<スケジュール>
1・2) 健康格差対策の基本概念と国際的な動向 11/29 3・4限 【レポート課題あり】
3・4) 連携とガバナンス/行動科学の応用 12/6 3・4限
5) 健康格差対策へのデータ活用 12/13 3限
6) 都市環境と健康・犯罪(高木)+ 都市環境と健康・犯罪(高木)+ 行動経済学を活用したナッジの社会実装とアプリの効果評価(鎌田)12/13 4限
7) ヘルスコミュニケーションによる健康格差対策(石川)12/20 3限
8) 健康格差対策にむけた合意形成手段 12/20 4限
9・10) 課題発表準備 12/24(火)(曜日が違うので注意)
11・12) 課題発表12/27 3限・4限 【レポート課題あり】
13・14) 特別講義・健康影響評価(HIA)演習* (藤野) 1/17 3・4限
*1月17日の特別講義は演習形式です。聴講可能ですので、希望者に呼びかけてください
<講義内容>
1・2) 健康格差対策の国際動向と基本概念
概要:社会環境を改善することにより社会全体の健康を達成しようとする動きが活発になっている。WHO世界保健機関の声明に続き、日本でも健康日本21(第2次)の基本姿勢に「健康格差の縮小」が加わった。具体的にどう対策するとよいのかについて、事例を踏まえつつ、理論的な枠組みを学ぶ。「社会と健康Iの内容を概観した後、疾病予防におけるハイリスク・アプローチとポピュレーション・アプローチそれぞれが健康格差の観点でどう作用するかについて議論する。一般論として、健康格差対策にはポピュレーション・アプローチが推奨されるが、手段によっては健康格差を拡大しかねない。講義の後、コースの最後に予定している課題発表会のグループ分けを行う。
3・4) 多部署・官民連携とガバナンス/行動科学の応用
社会環境の改善は、保健セクターだけでは実施できない。都市計画や福祉、教育など、多様な部署との連携、および民間企業や住民組織との協力が不可欠である。しかし縦割りに業務が分類されている多くの行政機関の枠組みでは、これが困難である。本講義では、多部署連携によりいわゆる「地域づくり」型の保健政策を進めている自治体の事例を紹介しつつ、どのようにして社会環境を改善できるかについて検討する。
また、健康リスクを減らすには、食事や運動など、日々の生活の中での選択をより健康的なものにしてもらう必要がある。しかし人間は常に経済合理的な選択をするわけではない。たとえばストレス状況下におかれた個人はより衝動的な選択をしやすいことが明らかになってきている。一方、これまでの公衆衛生対策の多くは、個人の合理的な選択を前提としてきたため、健康という価値を「買ってもらう」ことに成功してこなかった。ビジネス・マーケティングの世界では、客の購買意欲を刺激したり、購入行動への依存的な習慣化を促す様々な方法が経験として蓄積され、一部理論化も進んでいる。諸学の知見やビジネスの経験を応用して、我々が日々、不要なものを「思わず買ってしまう」ように、「思わず健康行動をとってしまう」ような新しいヘルスプロモーションができないだろうか。その効果はどれほどだろうか。倫理的な課題はないだろうか。事例を紹介しつつ、健康格差対策への応用の可能性ついて議論する。
5) 健康格差対策へのデータ活用
概要:健康格差の評価指標やモニタリングの方法と評価について解説した後、実際のデータを用いて「地域診断」を行い、課題や対象地域の優先順位づけや連携先組織選定についての演習をする。
6) 都市環境と健康・犯罪(高木)+ 行動経済学を活用したナッジの社会実装とアプリの効果評価(鎌田)1/18 4限
概要:犯罪学、社会疫学、環境心理学などの分野においては、都市環境が人々の健康や安全に与える影響について多くの研究が蓄積されてきた。たとえば、「地域の人間関係が豊かだと住民の健康が良くなる」という言説は、もはや“常識”として受け入れられつつある。しかし、「メカニズムは何か?」「そもそも人々にとっての“地域”とは何か?」「これらの研究から導き出される適切な介入方法とは何か?」といった問いも常に提起され続けてきた。本講義では、人々の健康・安全に影響を与える都市の地域要因に関するこれらの問いについて、犯罪学、疫学、心理学、社会学などの多様な観点から議論する(高木)。後半は、アプリを使った成功事例の紹介を通して、行動経済学やソーシャル・マーケティングを応用した包括的な地域の参加型介入研究の可能性と課題、健康格差対策への応用可能性について検討する(鎌田)。
7)ヘルスコミュニケーションによる健康格差対策(石川)
概要:マクロ・メゾ・ミクロレベルで行動変容を起こす場合、それぞれどのようにアプローチしていけばよいのだろうか?本講義では、国内外のさまざまな事例をもとに、1)マクロレベルの行動変容とヘルスコミュニケーション、2)メゾレベルのソーシャルネットワークを活用した介入、3)ミクロレベルでの行動科学の歴史と限界、その後の転回、4)そもそも人間行動を理解するとはどういうことか、について学ぶ。
8)健康格差対策に向けた合意形成手段
概要:地域や社会全を対象とした健康づくりの介入をする場合、練り後する集団の健康に寄与する一方で一部の集団の不健康や不利益を生む場合がある。また、健康以外の事項へも良くも悪くも影響を与える可能性がある。こういった可能性が、ステークホルダー間の軋轢を生むこともよく起きる。度のように、安全で効果的で公正な社会環境整備が他の介入を行えばよいだろうか。近年knowledge translation, co-design approach, health impact assessment, community-based participatory researchなど、介入の計画段階からステークホルダーを広く巻き込みながら実施していくアプローチが注目されている。健康格差是正のための活動における合意形成手段としての観点からも重要な示唆がある。
9・10) 課題発表準備
各自次週の課題発表の準備をグループで行う
11・12) 課題発表 (下記説明を参照のこと)
13・14) 健康影響評価(HIA)演習 (藤野)
概要:「健康格差対策にむけた合意形成手段」の講義で解説したHIAを、事例を使って実際にグループで行う。HIAの第一人者藤野善久教授による特別演習セッション。この回だけの聴講参加を可能とする。希望者に呼びかけてください。
<課題発表の進め方>
1. 初日にグループを複数作ります。
2. 課題発表は、グループで特定のテーマで調べたことを発表するレビュー形式と、グループ内で2チームに分かれて行うディベート形式のいずれかで行ってください。
3. 発表は各班20分、フロアディスカッション30分)、講評5分とします。
4. 3グループ以上の発表がある場合、参加者による投票のうえ、優秀発表(1,2演題)を表彰します。
5. 各グループには近藤あるいはTAがアドバイザーとしてつきます。事前準備の際に適宜相談をしてください。
6. 配布資料は発表前日正午までに近藤研究室(kondolab@m.u-tokyo.ac.jp)までメール添付のうえ送信あるいは印刷物を持参すれば、人数分印刷して当日手渡します。それ以降に作成した場合は、人数分用意して当日配布してください。
7. レポート提出について:自身が担当した発表課題をまとめて個人単位で提出すること。以下のセクションを設けること。引用文献を適切に用いること。A4用紙3ページ以上。本文のフォントは10.5-12ポイント。図表を適宜用いること。
1.はじめに(テーマの背景、先行研究や関連理論の概略、レポートの目的)
2.方法(検索法等、検討事例の進め方、事例の評価法についてなど)
3.発表内容(コースでの発表内容)
4.コースでのディスカッション内容
5.考察と結論:講義でのディスカッション内容を踏まえ、健康格差対策の視点における理論を踏まえつつ重要ポイントについて整理する。公衆衛生的提言も含めるとよりよい)
課題発表レポート提出期限:2018年1月7日(火)午後5時
<課題発表のテーマ例(キーワード)>
オリジナルのテーマについては近藤に相談してください。
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