芸術における最大のパラドクスは、常識的にみて(?)芸術とは言いがたい産物が、アカデミズム芸術の最高峰を占めているという事実である。たとえば科学では、心霊研究のような疑似科学がアカデミズムの中心を占めることは決してない。対して芸術では、「芸術鑑賞」がまともに成り立たないレディメイドや一部のパフォーマンスアートのような、「疑似芸術」的な印象の強いものがハイアートの中核を占めることができている。その理由は何だろうか。
その答えを「人間原理anthropic principle」に求めようというのが、本講義の趣旨である。コンテンツで「人間原理」を明示的に語り、メディアでも疑似芸術的な提示の仕方をした稀有な事例として、メディアミックス『涼宮ハルヒの憂鬱』が挙げられる。そこでいかにパラドクシカルな実験が実行され、変則的な受容のされ方をしたかを追跡しながら、芸術という文化が秘める多層構造を明確化させよう。
分析哲学は、さまざまな「パラドクス」をどのくらいうまく処理できるか、という「実験」によって哲学説の良否を判定するという、きわめてシンプルな方法に則って実践される哲学である。本講義は、分析哲学的なアプローチを突き詰めたときに、芸術史のパラドクスがどのように解釈可能になってくるかを試論的に粗描する。
第1週 娯楽芸術で脳トレを強いられることの驚愕
第2週 帰納的外挿の失敗による覚醒
第3週 方法論の対立 サイエンス・ウォーズの余震
第4週 人間原理での解決 観測選択効果
第5週 美と真理の関係 フィクションとシミュレーション
第6週 事前確率の高い芸術史
第7週 意味論的意図と範疇的意図 その1 ベイズ的推論
第8週 意味論的意図と範疇的意図 その2 フレーミング
第9週 内在主義と外在主義(芸術の定義)
第10週 内在主義と外在主義(ポストモダニズム芸術の劇場性)
第11週 時間ループというテンプレートへの非正統的解釈