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最終更新日:2024年4月22日

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アジア政治外交史

アジア政治外交史
 この講義では、今日「東アジア」と呼ばれる地域の政治社会の成り立ちや国際関係の曲折、そしてナショナリズムの成立を扱うことにより、今日に至るまでの各国・各地域それぞれの国家建設、近代化、対外関係をめぐる問題点への理解を促進する。そして、いわゆる「歴史認識」をめぐる問題や民族問題など、他者への認識に由来する問題がどのような背景から生じたのかを、前近代からの非常に長い政治史や社会的構造・思想史を踏まえて理解出来るようになることを目指す。
 世界を見回すと、どの文明圏・文化的世界でも異なるアイデンティティーの衝突が起こってきたが、とりわけ今日「東アジア」「北東アジア」と呼ばれる地域では歴史的に、漢字・儒学による文明を共有するほど、アイデンティティ上の対立が生み出されてきた。このことは、文明の共有が個別のアイデンティティ上の対立を和らげることにつながるという見方からすると奇異に見えるかも知れないが、この違いは、文明の構造が階層的か水平的かによるものである。そこで、階層的な文明のもとでの自他の関係がどのようなものであり、その結果生まれる歴史世界の動態の特徴はどのような物であるのかを理解する必要がある。

 一般的に、「東アジア」と呼ばれる地域においては漢字・儒学を中心とする文明の影響が広がり、「中華世界」「天下秩序」と称される秩序が展開されていたとされる。しかし、それは常に理念型通りに展開していたわけではないし、外部から流入した仏教やイスラームなど諸宗教、そして西洋近代の論理との間で様々な反応が生じてきた。それが今日の「東アジア」各国の政治史・思想史的展開にも大きな影響を与えている。
 とりわけ、古い中国の文明世界は外部からの強い圧迫を受けつつ限界に達し、様々な抵抗と模索が繰り広げられてきた。しかし近年、中国は自らの経済的成功と「社会の安定」を通じて、今こそ再び中国の文明的な力が復活し、西洋近代ではなく「中国の智慧」が全世界の秩序を整え、真正の「人類運命共同体」を構築しうると主張している。そして、改革開放以後の中国共産党政権としては異例の3期目に入った習近平政権は、かつての王朝体制を批判する向きが多かった近現代史においては相対化されてきたはずの「大一統」という表現をためらいなく復活させて強調し、かつて自らを圧迫した欧米日との全面的に対抗しながらグローバル社会を牽引しようとする姿勢を見せつつあるだけでなく、中国において外部の文明・文化になびく人々への敵意をあらわにしている。近年注目を集める新疆ウイグル自治区の問題や香港問題と、中国と外部世界との摩擦は、実は連続したものであり、このような中国の論理が全世界の政治と経済にいよいよ甚大な影響を及ぼしつつあると言える。

 かくして「東アジア」の歴史を取り巻く問題は、日本の国益およびグローバルな問題と直結している。近現代中国、様々な少数民族、日本、琉球=沖縄、韓国、北朝鮮、台湾、香港それぞれの論理を知っておかなければ、容易には消えない対立の構図を俯瞰し、的確に対応することは出来ない時代となった。このような考えに基づいて、「東アジア」の政治社会の歴史的成り立ちをめぐる学生の皆さんの理解を促進したい。

 また最近は、「東アジア」それ自体、さらに「東アジア」を取り巻くグローバルな問題の展開がいよいよ急となっており、しばしば短期的で時事的な関心が高まりがちである。しかし、そのような短期的な問題・課題の中にも必ず歴史的な連続・不連続の要因が作用している。そこでこの講義では、折に触れて最新の時事的な問題をも紹介しつつ、それらを捉えるための歴史的・思想的なポイントを解説する。学生の皆さんが、様々な問題について現在と過去の相互運動・相互対話を通じて把握できるように務めることとしたい。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
0124611
FLA-PS4714L1
アジア政治外交史
平野 聡
A1 A2
月曜4限、木曜1限
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講義使用言語
日本語
単位
4
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
法学部
授業計画
本講義では上記の問題意識に照らし、大略以下の内容を扱う予定である。  *「中国」「中華」概念をめぐる諸問題……比較の視座からみた東アジア華夷思想 華夷思想・儒学思想・漢字に基づく政治の基本的発想と展開・矛盾はどのようなものであったのかを扱う。 *「周辺」への視点……華夷思想と朝鮮・日本・琉球・ベトナムの自意識形成 漢字・中国文明が流入した日本・朝鮮・越南はなぜ「中国の一部分」になっていないのか。また、中国文明世界と日本のはざまに立つ琉球は、どのような自意識を保ったのか。各国・地域それぞれの論理を扱う。 *多文化帝国・清の体制とその変容……満洲人皇帝による支配の歴史的意味 漢語&中国文明圏ではないモンゴル・チベット・新疆のトルコ系ムスリムは、なぜ「中国の一部分」とされているのか。「漢字文化圏」諸国との比較も交えつつ、近代中国の領域は中国文明の伝播力ではなく、純粋に権力政治の産物であることを解説する。 *西洋・日本の脅威と19世紀清国の他者認識……帝国主義・西洋近代への「抵抗」か?「共鳴」か? *帝国主義の時代における近代東アジア地域と「国民国家・中国」の創出  ……清末民初エリートにおける「忘れ得ぬ他者」明治日本の影響を中心に *双子の兄弟・中国国民党と中国共産党……改良主義の挫折と「開明専制」によるエリート支配の絶対化 *中国共産党における共産主義思想とナショナリズムの葛藤  ……「国家を廃絶する」マルクス・レーニン主義の国家主義的変質と深刻な後遺症  ……唯物論と新儒学が融合した「中国の特色ある社会主義」「中華民族の偉大な復興」へ 旧い文明が行き詰まり、西洋や日本に圧迫される中から生成された中国近現代史は「抵抗・自強の歴史」であったかも知れない。しかしその過程で、西洋や日本から近代思想を吸収し、中国なりに解釈を加えたことで、中国自身も「強者」を目指すがゆえの権威主義・全体主義体制に傾き、様々な政治的混乱や課題が蓄積されたことを説明する。 *中国ナショナリズムと少数民族問題の関係……弱肉強食・富国強兵の時代における近代主義と伝統文化の摩擦。 「中華民族」の国家建設において、漢人ではないマイノリティの位置づけはどう変わり、一党独裁的な政治体制のもとでどのような困難・混乱が展開したのか。また改革開放・経済発展の時代における多様性の拡大と、国力の増大によって自信を深めるナショナリズムとのあいだにどのような摩擦が起こり、拡大したのか。主にチベット・新疆トルコ系ムスリム・モンゴルを中心に扱う。 *朝鮮半島の近現代と「文明」の模索 中国・西洋・日本からの圧力や思想的影響の中で、近代の大韓帝国・大韓民国・北朝鮮はどのように自国の立ち位置を見定めて国家建設と発展を進め、どのように混迷を深めていったのかを概観する。 *台湾の近現代  ……「棄民の島」「南進の拠点」「大陸奪還の基地」から「海洋文明の中心」へ *香港の近現代  ……中国の混乱から逃れて来た人々の自由な港は、如何にして「香港こそ本土」という意識を獲得したのか。 「中国の周辺」とされる国・地域の問題は、しばしば日本という存在を強く意識せざるを得ない近現代史の中で、「中国」という存在との距離をどうとるのか、あるいは中国がこれらの国・地域をどう包摂するのか、という複雑な力学の結果生じたものである。そこで、それぞれの地域の事情の独自性に配慮しつつ、総合的な理解を得られるよう解説する。
授業の方法
一般的な講義である。 講義は対面で行う。また、就職活動などで講義に出席出来ない学生のために、ITC-LMSに録音をアップロードする予定である。 レジュメ・資料・パワーポイントを事前にITC-LMS経由で配付するので、各自ダウンロードされたい。 終了後の質疑応答は大いに歓迎する。奮って問題関心をぶつけられたい。 教室における直接の質問でも良いし、ITC-LMS経由で質問しても良い (24時間受け付け)。 次回の冒頭で解説を加えるか、配付物として回答することで、他の出席者ともシェアできるようにしたい。 感染流行拡大などの理由による大学本部・学部からの指示で、完全オンラインにより実施する場合は、パワーポイントと音声をアップロードするオンデマンド形式とする。 開講の要領などは適宜、ITC-LMS経由で連絡するので、注意されたい。
成績評価方法
通常の試験と、毎回の出欠を兼ねた小テスト(○×問題)によって評価する。 感染状況によっては、試験ではなくレポートで評価する可能性もある。 なお、前年度(2023年度)は、定期試験と出欠を兼ねた小テストの成績を掛け合わせて評価した。
教科書
特に指定しない。
参考書
担当者が一般向けに刊行した以下の書籍を参考にして頂いても良い (本書に沿って講義することを意味しない)。  『大清帝国と中華の混迷(興亡の歴史17)』講談社、2007年。  『「反日」中国の文明史』ちくま新書、2014年。 近代国際関係をめぐる一般論として、主権国家・国際法に関する素養は最低限必要である。 法学部の国際法講義に出席したことのない他学部生は、例えば下記のテキストに目を通しておくと良い。  大沼保昭『国際法』ちくま新書、2018年。 また例えば、以下のような本を各自の関心に沿って事前に目を通しておくと、講義の理解も促進されるであろう。 *儒学を体系的にどのようにみれば理解すれば良いか?  小島毅『儒教の歴史(宗教の世界史2)』山川出版社、2017年。 *伝統的な外交秩序が近代外交によってどう変質し、20世紀を通じた外交関係につながるのか?  川島真・服部龍二『東アジア国際政治史』名古屋大学出版会、2007年。 *ナショナリズムとはそもそもどのような原理なのか?  ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』リブロポート、1987年。 *日本と東アジアの伝統と近代の関係をどう考えれば良いのか?  渡辺浩『日本政治思想史[十七〜十九世紀]』東京大学出版会、2010年。 *朝鮮・韓国の自己認識と周辺観はどのようなものか?  小倉紀蔵『朝鮮思想全史』ちくま新書、2017年。 *中国ナショナリズムにおける他者への態度をどう考えれば良いのか?  坂元ひろ子『中国民族主義の神話 人種・身体・ジェンダー』岩波書店、2004年。  吉澤誠一郎『愛国主義の創成 ナショナリズムから近代中国をみる』岩波書店、2003年。 *現代中国において伝統と近代の関係はどのように考えられているのか?  蘇暁康・王魯湘『河殤 中華文明の悲壮な衰退と困難な再建』弘文堂、1989年。 *中国近代の歴史意識をうけて現実の中国政治はどう組み立てられているのか?  毛里和子『現代中国政治』名古屋大学出版会、2004年。  高原明生・丸川知雄・伊藤亜聖編『社会人のための現代中国講義』東京大学出版会、2014年。  東大社会科学研究所現代中国研究拠点編『現代中国ゼミナール・東大駒場連続講義』東京大学出版会、2020年。
履修上の注意
対象とする地域をめぐる緊張がここ数十年来でかつてなく高まる中、必要に応じて時事的な解説も行うので、さらに自分自身で主体的に現在進行形の問題を歴史的してから考える習慣をつけると良い。 完全オンライン形式での開講となる場合、画面の向こうの学生諸君になるべく寄り添いたいと考えているので、なおさら遠慮せずに質問・意見等お送り頂きたい。