分析哲学は高度に抽象的な理論化を旨とするので、個別事例の研究には不向きと思われがちである。本当にそうだろうか。分析哲学に特有の手法を駆使することで、特定の芸術事例がいかに面白い様相をあらわにするか、いくつかの実演を試みる。
2018年1月15日と2月22日に、Twitterのトレンド・急上昇ワードランキングで、「エンドレスエイト」が1位になった。放送から9年も経ってなぜそうなったかというと、1月に放送開始したアニメ『ポプテピピック』が「エンドレスエイト」のパロディと受け取られたのが原因であった。この現象は、過去の作品の「伝説化」の好例であり、もっと一般的には、芸術形式(ジャンル、カテゴリ)の母集団の拡大と相対的に既成作品の解釈・評価が変化してゆく力学の一事例と言える。
しかし、ポプテピピックが露骨にエンドレスエイトを模倣し始めた2月はともかく、1月の時点ですでに広くエンドレスエイトが連想されたのはなぜだろうか。その2つのアニメは本当に類似していたのだろうか。芸術という複雑な文化現象を理解するにあたって、「説明を要する現象」は格好の素材になる。「なぜこういうことが起きたのか」という疑問を誘発する諸事例をいくつか取り上げながら、個別事例の研究に対して分析哲学の道具立てがどの程度、そしてどのように通用するのかを検証してゆく。
第1週 驚き(パラドクス)の発見、構成 なぜこのような作品が許されたのか?
第2週 論点の列挙 側面の析出 問題視される要因はいくつあるのか?
第3週 方法的な自覚 フィードバック・ループ 批評的アプローチへの牽制
第4週 科学理論の構造的適用 人間原理
第5週 抽象化(枝葉の消去) 本質主義 「正しい解釈・正しい演出」への固執
第6週 論理分析と想像力 思考実験
第7週 隠れた構造の発見 確率的論証
第8週 高階論理・対象化(メタ化) 再解釈の必要条件から十分条件へ
第9週 バックラッシュ 芸術のポストモダン定義から進化論的定義(美的定義)へ
第10週 作品解釈と心の哲学 自我体験、表象説
第11週 反証主義 対立仮説の提示 自己反駁による改善