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最終更新日:2024年4月22日
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アジア政治外交史
この講義では、今日「東アジア」と呼ばれる地域の政治社会の成り立ちや国際関係の曲折、そしてナショナリズムの成立を扱うことにより、今日に至るまでの各国ごとの国家建設における問題点・歴史的課題を理解するとともに、いわゆる「歴史認識」をめぐる問題がどのような背景から生じたのかを、前近代からの非常に長い国際関係を踏まえて理解出来るようになることを目指す。
世界を見回すと、どの文明圏・文化的世界もそうなのかも知れないが、とりわけ「東アジア」という地域では、前近代の時点から漢字・儒学による文明を共有するほどアイデンティティ上の対立が生み出されてきた。一方、「東アジア」の外部から仏教やイスラームなど諸宗教に基づく文明、そして西洋近代の論理が流入した結果、漢字・儒学を核とした文明とのあいだに正負様々な反応が生じ、それが各国の政治史・思想史的展開にも大きな影響を与えている。そして近年、中国が彼ら自身の歴史意識に基づいて、富強のナショナリズムと最先端技術を以て「周辺」を今こそ完全に従属させようとするほど、新疆ウイグル自治区の問題や香港問題に象徴されるように、対立の構図が不可逆的なレベルになったし、そのような体制の内在的問題が、2020年以後新型肺炎の拡大を招き、全世界の政治と経済に甚大な影響を及ぼしている。
ことここに至って、「東アジア」の歴史を取り巻く問題は、日本の国益およびグローバルな問題と直結している。近現代中国(そして、中国と距離をとろうとする少数民族)、日本、琉球=沖縄、韓国、北朝鮮、台湾、香港それぞれの論理を知っておかなければ、容易には消えない対立の構図を俯瞰し、実務を積み重ねることも出来ない時代となった。このような考えに基づいて、「東アジア」の政治社会の歴史的成り立ちに関する学生の皆さんの理解を促進したい。
なお、政治史・政治思想史的分野においては、様々に矛盾する立場・見解が生じた原因と、それらの具体的な展開について、その後現在に至る世界の姿に照らしてなるべく整合的に説明されるべきである。しかし、そのことは完全無欠で純粋な価値中立ということを意味しないし、そもそもそのような人間は存在し得ない。あらゆる歴史と思想は、それを語る個人の思想遍歴と切り離し得ないし、そのような自覚に基づいて、より整合的で客観的な説明を求めるものであろう。したがって、今日「東アジア」をめぐる情勢がかつてなく尖鋭になりつつある中、10代の学校教育で日本国憲法の理想と1970〜80年代の平和主義教育の影響を受け、その後東大法学部・大学院法学政治学研究科で学んだ担当者が、その価値観と著しく乖離した他国のナショナリズムについて、具体像をなるべく分かりやすく説明するよう努力するものの、積極的な評価や共感を示そうとするものではないことをお断りしておく。そもそも、様々なナショナリズムや思想に対して、「良心」や「進歩」の名において無批判、さらには賛美をしてきた研究者や思想家が、現実との著しい乖離によって後に厳しい批判の対象になり、あるいは思想的意義を失って忘れ去られていったことを深く考えるべきである。
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