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最終更新日:2024年4月1日

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社会と健康I

社会と健康I Society and Health I
健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health: SDH)へアプローチする公衆衛生活動が世界的な潮流となりつつある。本コースではSDHにアプローチする公衆衛生対策・健康格差対策を実践していくための基礎となる理論とエビデンスについて学ぶ。社会疫学の基本的な考え方についてのレクチャーの後、関連諸分野の最前線で研究を行う講師がオムニバス形式で講義を行う。SDHに関連する実証研究を進めるために必要な因果推論技法の基礎も扱う。多様なバックグラウンドを持つ学生の参加を期待する。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
5130240
GPP-MP6Z30L1
社会と健康I
近藤 尚己
A1
木曜1限、木曜2限
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講義使用言語
日本語、英語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
不可
開講所属
公共政策学教育部
授業計画
スケジュール  1) 社会疫学概論(近藤)10/1 1限 2) 社会と健康をつなぐ疾病論の歴史的考察(橋本)10/1 2限 3) 社会経済状況(近藤)10/8 1限 【レポート課題あり】 4) マクロな社会環境:景気動向・所得格差(近藤)10/8 2限 【レポート課題あり】 5) 社会関係(近藤)10/15 1限 6) ソーシャル・キャピタル(近藤)10/15 2限 【レポート課題あり】 7) 職業性ストレス・差別(川上) 10/29 1限 8) 健康の平等と倫理(児玉)10/29 2限 9) 胎児期からの社会環境:ライフコース疫学(藤原)11/5 1限 10) ジェンダーの健康影響(本庄)11/5 2限 11) 社会疫学の因果推論技法(近藤)11/12 1限 【レポート課題あり】 12) 健康格差の制御方法 (近藤)11/12 2限 各回の内容は後述。講師の都合により日時変更の可能性あり。
授業の方法
事前配布資料・講義とクラスディスカッション・レポート課題からなる。各講義に関連する指定テキストの該当章、および事前配付資料はその概要を把握していることを前提として講義を進める(初日の2回分の講義以外)。
成績評価方法
出席および授業中のディスカッション 40% レポート 60% クラス内でのディスカッションは授業の大切な要素である。出席および授業中の発言回数やその内容を評価対象とする。 レポートについて * A4一枚程度とし、最大2枚まで。 * 提出先:医学部3号館3階 S310:近藤研究室 あるいはメールで後述の問い合わせ窓口まで * 締切:各講義日の1週間後の正午 * 課題名・氏名・学籍番号・提出日を明記すること * 事実関係やデータ、フレーズ等引用した場合、必ず引用データの出所を示すこと。引用下資料のリストは最後に記載すること。インターネットからの長文のコピー&ペーストは禁止(図表やデータについては、引用元を明記した上で可)。 * 根拠と証拠を伴わない主張をしたものは減点。ユニークなアイデアや意見は加点。
教科書
川上憲人・橋本英樹・近藤尚己(編著)「社会と健康: 健康格差解消に向けた統合科学的アプローチ」東大出版会
参考書
1. 近藤尚己(著)「健康格差対策の進め方:効果をもたらす5つの視点」医学書院  健康格差対策の基礎から実践まで、5つの視点からまとめたテキスト。 2. Berkman, Kawachi, Glymour. Social epidemiology 2nd edition: 邦訳:社会疫学(上・下)    社会疫学についてさらに包括的に学びたい人へ向けた、発展的なテキスト。
履修上の注意
講義内容については各講師に直接問い合わせること。
その他
「社会と健康II」では、本コースを基礎として、健康の社会的決定要因に関する知見をどのようにパブリック・ヘルスへ応用するか、健康格差の課題へどう対応するかについて実践的に学ぶ。 講義内容 1)社会疫学概論(近藤) テキスト:序章、13章 概要:コースの全体像を紹介する。また、社会疫学の主な概念について解説する。健康を決定する社会的要因の構造や様々な政策との関連について概観する。 2)社会と健康をつなぐ疾病論の歴史的考察(橋本) テキスト:序章、第1章 概要:疾病が発生するメカニズムは、歴史的に見た場合、医学的知識によってのみ規定されるものではなく、社会との接点のなかで、疾病の意味づけとともに進化してきた経緯がある。こうした疾病論の歴史的変遷を振り返ることで、生活習慣やストレスなどの「概念」がどのような社会的文脈で問題と認識されるにいたったのか、秘められた問題意識(hidden agenda)に注目することで、健康の社会格差を論じる際の「前提」について理解を深める。 3)社会経済状況(学歴・所得・社会的排除)(近藤) テキスト:第6章(2、3、8章にもざっと目を通しておくとよい) 概要:社会経済状況は最も良く知られた健康の社会的決定要因の一つである。一言で社会経済状況といっても、何をもって測定するかによって解釈は大きく異なる。 4)マクロな社会環境:景気動向・所得格差(近藤) テキスト6、7、9章 概要:景気動向や所得格差、そして都市環境など、社会システムと直結するマクロな事象や環境は、「健康な社会のあり方」を考える上で重要なテーマである。マクロな社会環境により私たちの健康がどのような影響を受けるだろうか。またそのメカニズムは何だろうか。 5)社会関係(近藤) テキスト10、11章 概要:霊長類の多くは社会的な動物であり、孤立した個体の生存確率は下がる。ヒトも例外ではない。人間同士の社会的なつながり(=社会的ネットワーク)や、ネットワークを介して授受される助け合い(社会サポート)が人の健康に影響する程度やメカニズムに関する研究が1970-80年代に進んだ。近年では、人間関係の時空間的ダイナミズムやそのネットワーク構造の中での健康や健康資源の移動をモデリングすることで社会構造と健康との関係を明らかにする「ネットワーク分析」や、ゲーム理論や行動経済学、心理学や脳科学の分野で、実験による、助け合い行動における本能と学習の役割、助け合い行動と生体マーカーや脳活動との関連に関する研究の知見が急増している。政策面では、近年、膨張する社会保障費対策に関する議論と相まって、自助・互助・共助・公助など、「助け合い」の新しい“形”が提案されているが、これは「住民への丸投げではないか」といった大きな倫理的議論の的でもある。講義はまず90年以前までの社会的ネットワーク・社会サポート研究の基礎的事項を押さえた後、政策応用に向けた課題点について議論する。 6)ソーシャル・キャピタル(近藤) テキスト10、11章 概要:社会関係と健康との関係について、前講義で扱ったような構造的・機能的側面に加えて、近年その資源的な側面に注目が集まっている。つまり、社会関係を通じて得られる資源、あるいは人や地域とのつながりそのものを資源としてとらえる考え方であり、これを「ソーシャル・キャピタル」という。身近な実例を用いて、公衆衛生活動の実践においてソーシャル・キャピタルの概念を用いることの可能性や注意点について議論する。 7)職業性ストレス・差別(川上) テキスト:第2、6章 概要:職業階層や職種が健康に及ぼす影響について、職業性ストレスを中心に解説する。差別とは、正当な理由によらず偏見や先入観に基づいて特定の人物や集団に対して不利益・不平等な扱いをすることである。性別、年齢、人種、障害等を理由にした差別および社会的排除は健康の重要な社会的決定要因とされている。講義では事前配付資料を元に、この他の研究成果も紹介しながら差別の健康影響に関する科学的根拠の現状を整理する。また社会的包摂を含めた差別による健康格差の解決方法について議論する。 8)ジェンダーの健康影響(本庄) テキスト:第5章 概要:性に関する一般的な通念の生物学的な性としての男女に対し、ジェンダーは人間が自分たちの手で形成し社会的に決定された女性および男性のありよう(役割や責任等)を意味する。社会的要因の健康影響を考えるとき、ジェンダー的視点を組み込むことはそのメカニズムを考える上で重要な理論的枠組みとなる。本講義では先行する実証研究を紹介しながら、ジェンダーの概念や理論的枠組について考察する。また、日本で顕著にみられる社会的健康格差の性差についても考えてみたい。 事前配布資料:  本庄かおり 健康の性差-ジェンダーの健康影響 (2015) 家計経済研;10745-53. 9)胎児期からの社会環境:ライフコース疫学(藤原) テキスト:第4章 概要:胎児期および小児期の環境の長期的健康影響を検討することをライフコースアプローチという。この講義では、その中心的な考え方であるバーカー仮説について概説し、胎児期の環境が成人期における健康にどの程度影響を与えるのかについて、これまでの研究をまとめつつのメカニズムについて考える。さらに、胎児期・小児期における社会格差がどのように子どもの健康に影響しているのか、虐待や養育環境のパスウェイを中心に最新の知見を紹介する。 10)健康の平等と倫理(児玉聡) テキスト:第12章 概要:健康の社会的決定要因に関する実証的な知見が蓄積し、「健康格差の縮小」が政策として謳われるまでになった。人々が健康になることは望ましいことであるが、どのような手段で、またどの程度、健康格差を縮小することが政策として求められるのだろうか。これはいわゆる正義論の問題である。本講義ではロールズの正義論とこの問題に関するその適用を中心について詳しく説明し、理解を深める。 11)社会疫学の因果推論技法(近藤) テキスト:該当なし 概要:疫学、特に観察疫学は、データの収集から分析に至るまでの全ての過程において、「いかにバイアスを減らすか」が因果推論上の最重要課題となる。本稿では、社会疫学研究で汎用される因果推論技法の基本的な考え方について学ぶことで、健康の社会的決定要因に関するエビデンスがどのように作られているのか、その特徴や注意点について理解する。マルチレベル分析・反事実モデル・有向非巡回グラフを活用した適切な調整変数選択法・傾向スコアマッチング・逆確率重み付け法・自然実験における差の差推定量・操作変数法について概説する。 12)健康格差の制御方法(近藤) テキスト:13章 概要:健康格差を世界・国・地域というそれぞれのレベルでコントロール方法について、その概念を紹介する。ポピュレーションアプローチの可能性と限界、格差を見すえた新しいポピュレーションアプローチの概念や昨今の行動科学の応用、公衆衛生活動のためのマーケティング手法やsocial prescribingといった地域レベルの取り組み等について、事例を紹介しつつ解説する。