第1部 現代経済の二つの起源と二つの性格
担当:小野塚知二
現代経済を歴史として見た場合、そこには二つの起源があり、また、現代経済は政策思想史的には容易には調和しない二つの性格を帯びています。現代経済の二つの起源と二つの性格をそれぞれ概観したうえで、両者の関係について考察し、また、それらがヨーロッパ統合史にいかに反映しているか考えてみることにしましょう。
第1回 (4月8日)二つの起源(1):介入的自由主義と分断されたグローバル経済
現代経済は、近代の経済を特徴付けた「古典的自由主義」の社会設計(それが決して夜警国家ではなかったことは詳述します)の不可能性が判明したあとに、介入的自由主義の原理が経済・社会・生活のさまざまな面に浸透することから始まります。また、現代経済は世界システム的視点から見るなら、近代末期のグローバル経済(現在、われわれが「国際経済」として認識しているものの原型)が第一次世界大戦によって分断されたことに起源をもちます。まず、第1回では、現代経済の始まり方に注目して、現代の特質を考えます。
第2回 (4月11日 木)二つの起源(2):二つの起源の統合:第一次世界大戦と1930年代
介入的自由主義と分断されたグローバル経済という二つの起源はそれぞれ独立の現象ですが、それらは第一次世界大戦期以降は否応なく結び付けられた現象として展開しました。二つの起源がいかに結合され、その結果いかなる経済社会が出現したのかを概観するとともに、しかし、そこでも解決されなかった問題は何であり、それが1930年代にどのように露呈したのかに論及します。
第3回 (4月15日)二つの性格:保護と自由
現代経済は一方では、近代から自由(自己選択自己責任による欲望充足)を継承しますが、19世紀末~20世紀初頭に相次いださまざまな発見(「貧困」、「自助の不可能性」等々)を通じて、その前提とされた「強く、たくましい」人間像を社会設計の標準的な人間像としては維持できなくなります。その結果、成立した「弱く、劣った」人間像を前提にした社会は、諸種の保護、幸福への誘導、介入・統制・矯正で特徴付けられるようになります。これら二つの性格が現代経済の中で、国内的にも国際的にも、いかに機能しているのかを考えてみましょう。
第4回 (4月22日)ヨーロッパ統合の経験とアジア・太平洋地域
現代経済の二つの起源に最も強く制約され、また二つの性格を最も強く帯びたのは20世紀、殊に第二次世界大戦後のヨーロッパです。ヨーロッパ統合のさまざまな基盤を概観するとともに、それをBIS、国連、IMF、IBRD、ITO(GATT)、WTOなどの国際調整の取り決めや機構と比較して、ヨーロッパの経験がアジア・太平洋地域にとってもつ意味を考えてみましょう。なお、この数年、話題となっているEU離脱やEU懐疑派の動きも簡単に概観します。そこから立ち現れるのは、第一次世界大戦開戦前(第1回で詳説)に広く観察されたのと同様な「被害者意識に彩られたナショナリズム」の作用です。
[参考文献]
小野塚知二『経済史:いまを知り、未来を生きるために』有斐閣、2018年.
小野塚知二編著『第一次世界大戦開戦原因の再検討 ―国際分業と民衆心理― 』岩波書店、2014年.
小野塚知二「日本の社会政策の目的合理性と人間観 ―政策思想史の視点から― 」『社会政策』第3巻第1号、2011年6月、pp.28-40.
小野塚知二編著『自由と公共性 ―介入的自由主義とその思想的起点― 』日本経済評論社、2009年.
藤瀬浩司『資本主義世界の成立』ミネルヴァ書房、1980年.
遠藤乾編『ヨーロッパ統合史』名古屋大学出版会、2008年.
第2部 現代世界経済の制度と主体
担当:丸川知雄
4回の講義で、21世紀の世界経済の制度的な枠組みとそこで活動する企業について概観します。
第5回(5月13日) 世界貿易体制と世界経済の変化
GATTとWTOに代表される現在の世界貿易の制度について解説します。WTOのもとで単にモノの貿易の自由化が進められただけでなく、国境を越えたサービス業の展開も活発になりました。WTOでの自由化に飽き足らず、EUやNAFTAなど地域貿易協定によってさらに自由化を推進する流れもありました。ところが近年はイギリスのEU離脱、アメリカでのトランプ大統領の誕生とTPPからの離脱など自由化に逆行する動きが相次いでいます。これまで政府間で枠組を作って経済統合を進める方式が広がっていましたが、中国の「一帯一路」構想はインフラ作りで統合を進めるものです。底流には先進国中心だった世界貿易の構造が、中国の台頭によって大きく変化しつつあることがあります。
第6回(5月20日) 地球環境問題と再生可能エネルギー
世界経済を制約する問題として近年重要性を増している地球温暖化問題について、それを抑制するための国際的な制度、二酸化炭素の排出を抑えるための制度(排出権取引やCDM)、さらに地球温暖化に対抗するための鍵となる技術である再生可能エネルギーの現状について説明します。
第7回(5月27日) 多国籍企業論
世界経済を動かす大きな存在となった多国籍企業について、その発展に関する理論、イノベーションのプロセスの比較、中国など新興国の多国籍企業について解説します。
第8回(6月10日) 開発主義と国家資本
経済開発を速めるために国有企業を設立したことのある国は、日本をはじめとして世界に少なからずあります。国有企業の経営が次第に悪化して、経済開発の担い手から国の重荷に変わってしまうケースが多いのですが、それでも21世紀になっても世界経済のなかで国有企業は依然大きな存在感を放っています。東アジアでの開発主義と国有企業の流れを概観し、中国、シンガポール、ロシアの国有企業の現状について説明します。
【参考文献】
末廣昭・田島俊雄・丸川知雄編『中国・新興国ネクサス』東京大学出版会、2018年
予備日 6月17日
第3部 近代における国家・経済・帝国
担当:野原慎司
第9回(6月24日):近代における国家と経済Iースコットランドの経験から
1707年に、スコットランドはイングランドと合邦し、独立した国家ではなくなった。近年スコットランドの独立運動が盛り上がりつつあるが、原点はこの時の合邦であった。近代における国家とは何か、そこでの経済の役割を考える。
第10回(7月1日):近代における国家と経済IIー独仏の経験から
18世紀末にフランス革命、19世紀後半にはドイツの国家統一を経験する。それらは、国民国家の形成にとり重要な契機であった。近代における国家を考える上で、国民国家を考えることは必須である。それは経済状態と関連する。
第11回(7月8日):大英帝国の経験I
現代世界における、諸民族の分布は、その少なからぬ部分を、大英帝国による植民地・人の移動に追っている。大英帝国の経験を振り返ることで、現代の世界経済の基礎を把握する。
第12回(7月10日 水):大英帝国の経験II
大英帝国の19世紀後半以降における過程を振り返ることは、現代の世界における資本主義の展開を考える上で重要である。大英帝国という経験が、現代資本主義にどのような影響を与えているかを考える。
予備日 7月22日