大学院
HOME 大学院 グローバルセキュリティと宗教
過去(2021年度)の授業の情報です
学内のオンライン授業の情報漏洩防止のため,URLやアカウント、教室の記載は削除しております。
最終更新日:2024年4月22日

授業計画や教室は変更となる可能性があるため、必ずUTASで最新の情報を確認して下さい。
UTASにアクセスできない方は、担当教員または部局教務へお問い合わせ下さい。

グローバルセキュリティと宗教

旧ソ連と中東の関わりを中心として、国際政治のダイナミクスを理解することが本講義の大目的です。そこで本講義には、いくつかの視角を設定します。
 その第一は、旧ソ連と中東というそれぞれの地域におけるリージョナルな文脈です。前者についてはソ連崩壊がもたらした余波やその後の旧ソ連諸国間の関係性、ロシアの独特な地位、後者においてはイスラーム思想が政治や社会に及ぼす影響、イスラエルとパレスチナ問題、アラブ世界とイランとの関係などが主な議論の対象となるでしょう。
 第二に、以上で見た二つの世界が相互にどのように関連しているかという、インターリージョナルな視角を導入します。従来、両地域の関係性はあまり注目を集めてきませんでしたが、ロシアは近年、中東への関与を拡大しており、2015年にはシリアへの直接軍事介入を開始しました。一方、これと並行してトルコは旧オスマン帝国圏内での影響力拡大を目指した積極外交を展開し、やはりシリア等での軍事介入を行っています。
 興味深いのは、ロシアが考える勢力圏(ロシア帝国〜ソ連が支配してきた地域)と旧オスマン帝国の勢力圏は一部で重なり合っているということです。大陸のプレート同士がぶつかる場所で激しい地殻変動が起きるように、ロシアとトルコの勢力圏はその断層面でいくつもの紛争や対立を引き起こしています。本講義ではこの点を中心として、旧ソ連と中東との相互連間について考えていく予定です。
 最後に、グローバルな視点から旧ソ連と中東との関わり合いを見ていきます。米国や中国といったグローバル大国との関わり、アジアやアフリカといった隣接地域との関わり、気候変動や感染症等のグローバル課題との関わりといった関係性を通して、地球大の視野で考えた場合の旧ソ連=中東地域の位置付けについて検討していくのがここでの目的です。
MIMA Search
時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
3788-084
GEN-AI6m07L1
グローバルセキュリティと宗教
池内 恵
S1
水曜3限、水曜4限
マイリストに追加
マイリストから削除
講義使用言語
日本語
単位
2
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
工学系研究科
授業計画
 講義は毎回、3限を池内恵教授、4限を小泉悠特任助教が担当します。  最終回(6月2日)はレポート形式の試験に充てて休講とします。各回の講義項目は次のとおりです。 第1回(2021/4/7 3-4限) ・「アラブの春」から10年:中東はどこへ向かうのか(担当教員:池内恵)  2011年の「アラブの春」によって流動化した、中東の各国の体制基盤や地域国際政治、そして中東をめぐるグローバルな国際政治は、10年を経て、どのような地域秩序をもたらしたのでしょうか。それ以前の画期である2001年の9・11事件と対テロ戦争の勃発、1991年の湾岸戦争も踏まえ、長期的な歴史の中で、2020年代の中東秩序を議論します。 ・ロシアはどこへ向かうのか(担当教員:小泉悠)  ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)はちょうど30年前の1991年に崩壊し、地球上の陸地面積の約6分の1を占めていた巨大な国家は15の独立国家に分裂しました。その中でもソ連の継承国家と位置付けられ、旧ソ連でも最大の面積・人口・経済力・軍事力等を誇るのがロシアであり、第1回は同国を中心にそのあらましを詳しく見ていきます。  ソ連崩壊後、ロシアは社会と経済の深刻な混乱に見舞われ、国際的な地位も低下しましたが、2000年代以降、ロシアは豊富な天然資源を武器に再び台頭してきました。同時にプーチン政権下のロシアでは民主活動家やメディアへの弾圧、インターネット空間の統制など権威主義化が進み、2020年にはプーチン大統領が2036年まで権力に留まることを可能とする憲法改正が行われました。こうした動きを紹介しながら、ロシアの現在と将来について考えていくのが第1回の目的です。 第2回(2021/4/14 3-4限) ・中東諸国の「国家性」(担当教員:池内恵)  第2回では中東地域の国家の多様性と偏差を論じます。中東には、イラン、トルコのような前近代の帝国の歴史・遺産を背景とした大国、イスラエルという欧米の先進的な科学技術や国家機構を中東の地に持ち込んだ強国、サウジアラビア、UAE、カタールといった豊富な石油資源を有する資源大国、また近代化・国民国家形成の過程でアラブ世界を主導した分厚い中間層を抱えた人口・軍事大国のエジプトなどの地域大国・強国が併存すると共に、シリア、リビア、イエメン、レバノン、イラクなど、破綻国家あるいは中央政府が領域を隅々まで十分に統治できていない国が生じていると共に、「統治されない空間」に非国家主体が台頭する傾向が、特に「アラブの春」以後の混乱の中で明確になっています。中東の近代国家が持つまちまちな「国家性」を比較考察することで、中東地域の持つ特徴一つの側面を明らかにしていきます。 ・旧ソ連諸国の多様な横顔(担当教員:小泉悠)  第2回では、ロシア以外の旧ソ連諸国について扱います。ソ連は歴史上稀に見る巨大国家であったために、崩壊後に生まれた独立国家のありようも多彩です。人種、宗教、文化などのアイデンティも様々なら、豊かな国と貧しい国、民主化の進んだ国と権威主義的傾向の強い国、ロシアとの関係が緊密な国とそこから距離を置こうとする国など、その実情は一筋縄ではいきません。特にソ連崩壊から30年を経た現在では、「旧ソ連」という括りは次第に意味を失いつつあるといってよいでしょう。と同時に、ソ連を構成していたという過去は、各国の実情に大小様々な影響を及ぼし続けていることも事実です。第2回ではこうした変化と多様性の双方に焦点を当てて、ソ連崩壊後の各国について見ていきます。   第3回(2021/4/21 3-4限) ・中東の地理と戦略論・地政学(担当教員:池内恵)  第3回では、中東という地域概念の形成過程と構造、その歴史的変容を取り上げます。中東という概念は、自然地理に基づくものではなく、国際政治の力学や国際社会の共通認識の形成と発展の中で生み出されてきました。中東の地理範囲は政治状況によって可変的であり、過去に伸縮してきた歴史を持ち、今後も伸縮する可能性が多いにあります。中東の地理的概念を規定する要因を歴史的に遡って把握し、今後の中東の領域の拡大・縮小の方向性、重心の変化を検討しながら、中東をめぐって国際社会で展開される戦略論・地政学論を紐解いていきます。 ・旧ソ連空間とロシアの「勢力圏」思想(担当教員:小泉悠)  以上2回の講義を経た上で、第3回では旧ソ連をひとつの空間として見た場合のダイナミクスに着目します。ソ連の盟主であったロシアは旧ソ連を自国の「勢力圏」と見做し、その内部においては独特の秩序が適用されるべきであるとします。特にロシアが神経を尖らせているのは、旧ソ連地域においても自国が政治・経済・軍事等の各領域でリーダーシップを維持すること、そして米国や中国といった域外大国の影響力を限定することにあります。2014年に世界を驚かせたウクライナへの軍事介入は、こうした考え方の延長線上にあるものでした。  しかし、ロシア以外の14の国家は、今や独自の思惑の下に独立して振る舞うアクター(行為主体)になっています。引き続き盟主として振る舞おうとするロシアと、その中で独立性を保持しようとする各国の関係性を第3回では詳しく検討していきます。 第4回(2021/4/28 3-4限) ・イランと「シーア派の孤」(担当教員:池内恵)  第4回・第5回では、中東の主要な地域大国であるイランとトルコを取り上げ、それぞれの形成しつつある「勢力圏」あるいは「影響圏」を、言説と実態の双方から検討します。第4回ではまず、1979年のイラン革命以来、シーア派のイスラーム政治思想を支えにした独自の体制を構築し、反米を基軸とした外交姿勢を維持してきたイランを取り上げます。イランの「代理勢力」による影響力の行使は、1980年代のレバノンに始まり、2003年のイラク戦争後はイラク南部に、そして「アラブの春」以後はシリアやイエメンにも拡大しています。それを「シーア派の孤」として、イランの覇権主義として警戒するサウジアラビアなど湾岸アラブ産油国との対立を招いています。イランの台頭の内実と、イランを軸とした勢力がサウジアラビアなど対抗勢力と取り結ぶ関係を解読していきます。 ・ぶつかり合う「勢力圏」-1(担当教員:小泉悠)  第4回からは、ロシアが考える旧ソ連の「勢力圏」がその生きがいとどのように相互作用しているのかについて考えていきます。まず取り上げるのは、トルコとの関わりです。ロシアの「勢力圏」はその南方において、かつてのオスマン帝国領と重なり合っています。この結果、現在のロシアの旧ソ連政策は様々な場面でトルコの存在感を考慮せざるを得なくなりました。  しかし、これは古典的な勢力圏争いのアナロジーとしては理解できない側面を多々含んでいます。2014年のウクライナ危機以降、ロシアはトルコとの関係強化を進め、近年ではこれが軍事分野にも及んできたことで米国とトルコの関係は大きな波乱に見舞われることになりました。他方、ロシアとトルコは南カフカス、中東、北アフリカなどでそれぞれ対立する勢力を支援しあい、一種の代理戦争が展開されてきました。このような、協調と対立の双方が混在する複雑な関係性を第4回では見ていきます。 第5回(2021/5/12 3-4限) ・トルコと「新オスマン主義」(担当教員:池内恵)  第5回ではトルコとその地域政治・介入政策を取り上げます。トルコは中東地域の諸国の中で、天然資源には乏しいものの、相対的に発展した経済構造と、有力で大型の軍・軍需産業を擁しており、NATOの一員としての欧米諸国との軍事同盟、EUと事実上の経済統合を深める関係にあることで、優位性を持っています。「アラブの春」以後、このトルコが、かつてのオスマン帝国の版図の一部を回復しようと目指すかのような、対外介入路線を強めています。リビア、シリア、カタール、ソマリア、スーダン等、トルコの介入の及ぶ対象地域を特定し、歴史的経緯や、それらの地域における政治的分裂や、そこで生じてきた紛争にどのようにトルコが関与しているか、UAEやサウジやイランやエジプトなど、競合する介入勢力との関係も含めて考察します。 ・ぶつかり合う「勢力圏」-2(担当教員:小泉悠)  第4回に続き、第5回では引き続き勢力圏間の衝突について見ていきます。第5回で焦点を当てるのは旧ソ連の欧州部ですが、ここにはバルト三国からウクライナなどの南東ヨーロッパ、そして南カフカスが含まれます。これらはEU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)の拡大を巡ってロシアが激しい政治的綱引きを繰り広げてきた地域であり、実際に軍事紛争や危機が頻発してきました。  では、そこで焦点となってきたのは何であり、ロシアはどのような手法を用いて「西側」との角逐を展開しているのか。近年「ハイブリッド戦争」として知られるようになった非軍事的闘争のあり方も含めて、ロシアと「西側」の関係性について学びます。 第6回(2021/5/19 3-4限) ・イスラエル:中東政治の新しい中軸(担当教員:池内恵)  イスラエルは建国以来、幾度ものアラブ諸国との戦争に勝ち、その存在を維持してきたものの、その正統性には中東各地の敵対勢力から長く異論が突きつけられてきました。近年、イスラエルの中東における正統性の高まりと、同盟勢力の獲得が目立ちます。イスラエルは、近代国家設立以来のアラブ・イスラエル紛争の桎梏を払拭し、むしろイランとトルコに対抗する、イスラエル・アラブ諸国の連合の形成の途上にあるとも見られます。米トランプ政権の仲介による「アブラハム合意」の内実と意義、その今後の展開を第6回では議論していきます。 ・ぶつかり合う「勢力圏」-3(担当教員:小泉悠)  第6回では中国とロシアの勢力圏の関わり合いを取り上げます。米国に次ぐ世界第二位の超大国となった中国は、中央アジアを経て欧州へと至る「一帯一路」構想や北極圏への進出を通じ、ロシアの勢力圏で大きな存在感を得るようになりました。ロシアはこうした動きに懸念を示しつつ、同時に中国との関係強化にも動いています。ロシアにとって中国とはどのような存在なのか、そして両国関係の今後はどのようなものとなっていくのかがここでは焦点であり、この点を踏み台にして日本の対外政策についても考えていきます。 第7回(2021/5/26 3-4限) ・中東をめぐる国際政治(担当教員:池内恵)  中東は、1990年代初頭の冷戦構造の消滅以後、国際政治の主要な「対象」となり「焦点」となってきました。現在を生きている世界の市民はいずれも、何らかの形で、知らずのうちにであっても、中東を最大の課題の一つ、あるいは主要な危機の震源とする国際政治の構造の中に生きてきました。アジアに経済そして外交安全保障問題の主要な課題が移動し、米中対立が国際政治の主要な対立軸となり激化する現在、中東と中心とした国際政治は過去のものとなったのでしょうか。中東は、米中関係やインド太平洋地域を中心に展開する新たな国際政治の枠組みの中で、どのような位置づけと役割を持っていくのでしょうか。そこに日本はどう関与していくのでしょうか。また、本講義で論じられてきたロシア、さらに中国は、中東地域にどのように関与していくと考えられるのでしょうか。第7回では、今まさに生じつつある変動を追い、将来を見通します。 ・グローバル・スケールで見た旧ソ連空間(担当教員:小泉悠)  本講義の締めくくりとなる第7回は、以上で論じたことをグローバルなスケールに位置付けて総括します。冷戦期が米ソ二極秩序の時代、冷戦後の世界が米国を中心とする単独秩序の時代であったとするならば、2020年代は多極世界の到来によって特徴づけられるでしょう。  しかし、この多極世界は明確な秩序を欠いています。政治・経済・軍事といった諸指標で米国は依然、世界最強の地位に留まっていますが、その優位は次第に相対化され、様々な勢力間の国益やイデオロギーの相剋が激しく展開されるようになってきました。このような状況下において、ロシアとその周辺に広がる旧ソ連地域にはどのような影響が及ぶのか。逆に旧ソ連地域での趨勢は世界に何をもたらすのか。  第7回ではこれらの論点について、パワーに着目した「大国間競争」とイデオロギーに着目した「体制間競争」という観点から論じ、併せて本講義全体を総括します。
成績評価方法
最終回にレポート(8000字程度)の提出を義務づける。
履修上の注意
指示しない