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最終更新日:2024年4月1日

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アジア政治外交史

アジア政治外交史
 この講義では、今日「東アジア」と呼ばれる地域の政治社会の成り立ちや国際関係の曲折、そしてナショナリズムの成立を扱うことにより、今日に至るまでの各国ごとの国家建設における問題点・歴史的課題を理解するとともに、いわゆる「歴史認識」をめぐる問題がどのような背景から生じたのかを、前近代からの非常に長い国際関係を踏まえて理解出来るようになることを目指す。
 世界を見回すと、どの文明圏・文化的世界もそうなのかも知れないが、とりわけ「東アジア」という地域では、前近代の時点から漢字・儒学による文明を共有するほどアイデンティティ上の対立が生み出されてきた。一方、「東アジア」の外部から仏教やイスラームなど諸宗教に基づく文明、そして西洋近代の論理が流入した結果、漢字・儒学を核とした文明とのあいだに正負様々な反応が生じ、それが各国の政治史・思想史的展開にも大きな影響を与えている。そして近年、中国が彼ら自身の歴史意識に基づき、富国強兵ナショナリズムと最先端技術を以て「周辺」を今こそ完全に従属させようとしており、その結果、新疆ウイグル自治区の問題や香港問題に象徴されるように、対立の構図が不可逆的なレベルになっているし、そのような体制の内在的問題が、今年に入って新型肺炎問題を惹起し、全世界の政治と経済を激しく動揺させてもいる。
 ことここに至り、「東アジア」の歴史を取り巻く問題は、日本の国益およびグローバルな問題と直結している。近現代中国(そして、中国と距離をとろうとする少数民族)、日本、琉球=沖縄、韓国、北朝鮮、台湾、香港それぞれの論理をバランス良く理解出来なければ、容易には消えない対立や混迷の構図を俯瞰し、実務を積み重ねることも出来ない時代となった。このような立場に基づいて、「東アジア」の政治社会の歴史的成り立ちに関し、学生の皆さんの理解を促進したい。
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時間割/共通科目コード
コース名
教員
学期
時限
0120611
FLA-PS4714L1
アジア政治外交史
平野 聡
A1 A2
月曜3限、木曜1限
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講義使用言語
日本語
単位
4
実務経験のある教員による授業科目
NO
他学部履修
開講所属
法学部
授業計画
本講義では上記の問題意識に照らし、大略以下の内容を扱う予定である。  *「中国」「中華」概念をめぐる諸問題……比較の視座からみた東アジア華夷思想  華夷思想・儒学思想・漢字に基づく政治の基本的発想と展開・矛盾はどのようなものであったのかを、理念型に近い帝国である明のあり方を中心に理解する。 *「周辺」への視点……華夷思想と朝鮮・日本・琉球・ベトナムの自意識形成  漢字・中国文明が流入した日本・朝鮮・越南はなぜ「中国の一部分」になっていないのか。  また、中国文明世界と日本のはざまに立つ琉球は、どのような自意識を保ったのか。  各国・地域それぞれの論理を理解する。 *多文化帝国・清の体制とその変容……満洲人皇帝による支配の歴史的意味  漢語&中国文明圏ではないモンゴル・チベット・新疆ムスリムは、なぜ「中国の一部分」とされるのか。  「漢字文化圏」諸国との比較も交えつつ、近代中国の領域が純粋に権力政治の産物であることを理解する。 *西洋・日本の脅威と19世紀清国の他者認識……帝国主義・西洋近代への「抵抗」か?「共鳴」か? *帝国主義の時代における近代東アジア地域と「国民国家・中国」の創出  ……清末民初エリートにおける「忘れ得ぬ他者」明治日本の影響を中心に *双子の兄弟・中国国民党と中国共産党……改良主義の挫折と「開明専制」によるエリート支配の絶対化 *中国共産党における共産主義思想とナショナリズムの葛藤 *「国家を廃絶する」マルクス・レーニン主義の国家主義的変質と深刻な後遺症 *唯物論と新儒学が融合した「中国の特色ある社会主義」「中華民族の偉大な復興」へ   旧い文明が行き詰まり、西洋や日本に圧迫される中から生成された中国近現代史は「抵抗・自強の歴史」であったかも知れない。しかしその過程で、西洋や日本から近代思想を吸収し、中国なりに解釈を加えたことで、様々な政治的混乱や課題が蓄積されたことを理解する。 *中国ナショナリズムと少数民族問題の起源……「五族」体制から「中華民族」国家への変質 *朝鮮半島の近現代と「文明」の模索……中国・西洋・日本・朝鮮式「主体」? *台湾の近現代……「棄民の島」「南進の拠点」「大陸奪還の基地」から「海洋文明の中心」へ *香港の近現代……中国の混乱から逃れて来た人々の自由な港は、如何にして「香港本土」意識を獲得したのか。  これら「中国の周辺」とされる国・地域の問題は、しばしば日本という存在を強く意識せざるを得ない近現代史の中で、「中国」という存在との距離をどうとるのか、あるいは中国がこれらの国・地域をどう包摂するのか、という複雑な力学の結果生じたものである。そこで、それぞれの事情の独自性にも配慮しながら、総合的な理解を目指すことにする。
授業の方法
一般的な講義である。 終了後の質疑応答は《大いに》歓迎するので、奮って問題関心をぶつけられたい。 また、出席カードに質問を書いて頂いても良い。 質疑応答の内容を、授業中で紹介・解説することもある。
成績評価方法
日常の出席(毎回出席カードを提出)および定期試験による。 白紙のノート・紙類に肉筆で書き込んだもののみ持ち込み可の予定。そのコピーや、PCに入力した内容をプリントアウトしたもの、配付資料に書き込みをしたものは持ち込み不可。 但し、バリアフリーに関連して、PCでノートをとることを許可された学生には配慮する。
教科書
毎回の講義でレジュメ・史料和訳・参考文献リストを配布する。
参考書
担当者が一般向けに刊行した以下の書籍を参考にして頂いても良い (本書に沿って講義することを意味しない)。  『大清帝国と中華の混迷(興亡の歴史17)』講談社、2007年。  『「反日」中国の文明史』ちくま新書、2014年。 近代国際関係をめぐる一般論として、主権国家・国際法に関する素養は最低限必要である。 法学部の国際法講義に出席したことのない他学部生は、例えば下記のテキストに目を通しておくと良い。  大沼保昭『国際法』ちくま新書、2018年。 また例えば、以下のような本を各自の関心に沿って事前に目を通しておくと、講義の理解も促進されるであろう。 *儒学を体系的にどのようにみれば理解すれば良いか?  小島毅『儒教の歴史(宗教の世界史2)』山川出版社、2017年。 *伝統的な外交秩序が近代外交によってどう変質し、20世紀を通じた外交関係につながるのか?  川島真・服部龍二『東アジア国際政治史』名古屋大学出版会、2007年。 *ナショナリズムとはそもそもどのような原理なのか?  ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』リブロポート、1987年。 *日本と東アジアの伝統と近代の関係をどう考えれば良いのか?  渡辺浩『日本政治思想史[十七〜十九世紀]』東京大学出版会、2010年。 *朝鮮・韓国の自己認識と周辺観はどのようなものか?  小倉紀蔵『朝鮮思想全史』ちくま新書、2017年。 *中国ナショナリズムにおける他者への態度をどう考えれば良いのか?  坂元ひろ子『中国民族主義の神話 人種・身体・ジェンダー』岩波書店、2004年。  吉澤誠一郎『愛国主義の創成 ナショナリズムから近代中国をみる』岩波書店、2003年。 *現代中国において伝統と近代の関係はどのように考えられているのか?  蘇暁康・王魯湘『河殤 中華文明の悲壮な衰退と困難な再建』弘文堂、1989年。 *中国近代の歴史意識をうけて現実の中国政治はどう組み立てられているのか?  毛里和子『現代中国政治』名古屋大学出版会、2004年。  高原明生・丸川知雄・伊藤亜聖編『社会人のための現代中国講義』東京大学出版会、2014年。  川島真・小嶋華津子編著『よくわかる現代中国政治』ミネルヴァ書房、2020年。
履修上の注意
講義以外にも積極的に新聞雑誌・あるいは参考書や関連書籍を参照する時間を確保し、歴史的な対立の根幹にある「正しさの衝突」について、感覚を養うと良い。現実に起こっている問題と歴史との往復・対話をする訓練を日常的に積み重ねると良い。