」「テーマ設定の発想方法」を考えることに重点を置く。
成績評価方法
平常点(授業への取り組み方20点)とレポート(80点)で評価する。
教科書
とくに指定しないが、授業では参考書①と②を利用することが多い(利用箇所は事前に印刷配布の予定)。
参考書
①三成美保・姫岡とし子・小浜正子編『歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史』大月書店、2014年、全314頁 ②三成美保・笹沼朋子・立石直子・谷田川知恵『ジェンダー法学入門(第3版)』法律文化社、2019年、全302頁 ③三成美保編『同性愛をめぐる歴史と法―尊厳としてのセクシュアリティ』明石書店、2015年、全317頁 ④服藤早苗・三成美保編『権力と身体』(ジェンダー史叢書・第1巻)明石書店、2011年、全284頁 ⑤三成美保編『教育とLGBTIをつなぐーー学校・大学の現場から考える』青弓社、2017年、310頁 ⑥三成美保編『LGBTIの雇用と労働ーー当事者の困難とその解決方法を考える』晃洋書房、2019年、本文203頁+資料14頁
履修上の注意
受講者数や受講生の希望により、テーマ等をやや変更する場合もある。
その他
とくになし。