第Ⅰ部 法概念論
第1回 法概念論の意義と方法 伝統的な法概念論の認識論的・方法論的前提に対する唯名論的批判とそれへの応答を素材に、法の概念規定の意義・性質・目的・方法について考察する。「法とは何か」を問うことの意味に関するメタ理論的反省が、この問いへの解答自体をいかに規定ないし制約しうるかについて、方法論的自覚の確立を目指す。
第2回 法概念論争の現代的位相1 戦後法哲学の発展に大きな影響を与えたフラー=ハート論争、ハート=ドゥオーキン論争に焦点を置いて、伝統的な法実証主義対自然法論の対立軸を超えた、法実証主義と反法実証主義の論争の現代的地平を明らかにする。
第3回 法概念論争の現代的位相2 ドゥオーキンの法実証主義批判に対する応答として生み出されてきた現代の法実証主義の内的な分化・発展が孕む問題を、排除的法実証主義対包含的法実証主義、記述的法実証主義対規範的法実証主義の対立に焦点を置きつつ考察する。
第4回 法の支配 法の支配の理念に対して向けられてきた根本的な懐疑・批判や、この理念の理解の分裂対立の現状を踏まえて、法の支配の理念の再編・再生の方向を、正義論と法概念論との架橋の仕方の再考を通じて理論的に検討するとともに、司法改革を含む現代日本のシステム改革にとって法の支配がもつ実践的意義についても考察する。
第5回 法解釈と法創造 どこまでが先在する法の解釈適用で、どこからが新たな法の創造なのか、解釈論と立法論との区別はそもそも可能なのか、立法論からも現行法の機械的適用からも区別された創造的解釈なるものはありうるのか、そのような解釈の正当化構造はいかなるものか、かかる法的推論の根本問題を、決定的前提をなす法概念論的問題の解明を通じて考察する。
第6回 法の限界 法と道徳との関係をめぐる法概念論的論議の重要な規範的含意を「法の限界」の問題に即して考察し、リベラリズムと卓越主義との関係、パターナリズムの位置、フェミニズム法理論のディレンマなど、正義論と法概念論の接点に位置する現代思想の理論的諸問題とその実践的含意に照明を当てる。
第7回 遵法義務と抵抗権 「悪法も法か」という法概念論の古典的問題は、法認識と法評価の区別という認識論的問題に還元できない遵法義務の根拠と限界、抵抗権の根拠と限界という実践的問題を孕む。かかる問題に照明を当てて、「法概念論の意義と方法」という初回のテーマへのフィードバックも図りつつ、正義論と法概念論の接合の必要性とその方向性を検討する。
第Ⅱ部 正義論
第8回 正義論の意義と方法 「在るべき法」の指針であると同時に「在る法」の内在的理念でもある正義理念の法哲学にとっての根本的意義を明らかにするとともに、現代哲学・現代思想が突きつける根本的な懐疑・批判に対して正義理念をいかに擁護しうるかを考察する。
第9回 正義概念の規範的核心 対立競合する正義構想(conceptions of justice)に通底する共通の正義概念(the concept of justice)なるものがあるのか、それは空虚な形式を超えた強い規範的実質をもちうるのか、もつとしたら、その実質は何か、それは法実践に対していかなる指導的・批判的統制力をもつのかを考察する。また、対立競合する正義構想に通底する正義概念の意義を公共性概念との関係においてさらに解明する。「公共的正当化」や「公共的理由」の概念と正義概念の内的連関やリベラルな「正義の基底性」の観念と公共性との関係の考察を通じて、共同体論やフェミニズムなど様々な現代の思想傾向からのリベラルな公共性概念に対する批判の妥当性を検討するとともに、公私二元論の批判的再編の方向を探り、法の限界や遵法義務など「法の公共性」に関わる問題へのその含意も明らかにする。
第10回 正義構想の主要類型 効率対公正、効用対権利、自己所有対社会的責任といった基本的な視点の対立軸、集計最大化原理・パレート原理・格差原理など分配基準をめぐる対立軸、さらに厚生アプローチ、資源アプローチ、能力アプローチなど分配対象をめぐって近年浮上してきた新たな対立軸を説明し、競合する主要な正義構想の特質を理解し比較査定するための分析評価能力を磨く。
第11回 分配的正義と市場原理 分配的正義の追求と市場的競争原理の尊重を二律背反的に捉える通念を批判的に再吟味し、両者の相互依存性・相補性を解明することを通じて、分配的正義の原理的問題を制度化方法の問題と有機的に連関させて考察する視座を開く。
第12回 立憲民主主義体制と正義 善き生の諸構想だけでなく正義構想をめぐっても深刻な対立がある現代の多元的社会のための公正な意思決定システムとして、立憲民主主義体制を位置づけると共に、その観点からその在るべき形態を考察し、対立競合する正義の諸構想に通底する正義概念がかかる政治的意思決定システムの公正性を評価する指針として果たす基底的役割を解明する。
第13回 グローバル化と正義 グローバル化が進行する現代においては、正義原理をめぐる意思決定とその実現についても主権国家の枠を超えた形で図られる必要が説かれる反面、かかる正義のグローバル化は超大国の覇権の合理化にすぎないと反発する動きも無視できない影響力をもっている。グローバル化の光と影両面を把握した上で、近年のアジア的価値論やGlobal Justice論などを検討し、グローバル化時代における正義実現システムのあり方を考察する。
第14回 試験