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最終更新日:2025年4月21日
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労働法演習(外国語科目)
EUにおける「ソーシャル・ダンピング」
EUにおける「ソーシャル・ダンピング」の問題に関する英語文献(判例、立法、学説等)を講読します。労働法のほか、国際私法(抵触法)とも密接に関わる問題ですが、予備知識は問いません。
労働条件水準の低いA国の労働者を低待遇で雇う事業者Yが、労働条件水準の高いB国の競争に参入した(例えば、B国における建築工事を受注した)とします。B国の他の事業者は、競争上、不利な立場に置かれ、ゆくゆくはB国の労働者の労働条件が低下するかもしれません。EUでは、このような状況を念頭に、事業者Yの行為を「ソーシャル・ダンピング」と呼び、労働法政策における重要課題の1つと位置づけてきました。
他方、Yの行為は立派な経済活動であり、加盟国間の人・サービスの自由移動を促進するEUの基本理念に合致する、との見方も成り立ちます。この見方からは、B国の高水準の労働条件の遵守をYに義務付けることは、Yのサービス提供の自由(経済的自由)の制約となり得ます。EUでは、2007〜2008年に欧州司法裁判所(ECJ)が下した4判決が、経済的自由を労働者保護よりも優先させる判断を示したものとして、激しい議論を呼び、その後の労働法政策にも影響を与えました。(これら4判決は、うち1つの事件の当事会社名をとって、「ラヴァル・カルテット」と呼ばれています。各事件の概要は、参考文献欄の石田書評で紹介されています。)
では、「ソーシャル・ダンピング」として問題視される行為と、適法な経済的自由の行使として許容される行為とを、どう区別すべきでしょうか。A国の事業者Yや労働者の利益、B国の他の事業者や労働者の利益を、どう調整すべきでしょうか。
以上の問題意識を背景に、本演習では、ラヴァル・カルテットと呼ばれる4判決とその後の現在までの動向(立法、判例、学説等)の検討を通じて、「ソーシャル・ダンピング」という観点の有用性と限界、対立する諸利益の調整のあり方、労働者保護と競争との関係等を考察することを試みます。
本演習の直接の題材はEUにおける動向ですが、この問題の射程は、EUに限られません。例えば、ニューヨーク市内のレストランのレジ係を、フィリピンで在宅勤務をする労働者が遠隔で担当する事例を、どう評価するか、ということも、本演習と関係します。同種の利益対立は、日本と外国の間、さらには日本国内においても、想定されます。本演習が、労働者保護と呼ばれるものを、競争(の制限)の観点から捉え直すきっかけとなれば幸いです。
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